<11>妹の調査 2
2時間程度で目を覚ました彼女に、近くで購入してきた安い服に着替えてもらい、そのついでに露天で購入してきた焼きラビッドベアーを彼女にあげた。
するとどうだろう、脅えていた彼女の雰囲気が一変し、俺に対して笑顔を見せてくれるまでになった。
「このお肉、美味しいね」
やっぱりどの世界でも、ご飯は偉大な物らしい。
「わるいな、そんな服を着せてしまって。
あとでサイズの合う服を買いにいこうか」
俺が購入してきた服は、彼女には小さかった。具体的に言えば胸のラインがくっきりと見えるほど、ピチピチだ。
それに、着せた後で思ったのだが、白のTシャツと短パンでは、彼女の良さが生かしきれてない。
「え? …………いいの?」
「勿論だ。お前に似合う服を買ってやるよ」
「うん、ありがとう。
……私、ご主人様の奴隷になれてよかった」
どうやら、おしゃれも偉大なようだ。
「とりあえず、名前を教えてもらっていいか?
いつまでもお前なんて呼んでるわけにもいかないしな」
「んー?
名前って私の名前?」
なぜか彼女は、不思議な事を聞かれたような顔をし、可愛らしく首を傾げた。
「そうだ。お前の名前だよ。
名前を知らないと不便だからな」
「そぉなの?
奴隷の名前なんて覚えない、って人が多いって聞いてたんだけど。
やっぱり、ご主人様は優しいんだね」
今度はこちらが驚く番だった。
名前を聞くだけで優しいなんて、どうやらこの国の奴隷は、かなり扱いが悪いと見える。
人権など無いのだろう。
「私の名前はクロエだよ」
「クロエか……。
呼び方は、普通にクロエでいいか?」
「うん。クロエって呼んでね、ご主人様」
どうやら、クロエは俺のことをご主人様と呼ぶつもりらしい。
なんとなく、いけないことをしている気分になるが、どうせ後で訂正させるのだし、今は好きに呼ばせておこう。
「……それじゃぁ、早速だが。
クロエに仕事の説明をしよう」
仕事と聞いた瞬間、クロエの顔が赤く染まり、思わずといった感じで、その大きな胸に手を合わせた。
腕で押され、行き場の無くなった彼女の胸は、ぴちぴちのTシャツをさらに押し上げ、今にも零れ落ちそうだ。
もし胸元をボタンでとめるタイプの服だったなら、今頃はボタンが弾け飛んでいることだろう。
…………なぜ俺は、ボタンタイプを買わなかったのだろうか。もし戻れるなら、絶対にボタンすると心に誓った。
「……いや、そういう仕事じゃない。
クロエには、俺の妹になって欲しいんだ」
「…………妹?」
優秀なクロエでも、さすがに意味がわからなかったのだろう。
キョトンとした表情で、首を横に傾げた。
「そうだ。
……具体的に話しても良いんだが、聞いてしまえば後戻り出来なくなる。
さっき、クロエに尋問紛いのことをしたことからわかるように、俺は命を狙われる立場にある。そして、クロエの仕事も、一歩間違えば死が待っているものだ。
ゆえに、クロエには2つの選択肢をやろう。
何も聞かずに奴隷商へ戻るか、俺と共に来るか、どちらかを選んでくれ」
俺の言葉が彼女に届き、庇護欲を掻き立てられるその大きな瞳が、驚きによってさらに開かれた。
「……え? ……断っちゃっても、いいの?」
「あぁ、処罰も何も与えないから、気持ちのままに決めてくれて構わない」
本音を言えば、彼女を奴隷商に返して、新しい者を買うなど、やりたくは無いのだが、彼女の気持ちを無碍には出来なかった。
相手は自分が所有する奴隷であり、一方的に仕事を押し付けることも出来たのだが、俺の心がその行動を良しとしなかったのだ。
奴隷商相手には、悪魔のようなことをしておいて今更ではあるが……。
まぁ、可愛いは正義、そういうことだ。
もしかすると、サラが交友的に俺を仲間にしようとしたのも、こんな気持ちからなのかもしれないな。
そんな気持ちから出た選択肢に対し、クロエは一瞬だけ悩んだ素振りも見せたものの、決意の固まった表情で、俺と行動するといってくれた。
「ご主人様よりも優しい人なんて居ないと思う。それにかっこ良いしね。
ずっとご主人様の側に居させて欲しいな」
そんな感じの評価らしい。
「念のために聞いておくんだが、気を悪くしないでほしい。
クロエは、頼る人、助けてくれそうな人は居ないんだな?」
「うん。居たら奴隷になんてなっていないよ」
「そうだよな。
わかった。それじゃぁ、これからよろしく頼む」
こうして、ぼっちな2人にぼっちなクロエが仲間に加わった。




