<10>妹の調査
少女は、下着などを身に着けておらず、青いワンピースを脱ぎ捨てると、すぐに染み1つない肌があらわになった。
生まれたままの姿で、恥かしそうに伏し目がちに成りながらも、彼女は、決して手で隠そうとはしない。
それどころか、両手を後ろに回し、小柄な体に似合わない胸を強調するかの様に立っている。
怖がりながらも、奴隷の仕事を全うしようとしているのだろう。
俺が少し近づけば、目をぎゅっと閉じたが、その場から後ずさるようなことはしない。
なんとも健気である。
そして、俺の右手が、彼女の大きな胸……、では無く、横に脱ぎ捨てられた服を掴み、窓の外へと投げ捨てる。
そして、ベッドの上に敷かれていた布団を彼女に渡した。
「もう十分だ。
風邪を引く前に、その毛布を身に纏ってくれ」
「……え?」
初めて聞いた少女の声は、そよ風にも似た小さなものだった。
ほどなくして、俺の言葉をかみ締めるように俯いた少女は、震えた声を発する。
「ちがうの、です。……怖くないです。
ちゃんとお仕事出来ますです」
「いや、大丈夫だ。いまのはただのボディーチェックだ。気にしなくて良い」
「……やっぱり、胸大きすぎるよね、ごめんなさい、です」
立派な胸を隠すように、毛布を手元に手繰り寄せ、ついには泣き出してしまった。
これ以上無い罪悪感に襲われながら、必要なことを早急に終わらせようと、ポケットから手のひらほどの青い半透明な球体を取り出し、少女に渡す。
「この玉を持ってくれ、そして、俺の質問に、はいか、いいえで答えてくれ。
それと、敬語が出来ないことは知っている。無理に敬語を使わなくて良い」
「…………はい」
搾り出すような返答を聞き、俺は右手を上着のポケットに突っ込み、隠すように持ち歩いていたナイフの柄を掴み、彼女に対して構えた。
ナイフを見た少女は、悲鳴を押し殺すように毛布を抱きしめながら後ろへ後ずさるものの、すぐに壁に到達してしまう。そして、どうしようも無くなった彼女は、その場で座りこんでしまった。
それでも、大声を上げたり、パニックで暴れたりしないその姿は、王国トップの奴隷商が、最高だと褒めるのも頷けると思う。
騒げば騒ぐだけ、自分の立場が悪くなる事を理解しているのだろう。
「最初の質問だ。
君は俺を殺すために雇われた殺し屋か?」
一瞬だけ戸惑った表情を見せたが、自分の命に直結する質問だとわかったのだろう。
彼女は、慌てたように声を紡いだ。
「そ、そんな、殺し屋だなんて、わたしは――」
「悪いが、答えは、はいか、いいえだ。
再度、質問をする。君は殺し屋か?」
「……いいえ」
俺の強めの質問に脅え、声を詰まらせながらも、こちらが聞き取れるように答えてくれた。
「肌に文字を書き込まれたことはあるか?」
「いいえ」
肌に文字を書き込むことで、その者を居のままに操る魔法があるらしい。
ちなみに、彼女に裸になってもらったのは、この文字のチェックと、服に同様の細工がされている可能性を排除するためだ。
「誰からも教育は受けてないな?」
「はい」
教育と称して子供を洗脳し、本人も知らないうちにスパイになっている場合がある。
これを嫌って、教育を受けていない者に限定したわけだ。
「奴隷契約以外で魔法をかけられたことはあるか?」
「いいえ」
「情報収集を生業とする者か?」
「いいえ」
一通りの質問を終え、彼女の腕に視線を落とせば、青い玉が、姿を変えずにその小さな手に握られていた。
その様子に思わず、安堵の息が漏れる。
その場でナイフを投げ捨て、彼女の前で膝を折り、不安と脅えが入り混じった目をした少女と視線を合わせる。
「怖がらせて悪かったな。君は合格だ」
そういって、彼女の頭を撫でてやった。
右手が触れた瞬間、小さく悲鳴を上げたものの、程なくして状況を理解した彼女は、安堵の表情を作り、気を失った。




