<19>姉妹の喧嘩3
「うん。よし、アリスの雰囲気を見るに、誤解も解けた様だね。そしたら、1つ質問をしたいのだが、いいかな?
アリスは、自分の王位継承権を覚えているかい?」
「いきなりどうしたのよ?
……まぁいいわ。継承権なら5番目よ」
突拍子もない話に、不思議がりながらも答えるあたり、根はかなり良い子なのだろう。……我侭と言うよりは、ツンデレの可能性が出てきた。
ロリ系のツンデレ金髪美少女、……うん、悪くない。
「5番は、去年までの話だね。
王が亡くなり、兄達から殺害されそうになった第3王子、オルグ兄さんが隣国へ逃げたことで、1つあがってるんだ」
「へぇー、そうだったんだ。知らなかったわ……。
けど、それがどうしたのよ。アリスの王位継承なんて、兄達やサラ姉が居るから、飾りのような物じゃない」
「たしかにそうなんだが、ここで、ボクが兄達に殺害される、もしくは国外逃亡したとしよう。
繰り上がって第3位になったアリスを兄達はどうすると思う?」
前々回の3位が排除、前回の3位が排除、じゃぁ、今回の3位は?
「…………オルグ兄、サラ姉に続いて、アリスも狙われるってこと?」
悪い想像をしたのだろう、アリスの顔に恐怖の文字が写りこむ。
「そういうことだね。いや、むしろ、ボクと一緒にクーデターを企てたと言われて、今回の騒動で一緒に処刑される可能性もあると思うよ。
そう考えると、クーデターにアリスが加わってるって話も、兄達が流したものかもしれないね」
これ幸いと、兄達が噂に便乗してくる可能性は充分にある。
「…………けど、殺されない可能性もあるでしょ?」
「そうだね。たしかに、その可能性にかけるのもありだと思うよ。けど、命をかけれるほど、兄達を信用できるかい?」
「…………」
「まぁ、かと言って、ボクを信用しろとは言えないけどね。
ゆえに、1つ、提案があるんだ」
そう言うと、サラは意味ありげに間をあけて、今回の本題に入る。
「勇者である彼を中心に、同盟を結ぼうじゃないか」
「……へ?」
まったく予想していなかったのだろう。
何せ、クーデターをやめさせに来たはずが、参加させられそうになっているのだ。驚くのも無理はない。
「立ち居地は同じ正妻で良いよ。望むのなら、契約の魔法も実行しよう。
ちなみにだが、彼の妹であるクロエも、ボク達と同様の立場になるから、その点も了承して欲しい」
彼女を仲間に引き入れることは聞いていたが、またしても初耳の話が飛び出してきた。
俺を中心にだなんて、一切聞いていないぞ?
それに、いつの間にか、俺の妻の座が、交渉の材料に加えられているのは、気のせいか?
「…………すこしだけ、考える時間をもらえないかしら」
話は非常にやっかいを極めている。特に命が絡む問題でもあり、アリスの意見は当然であった。
しかし、サラはその要求に対して、首を横に振る。
「それは出来ない。兄達へ密告されるのが厄介だからね。
それに、ボク達にはあまり時間がないんだ。早めに兄達から逃げなくていけないんだよ」
「うぐ、……それもそうよね」
文句だけ言いに来たつもりが、今じゃ、本当にクーデターの参加を促されている。そして、考える時間もない。
恐らくアリスの頭の中は、混乱でいっぱいだろう。
そんな彼女の視線が行き場を無くし、苦し紛れに俺を睨んだ。そして、あっ、と何に気が付いたような声をあげ、俺の髪をまじまじと見たかと思うと、なぜか、決意の決まった表情を浮かべる。
「……あの勇者は本物なんでしょうね?」
「あぁ、ボクがきっちりと異世界から導いた御方だ。出所はしっかりしているよ」
俺に自覚は無いが、サラにしてみれば、自身満々なようだ。
「……わかったわ。兄達よりも幾分か信用できそうな顔してるし、しょうがないから、アリスも勇者の仲間になってあげるわ。
けど、勘違いしないでしょね、一応なんだから。
なにか、おかしなことがあったら、すぐに同盟破棄してやるんだから、気をつけなさいよね」
こうして、姉妹のケンカは、突然の和睦で決着を見た。
前作の『異世界村長:目標は生き残ること。神は信じない』のラスト部分<67>以降を大幅に変更いたしました。
読んでいただければ嬉しく思います。




