第三話 英雄(下)<帝国歴570年9月19日>
わたしはお空の上で繰り広げられる――まるでお星さまが喧嘩をしている光景に目を奪われています。
黄金の星と漆黒の星がぶつかり合っています。
白髪の少年と黄金の羽の妖精さんに助けられたあと、わたしたちの頭上に漆黒の30mほどのワイバーンが現れました。
その後は今の光景――黄金の光に包まれている白髪の少年とその漆黒の皮膚と同じ光に包まれたワイバーンの戦いです。
ふと横を見ると――
いつの間にか、わたしの横にポールさんがいます。
それと――紅色を基調とした民族衣装、紅色の髪にあったポニーテール、10代半ばの少女がポールさんのすぐ横で宙に浮いています。
(「挨拶したいのですが……そういう雰囲気ではないですね」
ポニーテールの少女は険しい顔で空の上で行われている星々(ほしぼし)の喧嘩をみています。
わたしも再び星々(ほしぼし)の喧嘩に目をやったのですが、大きな動きがありました。
――漆黒の星が物凄いスピードで落下するのが――
ずどーん!!という大きな音が聞こえます。
こちらから50mは離れた場所――おそらく白髪の少年が作ったであろう通常のワイバーンの屍の山の中に、漆黒のワイバーンが頭から突っ込んでいるのがみえます。
「うわ!!」
というポールさんの声が聞こえたと同時に、突風でも吹いたのでしょうか――わたしの身体が後ろに下がります。
その後――物凄い痛みと共に先程の突風が児戯とでもいいたげな強風にあおられてわたしの身体は宙に浮きます。
宙に浮いてる最中、両腕で頭のサフィを抱きしめようとしたのですが――強風のためか感覚がなく、思うように動きません。
「がはっ」
背中から地面に落ちたわたしは身体の節々(ふしぶし)に痛みを感じましたが、身じろぎ出来るくらいはなんとかなりそうです。
(「サフィ!サフィどこ!!」
わたしは急いで辺りを見渡します。
少し離れた場所で火精霊に抱きしめられるように宙に浮いているポールさんがみえます。
いえ、あの人ではありません!!
灯台下暗しでした――わたしの左腕の肘辺りを懸命に舐めているサフィをみつけます。
――あれ?なんでそんなところを舐めているのですか?サフィ――
そのような言葉が出る前に、あることに気づきました。
わたしの”左腕の肘から下がない”のです。
そう認識した途端、両腕が物凄く熱くなり、形容し難い痛みがわたしを襲います。
「うぅ……」
おそらく、右腕もないのでしょう――悠長に確認している余裕はわたしにはありませんでした。
余裕がないのですが――誰かに見られたような気がしました。
どうしても気になって首をなんとかそちら――右の方をみます。
そこには何もなく、ごつごつした岩があり、少ない草が風にあおられているだけでした。
でも、『辛い、助けてほしい』そんなのものを何故か感じ取りました。
――それは先程何かから助けてくれた風さんの慟哭だったのかもしれません――
だから、わたしはひどく掠れた声で、
「きっと大丈夫ですよ」
と答えます。
そう答えてすぐに、腕と思われるものが二本――わたしの前に落ちてきます。
咄嗟にわたしはあの腕があれば――と思った瞬間
落ちてきた腕は光だし、
「ふぇ」
わたしの腕は元通りになっていました。
無意識に合成魔法を使ったみたいです。
「ば、ばか〜」
よく見るとわたしの新しい腕の両手に守られるように、先程会った黄金色の羽を持つ妖精さんが泣いています。
いつの間にか立っていたわたしに何らかの影が落ちます。
わたしの目の前には、
――漆黒の30mほどのぼろぼろのワイバーンが溢れるばかりの狂気を眼に宿してこちらを睥睨しています。
あれが、妖精さんを泣かせて、風さんを悲しませた”可哀相な存在”だと直感します。
わたしの両手から抜け出した妖精さんはわたしの右肩の辺りまで飛んで
「あ、あんたと契約して力を貸すから!トムの敵を!あいつを倒して!!」
わたしは首を横に振って、
「いえ、あのワイバーンさんを助けるために力を貸してください」
そう言って、もう3mしか離れてないワイバーンの元に向かいます。
「ああ、もう!!わけわからないけど、わかったわ!!あなたの願いを叶えます!!」
という声が後ろから聞こえる。
気づくと、わたしは白髪の少年が持っていた剣を右手に持っていました。
わたしはその剣を持って”可哀相な存在”を抱きしめる。
黄金の光がわたしと漆黒のワイバーンを包みこみました。
あなたは息のつく暇がなく面倒ごとに巻き込まれるでやんす
そしてあなたがとった決断は――