第十四話 軍隊ウルフ(上)(帝国暦570年9月23日)
時間は昼過ぎ10階建ての塔に攻略メンバーが続々と集まっている。
だが――集まったメンバーは50人ほどしかいない。しかも普段は生産活動してそうなドワーフなんか混じっている。
(「町全部千数百人くらいしかいないってさっき誰か言ってたから……こんなもんか」
『ぷれいやーとの抗争のときに潜ってた人数はこの5倍くらいって聞こえたのだけど……』
と俺にしか聞こえない声でレムが俺の心の声に答える。
レムにはこの黒い刀身の剣にひっこんでもらっている。
鞘つきでもらったから、俺の右腰に差している。剣に入るところ見られるわけにはいかないしな。
剣状態だと俺とレムの同調率が高くて俺の考えが丸聞こえになるらしい、
それにしても、おちおち変なことを考えることができない。
例えば、寝ているレムの胸元を昨日覗いて触ろうと、
――『それっ!!どういうこと!!』と大音量でレムの声が頭に響く。
「いてぇ!!」と大声出してしまって、近くにいたニサ姉ちゃんが「大丈夫ですか?」と心配そうに俺の顔をうかがってくる。俺は「大丈夫だ」と返答して、レムを心の中で非難する。
『謝らないから……ポールこそ反省して』と言ってふて腐れた様子が伝わってくる。
(「わかったわかった」と言ってから、この塔攻略戦にない頭をふりしぼる。
どう考えても、駄目元の作戦だということが明白で作戦に参加する奴らの顔は暗い。
なんといっても作戦は”ばらけて二階を目指せ”というものだけだ。
信じられるか? 正直、攻略しないと数日後に町の人間全員お陀仏って聞いてなければ参加なんてしなかった。冒険者ギルド長や町の領主の発表だから嘘ではないだろう。
外の結界にレムを連れて行ってみたが、レムの炎でも破ることができなかった。
(「なら、上手くやって塔攻略するしかないか……」
期待を込めてニサ姉ちゃんたちをみる。
こっちは英雄の腕を持つニサ姉ちゃん、火の上級精霊のレムとついでに俺、コンドウというぷれいやーの軽剣士、タチバナという同じくぷうれいやーの女回復魔法師、そして……何故か爺さん。
L字の木で出来た固定台に乗っている爺さん――背負っているのは昨日の抗争でレベルが上がって力がついたニサ。爺さんは本当にすげえ魔法使いとかではなく、元農夫らしい。
つれのおばあさんが最上階にいるんだそうだ。詳しい話は面倒なんで聞いてない。
(「あ、あの爺さん大丈夫なのか?」
『そこは同感だけど、否定しなかったわたしたちも悪い……あと、あの人間の老人はポールに背負ってほしかった』というレムの言は無視する。
「それでは全員注目してください」とコンドウが手を”パンパン”と叩きながらパーティメンバー全員の注目を集める。
「暫定リーダーを務めますコンドウです。どのような動きをするか聞いてください」
「はい!!」とニサ姉ちゃんが手をあげてコンドウに注目する。というか他の冒険者に姉ちゃん自身注目されておる。
爺さんは鼻ちょうちん作って寝ている――まあ、別にいいか。
タチバナも熱心そうだな。俺もそこそこ聞き漏らさないようにしよう。きっとレムがフォローしてくれる。
『何か……勘違いしてるようだけど、主にポールに戦ってもらうから。レベルは前より上がっているでしょ?』
(「はぁ!? むりむり、そういうのはちょっとずつにしようぜ」
なんか、昨日の抗争でレベル上がった気がするけど、力使いこなす訓練もしてないのにいきなり実戦なんて普通むりだろう……そういうことがわからないのか?
『で、でも、必要以上に火のマナを練るだけの余力はないし、剣に炎宿らせるのは消費マナ少ないから大丈夫だけど、炎を飛び道具にしたりするのは最終手段にしたほうが――』
(「いやいや、何のためのパーティだよ? 最底辺の魔物なら俺でもいけると思うが、手だれがやられている塔だとな……俺たちは自分たちの消費少なめになるように立ち回ろうぜ」
『そ、そんな……それでいいの?』と何か弱々しい声で聞いてくる。
(「え? ああ、そうでもしないと今まで俺なんか生き残ってこれなかったからな。上手く立ち回るのは人間社会だと割りと当たり前だぞ?」
『そう、わかった。ポールの方針に従う……』となんかレムの落ち込んだ気配が伝わってくる。
ま、そのうち慣れるだろうと俺は楽観視する。
「以上ですが何か質問はありますか?」とコンドウが言ってる。
やべ、レムとの会話で何も聞いてない。
『大丈夫よ。わたしが聞いてるから……パートナー精霊としてフォローする』
(「そうか!助かるぜ!!」
『……』
塔に入る段階直前にレムから、全攻略メンバーの一番最後に入り、右手の法則?っていうので進んでいくらしいことを聞いた。あと、隊列はニサ、コンドウ、タチバナ、俺の順だ。
(「一番後ろか……いざって時は逃げられそうだな」
『……わたしが……あわせないと……』なんかナーバスになっているレムだった。