<3-14> 米を炊こう 4
「ただいまー。
はい、お兄ちゃんとノアちゃんの」
「わぁー。レインボービートルですね。
ありがとうございます」
「…………おぅ。
……ありがとな」
王都に侵入した俺達は、食べ物をメインに扱う屋台が立ち並ぶエリアへと来ていた。
毎度おなじみ、クロエ様の熱い要望の結果だ。
今の所、目立った問題は起きていないとはいえ、ここは敵の本拠地である。
発見された場合の危険性を考えると、早急に米を探して脱出したほうがー、なんて思ったりもするのだが、クロエには日頃から迷惑を斯けているし、少しぐらいなら良いだろうってことで、買い食いツアーを行うことになった。
……いや、別に飯を前にしたクロエを止めるのが怖いだなんて、全然、これっぽっちも、1μたりとも思って無いぞ。うん。
それに口を大きく開けて、嬉しそうに頬張るクロエを眺めていると、俺も幸せな気分になるし、問題はない。
…………なんて、思っていた時代が俺にもありました。
「ん? お兄ちゃん?」
「…………あ、いや。なんでもない」
曇りの無い笑顔で差し出される1本の串。そこには、色彩豊かな肉が刺さっていた。
拳ほどの大きさの肉が、上から、赤、黄色、緑、青の四種類。
全体にとろとろのタレが掛かっているようで、ふわっと燻製のような良い香りが俺の鼻をくすぐる。
何故、そんな怪しげな肉を手に持つことになったのかと言えば、嬉しそうに食べるクロエを眺めて楽しんでいたのが原因だった。
『ほんと、幸せそうに食べるよな。
それで? どれが1番うまかったんだ?』
『えっとねぇ、うーんと、あの焼き串!!
お兄ちゃんに買ってあげる』
そんな何気ないやり取りの結果だった。
「……ノア。
これは、……一般的に、食べられている、ものなのか?」
「んにゅ? レインボービートルですか?
まぁ、高級食材なので、記念日なんかに食べる人が多いですね」
「タレも美味しかったんだよ」
……まぁ、見た目は華やかだし、晴れの日には良いのかもしれないな。
日本人の感覚からすると、少しばかり色が足りない気がするが、虹に見えなくもない。うん、レインボーだな。レインボー……。
「あー、ノアさん?
レインボー、……なんだって?」
「ビートルですよ。レインボービートル。
あたし、青色が一番すきなんですよね」
そう言いながら、ノアが真っ青な肉に噛み付く。
お祭りの屋台で見かけるカキ氷、ブルーハワイよりも青いそれを咀嚼したノアが、おいしいー、と幸せな笑顔を見せた。
うむ。どうやら聞き間違いでは無いらしい。
ビートル、ビートル、ビートル。えーっと、日本語に訳すと……。
「お兄ちゃん、どうしたの?
食べてくれないの?」
「…………い、いや。食べるよ。うん、食べる食べる。
わー、おいしそうだなー。うん」
手元にはビートルの肉。そして、不安そうに見つめるクロエ。
俺の言動1つで、その大きな瞳から涙が零れ落ちそうな雰囲気だ。
…………そんな顔されたら、食べるしかないよね。
とりあえず、一口だけ行ってみるか。うん、そうしよう。
えーっと、あー、あれだな。青は論外だな。なんの肉だろうと、青は無い。
緑と黄色もなんかちょっとあれだなー。……よし、赤にしよう。
「……い、いただきまーす」
クロエが見守る中、ゆっくりと、たこさんウインナーレベルで赤い肉を口に運ぶ。
口に入れた瞬間に感じたのは、タレの味だった。
全体にかけられたそれは、デミグラスソースのような風味を持ちながらもあっさりとしており、クロエが褒めるだけあって非常に美味しかった。
次に感じたのは、肉の芳醇な香りと流れ出す肉汁。しっかりとした歯ごたえのある肉と、絶品ソースが交じり合い、日本では味わったことの無い幸福感を俺に与えてくれた。
「……うまいな」
「でしょー」
見た目はどう考えてもアウトなんだが、食べてみれば非常に美味しかった。
どうやら色によって味が違っているようで、黄色はレモンのような香りが、緑はミントのような香りが含まれており、飽きることなく、気がつけばすべての肉を胃袋に納めていた。
「さすがクロエだな。
すごく美味かったよ。ありがとな」
「でしょでしょ。
それでね。次にオススメなのが――」
「あ、いや。ちょっとまて。……次はまた今度にしよう。
えっと、あれだ。一箇所にずっと居ると、敵に見つかるかもしれないからな。
だから、次はまた今度ってことで移動するぞ」
次のオススメ、そう聞いた瞬間、反射的にクロエの言葉を遮った。
えーーー、食べたりないよー、なんて言うクロエの手を引き、危険地帯から脱出する。
クロエのオススメは確かに美味しかった。美味しかったのだが、……ビートルは無い。
いったいどんな生物の肉を食べたのか……、気にはなるが知らないほうが幸せだと、直感が訴えてくる。
なんの肉だったのか追求はしない。そう心に誓って、米を売る店へと足を進めた。




