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<3-34> 殲滅作戦


「よし、俺達も行くぞ!!」


「「「おぉおおおおおおおーーー!!!!!」」」


 はいどうもー、春樹です。

 俺はいま、戦場の真ん中に来ております。しかも、俺が仕掛けた戦いです。


「3歩進み、槍を構えろ!!!」


「勇者国だ!! 勇者国の奴らまで現れたぞ!!

 王子をお守りしろ!!」


「隊列を崩すな!! 包囲しろ!! 1匹たりとも逃がすなよ!!」


 悲鳴、叫び、戸惑い、死。

 

 周囲には、怒号が飛び交い、断末魔と呼ぶに相応しい叫び声が響いていた。


 籠城戦とは違う、肉薄した戦争。敵も味方も、人の命が次々と消えて行く。

 酷い臭いが漂い、思わず目を背けたくなる光景が広がっていた。


 コレを俺が引き起こしたかと思えば、表現に苦しむ感情が、底の方から湧き上がってくる。


「……お兄ちゃん。つらいかもしれないけど、お兄ちゃんは総大将なんだから、自信のある表情をしてなきゃだめなんだよ?」


「ハルキの表情1つで勝敗が変わると言っても過言じゃないからね。

 ……これでも王族だからね、キミの気持ちはわかるつもりだよ。無理せず、指令本部へ戻るべきだと提案させてもらうよ」


「……いや、大丈夫だ。心配かけて悪いな。

 ここが正念場だからな。それこそ、総大将が抜けるわけにはいかないよ」


 平和な国で生まれ、戦争なんてテレビの中でしか見たことが無かった俺にとって、目の前に広がる光景は、直視出来る物ではない。


 だが、責任者として、たとえ何も出来なくても、この場から逃げ出す事はすべきではないと、強い感情が訴えてくる。


「ふーん。ダーリンにしては、良い心がけじゃない。

 けど、あんまり動くと守り難いんだから、アリスの後ろでじっとしてなさいよね」


「うん、ハルくん、いい顔になったじゃない。お姉ちゃんも一安心かなー。

 あっ、そうだ。おにぎり持ってきたよ。食べる?」


「……あのね、お姉ちゃん。

 いくら余裕が必要って言っても、さすがに食事は無いと思うよ」


「あらー? そぉなの?」


 逃げたくは無い、けど、つらいことはつらい。 


 そんな俺の感情を察してか、クロエ達がワイワイと声をかけてくれた。どうやらアリスにもわかるくらい、険しい表情をしていたようだ。


「後でもらうよ。……第1王子を捕縛した後でな」


 周囲を取り囲む頼もしい仲間達を眺め、ふーー、っと大きく息を吐き出した。いつまでも、戸惑っている訳にはいかない。


 落ち着け。これは必要な戦いなんだ。いま攻めなきゃ、もっと大勢の人が死ぬことになる。感情に流されるな。

 そう自分に言い聞かせ、戦場に目を向ける。


 第1王子を中心に騎馬に乗った近衛兵が周囲を固め、さらにその周りを歩兵が大きな盾を構えていた。そして、その王子を守る兵に兵に向かって、俺の呼びかけに答えて寝返ってくれた者達が、懸命に襲い掛かっている。


 王子を守る兵が600人。戸惑い、その場に立ち尽くす者が200人。襲い掛かる者が800人。そして、俺の前で銃を構える勇者国の兵が300人。


 多数の引き抜きの結果、王国軍は混乱を極めており、数においても俺達が有利になっていた。


 まぁ、有利になったからこその作戦発動なんだけどさ。

 

「…………頃合いだな。

 サラ。始めようか」


「了解したよ。

 第1陣。撃ち方用意!! …………撃て!!!」

 

 王子を逃がすまいと、U字型に取り囲んだ寝返り部隊。そのU字に蓋をするように、俺達が横一列で穴を塞いでいた。


「第2陣。撃て!!」


 サラの号令により、100丁の銃が一斉に鉛玉を吐き出す。

 第1陣、第2陣、第3陣と、300人が入れ替わりで銃弾を打ち終え、サラの号令が止まった。

 

 それは、玉を打ち尽くしたとか、準備が間に合わなかったとかではない。

 初めから3回の一斉射撃で1度、敵陣営の様子をうかがうことになっていた。

 

