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<3-12> 米を炊こう 2

「兄様。大丈夫ですか?

 ちょっとだけ休憩にしますか?」


「ふぇ? お兄ちゃん、疲れちゃった?」


「……いや、大丈夫だ。

 これでも少しは鍛えたからな。もう少しだけなら大丈夫だ。

 ……大丈夫なんだけど、……休憩したいなら、してもいいんだよ?」


「……ふふ。そうですね。休憩にしましょうか」


「はーい。私、果物でも探してくる」


 勇者、つまり国のトップである俺は、ついに本拠地であるダンジョンを追い出され、森の中を歩いていた。


 事の始まりは、昨日の夜にさかのぼる。


 ご飯のような物を完食した俺は、仕事の進行具合をチェックするという、最重要な仕事に取り組んだ後で、風呂に入り、自室でうとうとしていた。


 いやー、ほんと、責任者の仕事って大変だよねー。うん。

 ……だって、どこに行っても、ここは大丈夫ですって言うんだもの。


 居場所を見つけるのが、すっごい大変。


 あれ? なんだろう。ご飯を食べたときとは違う感じの涙が……。


「ハルキ。居るかな?

 ちょっと話があるんだ。少しだけ、お邪魔させてもらっても構わないかい?」


 そんな無駄な時間を過ごしていると、扉の向こうからサラの声が飛んできた。


「あ、あぁ。ちょっとだけ待ってくれ。

 …………いいぞ」


 慌てて目元を拭い、声をかけると、サラを先頭に、クロエ、アリス、ミリア、ノア。いつものメンバー全員が、ぞろぞろと部屋に入ってきた。

 そしてなぜか、みんなパジャマ姿だった。


 全員がフード付きの水玉パジャマだ。


 これからは忙しくなることが予想されるので、すこしでも仕事の効率を上げる必要があるからと、俺が皆にプレゼントしたものだ。


 みんなそれぞれに色が違って、サラが青、クロエが緑、アリスが黄色で、ミリアがオレンジ、ノアがピンクだ。


 ちなみに、ノアの魔法で作ってもらった物で、睡眠効率アップの魔法がかけられているため、性能は折り紙つきだ。

 そして、見た目は俺の趣味全開だ!! いやー、いいね。うん。


「いきなり訪ねてきて悪かったね」


「いや、問題ないよ。みんなの可愛いパジャマ姿も見れたからな。

 えーっと、適当に場所を見つけて座ってくれ」


 みんなの表情を見る限り、パジャマの御披露目会って訳じゃないだろう。

 俺に促されるまま、全員がペタンと円を描くように床に座った。

 

 あ、サラさん? パジャマの下から綺麗なお腹がチラッと見えてますよ?

 あっ、見せてくれてるんですね? ありがとうございます。


「さっそくなんだけど、少し質問させてもらうよ。

 ……キミは昼間、米を食べて泣いたそうだね?


「ふぶぐっ!!

 …………あ、はい。そうです。その通りでございます」


 視線をノアに移すと、まるで怒られているかのように、ノアが俯いた。

 どうやら、ノア経由でみんなに昼間の話しが伝わったらしい。


 ……これはあれだな。

 ドッグフードを食べて泣いちゃった者を追求しようの会だな……。


「あの米を食べてみてわかったよ。あれは確かに食用じゃなかった。

 みんなの忠告を聞かなくてごめんな」


 ぱさぱさで、苦くて、臭いもある。

 みんなが餌用、糊用って言う意味もわかった。


 貴族用の高級品があれなら、家畜用の物は、本当に酷い味なんだと思う。


 そんな俺の心からの謝罪に対して、サラが慌てたように否定の言葉を口にする。


「いや、食べたことについて、どうこう言うつもりは無いんだ。

 食べているときのキミは、本当に辛そうだったって話だからね」


 おぉう。やっぱり酷い顔をしていたのか……。


「聞きたいことは、3つだね。

 まず一つ目。あの米は、キミの言うところのお米様とは、見た目は一緒でも味が違った。その推測に間違いは無いかな?」


「あぁ、その通りだ」


「そうか……。

 それじゃぁ、二つ目、なんだが……。

 …………もし、キミが思い描く米、いや、お米様を食べれるとしたら、キミはどうする?」


 っ!!!! え? 日本のお米が?

 ご飯が食えるの!?


「どこで食べれる!?」


「…………王都、だね」


 王都か!! ……おうと?


 ……王都。…………敵の本拠地、か。


「……そうか。

 まぁ、希望があるってわかっただけでも――」


「三つ目の質問なんだが。

 お米様は、キミにとって、思い入れの強い物だと思ったのだが、間違えてないかい?」


「……そうだな。俺達の国では、みんなが毎日食べてたからな。

 言うなれば俺達の神だと言っても良いくらいだな。

 けど、あれだな。さすがに王都まで食べに行く――」


「いや。ボクは、……違うね。ボク達は、キミを王都に送り出そうと思うんだ」


 うぇ? うん? はい? え?

 

「確かに危険はあるんだ。

 だけど、不可能じゃない。それに、一度手に入れてしまえば、半永久的に食べることが出来る」


 半永久的に……。


「…………いや、けどな――」


「キミは自覚してないかも知れないけど、キミって実は感情が表情に出やすいんだよ。

 作戦はボク達で考えた。ここの建設計画も責任をもって進めるよ。


 ボク達のために、キミは色々と手助けをしてくれた。

 無理やりこちらの世界に呼び出したボクが言えた言葉じゃないけど、ここが少しでもキミにとって住みやすい環境であってほしいんだ。


 キミの本心を言ってくれないかい?

 誰に迷惑をかけるとか、そんな事は気にしないでさ」


 …………。


「……ここは、俺が居なくても、大丈夫なんだな?」


「あぁ、キミの計画は皆が理解したよ。

 1週間くらいなら、キミが居なくても大丈夫だね」


「…………わかった。

 お米を探してくるよ」


 そういうことになった。


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