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<3-4>崩れ去る村 2

お待たせしました。再開させていただきます。

 自称勇者国の一行に村人の半数近くが連れ去られてから、3日をかぞえた昼のこと。

 

 村長や村の相談役といった年寄り達が、村長家の縁側でお茶を啜り、世間話に花を咲かせていた。


「王位を巡っての戦いのぉ。

 いやはや、争いばかりで生き難い時代になりましたなぁ」


「ほほほ、何を今更いうておるんじゃ。ワシ等の時代とそう変わらんて。

 

 あの頃も、ようやく戦争が終わったかと思えば、すぐ次の戦争だったじゃろ?

 変わったとすれば、時代じゃなく、わしら、じゃろうな」


「そうだのぉ、今思い出しても良く生き残ったもんじゃ。

 まぁ、亡くした者も多いがのぉ……。

 それにしても、あの頃から比べれば、みんな丸くなったわい」


 お金のため、生活のため、そして出世のためにと、手柄を求めて戦場を必死に駆け回った彼等も歳をとり、子や孫、村の安全へと、その希望が変化していた。


 背負うものが増え、守るものが増え、あの頃の無謀な夢は、手に入れた者の代償としてすでに無くなっている。


 自分が歩んできた道は、果たして正解だったのか。それは年寄りと呼ばれる年齢に成った彼等でさえ、答えを出すことが出来ない。

 確実に言える事があるとすれば、いま起きている争いを回避できなかった、そんな事実だけである。

 

「そうそう、聞いたぞ?

 最近姿をみんなんだと思えば、村長のせがれ、勇者と共にいったんじゃて?」


「おぉ、そうじゃったそうじゃった。

 わしもその話しを聞きたかったんじゃわ。

 おぬしの子はこの村の跡取りじゃろう? 次の村長をどうするつもりじゃ?」


 何気ない世間話も終わり、老人達の目が一斉に村長に向けられた。

 質問というよりは、攻め立てるような声色で、先ほどのようなゆったりとした空気はどこにもない。


 しかし、そんな視線や圧力も、村長は飄々とした顔で受け止める。


「なぁに、心配はいらんよ。

 確かに、あいつは出て行ってしまったが、ここには次男が居るんじゃ。問題なかろうて。

 それに、ここだけの話じゃがな。万が一、軍が攻めてくれば、村は滅びるじゃろ。

 じゃが、長男が勇者様のもとにいれば、あいつが村を再建してくれようて」


 国王軍が裏切っていようが、勇者国が騙していようが、たとえどちらであっても、人数は減るが村は生き残る、そういう作戦だった。


「……ほぉー。おぬし、意外に考えておるんじゃな」


「意外とはなんじゃ。こうみえても、この村の村長じゃよ」


 手駒を2つに分け、全滅だけは免れる。

 それが有効な策であることは、村長を取り囲む老人達にも理解出来た。


 では何故、正式に跡取りとして周知していた長男を勇者の方に送り込んだのか。

 次期村長を選び直す観点から考えても、村を継ぐ能力から考えても、より優秀な長男を残し、次男を行かせるのが妥当だったのではないか。


 誰もがそのよな疑問を口にしようとしたとき、その場に走りこんでくる足音を歳とともに衰えつつある耳が拾った。


「親父! 親父はいるか!? ……っ、親父! 軍が現れた。大隊だ」


 国王軍の出現。

 その一報は、驚きと諦め、そして納得が入り混じる感情で迎えられた。 

 

 勇者の誘いを断りここに残ったからと言っても、すべての人が勇者の言葉を信用しなかったわけではない。

 彼等の中には勇者を嘘吐き者だと考えた者も居たが、その大半は、軍に攻められる危険があろうとも、故郷を捨てられない者達だった。

 仮に攻め滅ぼされるとしても、最後まで村に居たい。そう願ったのだ。


 しかし、だからと言って軍に攻められたい訳ではない。


 ゆえに、勇者が去ってからのここ数日は、見張り役を1人から2人に増やし、夜間の監視も行っていた。


「……そうか、わかった。

 勇者様の御言葉に偽りは無かった、というわけじゃな」


 未だに感情の整理が出来ていない老人達の中にあって、村長だけは冷静さを保っていた。


 属する国よりも勇者の言葉を信じ、優秀な方の息子を送り出すなど、軍の侵攻に供えた準備をしていた村長にとっては、そうか、来たのか、と言った程度でしかない。

 それに、今更慌てたところで、事態を変えれるなどとは到底思えなかった。


「……全員を集会場に集めておいてくれ。

 ワシは監視塔で軍の様子を見てから行く」


「わかったよ」


「わ、わし等も行こう。この目で確かめねば」


「お、おう。そうじゃの」


 それから5分後、高台にある巨木に木の梯子を掛けただけの監視台で、老人達は、報告通りの光景を目撃する事になる。


 森を切り開いて造られた道一杯に、馬と人が列を成し、ゆっくりとしたペースでこちらに向かってくるその光景は、まるで濁流が木々の合間を縫って押し寄せてくるかのようで、見る者に強い恐怖を与える。


 相手は馬に乗っており、道が蛇行しているとは言ってもさほど距離は無い。途中で休憩を挟むと考えても、猶予は半日も無いだろう。


 太陽の位置から考えると、攻めてくるのは夕暮れか、それとも夜明けか。まさか、自分達のような村人を相手に、夜襲はしないだろう。


(子供達だけでも今から勇者様のもとに向かわせるか。実際に軍が攻めてきた今となっては、反対するものも居るまい。

 軍の皆様には、こちらから出向いて、老人の長話にでも付き合ってもらうかな。はてさて、何人がワシと共に来るのかのぉ)


 早足に集会場へと向かう道中、村長はそんな決意を固めていた。

 未来への希望を守るために。

 

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