 効力や敵方の動きを知りたかったってのもあるが、1番理由は、王子を挟んで反対側を塞ぐ仲間に当たる心配があったからだ。


「効果あり、だな」


「そうだね。さすがは勇者の力ってところだろうね」


 一斉射撃の効果は絶大だった。

 銃弾による効果ももちろんあったが、第2王子との戦闘同様、音が生み出す効果が絶大だった。


 人に恐怖が宿り、馬は暴れ、戦意が削がれる。


 人間も動物であり、未知の巨大な音には嫌でも恐怖心が芽生える。

 敵だけで無く、寝返った味方の動きさえ止めてしまうのだから、その効果は高すぎるとすら言えた。


『勇者国の代表、ハルキだ。責任者を差し出せ。降伏を認める用意がある』


 怒号が爆音によって掻き消され、一時の静けさが漂う戦場に向けて、降伏勧告を行った。

 周囲にカラスを散開させ、手に持たせた魔玉から声を流しているため、戦場のどこに居ても聞こえるはずだ。


 降伏するならそれでよし。

 拒否するなら、アリスの土魔法でお立ち台を作り、撃ち下ろしでの攻撃に切り替える。


 数で劣り、包囲の恐怖にさらされ、未知の攻撃を受ける。降伏もありえるだろう。


 …………なんて、思っていた時が俺にもありました。


 降伏勧告を聞いたであろう第1王子が、突然俺の方を指さした。

 彼の周囲を飛んでいたカラスが、その声を拾う。


「あそこだ!! 全速力で突っ込め!!」 

 

 俺達の方に突っ込んでくる100体近い馬達。

 

 道路を横断していたら、突然、道を埋めつくだけの軽自動車が走ってきた。そんな感じだ。


 あまりの迫力に、思考が追い付かない。


「第1陣。撃て!!!」


 俺の混乱をしり目に、サラが命令を叫ぶ。その直後に、少しだけばらけた破裂音が響いた。


 先頭を走っていた馬が倒れ、後続が避けきれずに躓く。音に驚き、暴れる馬も少なくない。


 だが、何事も無かったかのように、ただ真っすぐと突っ込んでくる馬もあった。


「第2陣。撃て!!!」


 続けて放たれる100発の弾丸。それでもなお、馬の前進はとまらない。


 数を減らしながらも、急速に俺達の方へと近づいていた。


「斉射中止。防御態勢!!!

 盾を構えろ!! 火を燃やせ!!」


 第2陣と第3陣の入れ替わり。そのタイミングで、騎馬の戦闘が目前まで迫った。

 どう考えても、第3陣の発射は間に合わない。

 

 銃を構えていた兵達は、背負っていた盾を前方へと突き出し、腰落とす。生活魔法が使える者は、出来る限界量の炎を前方に出現させた。

 

 生活魔法レベルであっても、数百人が一斉に使えば、それなりに大きな炎となる。その影響で、何体かの馬が足を止めたり、暴れたりするものの、すべての騎馬を止めることは出来なかった。


「来なさい、ロックウォール。

 マジでやばいんだから、全力で仕事しなさいよね!!」 


 どうする? 俺は何が出来る? そんなことを考え、出ない答えを探し求めていた俺の目の視界を一瞬にして土が覆った。

 

 アリスが魔法を発動したようで、俺、アリス、クロエ、サラ、ミリア、ノア、俺達だけの周りを覆うように、身長と同じくらいの土の壁が出現していた。


「っ!! アリス!!」


 そして俺の前方にいたアリスが、突然、崩れ落ちるかのように倒れる。


 とっさに受け止めたものの、その勢いを抑えきれずに、しりもちをついた。


「…………、息はしてる」


 顔は真っ青、意識を失っているものの、呼吸だけは正常だった。おそらく、許容量を超えた魔法を使ったために、意識を失ったのだろう。


 地面に寝かせるか? 回復体位? 暖めた方がいいのか? MPを回復ってどうやって?


 などといった考えが、ぐるぐるとめぐる中で、前方から、壁の向こう側から声がした。 


「飛べ!!」


 雄々しく凛とした声。


 直接聞くのは初めてだが、何度も盗聴したからわかる。第1王子、スバルの声だ。

 

 視界に影が差し、ふと顔をあげれば、巨大な馬の横腹があった。


 アリスが限界を超えてまで発動した魔法の壁を飛び越え、優雅に飛び去るその背中には、ひと際贅を凝らした装備に身を包んだ若い男の姿。


 何度もカラスの目で確認した、第1王子の姿がそこにあった。


「……まちやがれ!!!」


 馬に跨る後姿に対し、苦し紛れにそう叫んでみても、相手が待つはずもなく。


 第1王子は俺達を飛び越えたスピードを維持したまま、街道を王都方面へと走り去っていった。


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