幕間4 火精霊と元盗賊少年2(帝国暦570年9月22日)
わたしは今、町の武具店というところに来ていた……本当は閉まっていたのだけど、ポールが無理を言って開けてもらったのだ。
ポールの耳の近くに口を寄せて「ポール、別に今日でなくても……」と小声でわたしは困惑しながらも店からの撤退を促す。
「だいじょーぶ。心配すんなって」とわたしの言ったことを取り合ってくれないポールは店主の人間の老人に「これで譲ってくれ」と袋からポールとわたしの全財産の入ったお金を取り出して会計台にばらまく。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……全然足りんよ。銅の剣一つ買えないのう」と店主は渋面で数えたお金を木の皿に入れる。
(「やっぱり……昔、姉さんの契約者候補だった帝国騎士のザイルに聞いたけど、武器とかは高いって話だった。少し働いたくらいで買えるはずないわよね」
「少しくらい負けてくれよ!ぷれいやーが言うにはこの町の結界を解くには塔の魔物を討伐しないといけないらしいし、まあ、せ、先行投下?って奴だ」
「馬鹿もん!!先行投資じゃわい。……そんな言葉も知らん奴に言われてものう」
「いやいや、払わないとは言ってないぜ。塔の魔物を倒して冒険者ギルドで得た金でちょいと色つけて返すから……な」と店主にウィンクするポール。
「おまえさん……バックレそうな気がするしのう……」と店主は鋭い目線をポールに向ける。
「いや、ないない」と慌てて否定するポール。情けないことだけど、ポールから伝わる感情はポールの否定を否定している。
(「でも……わたしのためなのよね……」
そう思うとポールがただの軽薄な男に思えなくなる。仕方ない助け舟を出そう。わたしは人間のふりをする偽装を解いてあえて儀礼ようの炎の衣に身を包む。
「こ、これは」
「わかると思うけど、わたしは火の上級精霊よ。もし、お金を用意できなければ、お金分の火の精霊石を用意する。これは精霊レムの名の元に誓う」
「……わかった。この店で坊主に一番合う物を用意しよう」
「……ありがとう」とそう言うとすぐに火の衣を解除する。いつものなら問題ないけど、火の衣生成のマナを練るだけでもきつい。はやく火の魔石を手に入れないと……。
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武具店の店主はダマスカスという魔法金属の長剣を用意してくれた。刀身は黒く優美な波紋があり、何よりマナ効率が通常の剣よりよさそうなのでわたしが火のマナを練るときにロスは少なそうだ。
わたしは早速本体をその剣に移して(ポールの同意も得られたので)今度は魔法具店に向かうことになった。そこに火の魔石が売っているらしい。
「なぁ、レム」
「なに?」
ポールが神妙な顔で「火の衣だったか?あれは常に着ていることはできないのか?」とよくわからないことを聞いてきた。
「……何か勘違いしているかもしれないけど、あの衣は別に特殊な効果があるわけではないの。……そうね、精霊同士の集まりのときに着るもので――」
それに……あの格好はあまり好きでないのだ。下着のように最低限身を隠した炎に包まれているだけで、姉さんはザイルが喜ぶから好んであの格好をしていたのだけど……あのときのザイルはいやらしかった。なのでわたしは人間の前ではその格好は――
「もしかして、ポール。いやらしい目的でそういうことを聞いてないでしょうね?」とジト目でポールをみる。
「……も、もう夕暮れだ。さっさといくぞ」と早足で目的地に向かうポール。
やれやれと思いながらポール追いかけるわたしはポールのセクハラにも慣れてきたなと心の中で苦笑するのだった。