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<3-20> 市民の日常

「おい、地下の勇者王国の話し、聞いたか?」


「は? 勇者王国?

 それってあれだろ? いつだったか、この国に宣戦布告したって言う集団だろ? 地下ってなんの話しだ?」


 王都にある居酒屋で、2人の男が魔物のから揚げをつまみにりんごジュースを飲んでいた。


 いい歳した男2人がりんごジュースなんてのもおかしな話しではあるが、王位を巡る争いが始まってからは、市民に提供されるアルコール類が制限され、今では居酒屋でも酒が出てこなくなっていた。

 そのため、せめて雰囲気だけでも味わいたいと、通い慣れた居酒屋でジュースを飲んでいるというわけだ。


 お酒が無いならジュースを飲めばいいじゃない。そういうことである。


「いや、それがな。つい最近、敵のトップが王都に単身で乗り込んできたらしいぞ。

 第2王子の軍が躍起になって捕まえようとしたらしいんだが、返り討ちだとよ」


「単身でって、そりゃなんとも面倒な話しだな。それで捕まえれねぇんじゃ、いつまでたっても景気良くならねーじゃねぇか。

 俺達はいつになったら酒を飲めるのかねー」


「だよなー。ほんと、頼りにならねー、連中だよ」


 数年、いや、数ヶ月ほど前であれば、一般市民が王族の悪口など言おうものなら、一瞬にして処刑されて居たのだが、最近では人手不足と言うことで、野放し状態になっていた。


 取り締まるべき兵士達は、長男軍と次男軍に分かれて、お互いへの牽制で忙しく、市民どころでは無い。

 

 だだ、放置されているのが悪口の取り締まりだけなら問題に成らない所か、市民から歓迎の声が上がるだろう。だが、野放しは王族批判だけではない。窃盗や強盗、さらには殺人までもが放置に近い状態になっており、街の治安は悪化の一途を辿っていた。


 無論その原因は、王族の兄弟喧嘩である。


「……それにしても、最近の兵士はぱっとしないな。ここしばらくは負け続けじゃないか?

 おう、おやじ。お摘み追加だ。いつものやつを適当に持ってきてくれ」


 酒と違って、アルコールの入っていないただのジュースでは、飲む量などそれほど多くは無い。そのため、水分よりもつまみばかりが消費されていた。


 そのつまみ達も、平和な頃と比べたら、3倍ほどの値段になっているのだが、金があっても飲めない酒類よりはマシだった。


「それでな。どーやら、勇者国の連中、地下に国を作ってるらしいんだわ。それも、ここ、王都の下にって話だぞ」


「は? 王都って、この下にか?」


「あぁ、どうやら単身で乗り込んで来たのは、その入口を王家の連中に見せることで、敵対心を煽ろうってのが狙いらしいんだわ。

 大通りの防具屋の隣に、でっかい倉庫あるだろ? なんでも、あそこの一角に勇者国への入口が見つかったらしくてな。夜通し、王宮の兵士が見張ってるって話だぞ」


「そりゃすごいねー。建国宣言も宣戦布告のように行うし、勇者国ってのはめちゃくちゃだな。

 けど、あれだ。さすが勇者様ってことか? そう考えると、地下に国ってのも納得かもな」


「だなー。もしかすると、そう思わせるのが狙いかもしれねーぞ?

 俺達は本当に勇者なんだー、ってな」


 実際のところ、勇者国は王都から3日ほど離れた場所にあり、地下に道が繋がってるだけなのだが、何十キロもの距離をトンネルで繋がっているなどとは夢にも思わない市民達は、軍から流れてくる情報の断片をつなぎあわせ、空白を想像で補っていた。

 その結果、勇者国は王都の真下に国を作り、王家と喧嘩している、そんな話が事実であるかのように噂されているのだった。


「ほんと、軍の連中は、なにやってのんかねぇ。酒もらってんだから、精一杯仕事やりやがれってんだ。

 ……あーぁ、俺も、軍入るかな。そしたら、ただで酒飲めるんだろ?」


 半ば冗談、半ば本気でそんなことを口にする。

 酒が飲めなくなって半年ほど。そんな冗談が飛び出すほどに、市民は娯楽の無い生活を強いられていた。


「ふはは、そりゃ名案だな。それで俺達が勇者国を全滅させれば、昔のように酒が飲めるし一石二鳥だな」


「だろー? おっと、そういえば、噂の蔵ってこの先だっけか?

 ちょっと行ってみようぜ」


「おー? そうするか?」


 その日の帰り道、少しばかり遠回りをして噂の倉庫前を通った男達は、噂の半分が真実であることを知ることになる。


 建物の中から鋭利な物で足を切断された者や全身を高温で焼かれた者が運び出される現場を目撃し、男達は無言でその場を立ち去るのだった。

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