第十話 静かな町(帝国暦570年9月22日)
ハーレム王さんとの激戦はコンドウさんの支援もあり、なんとか制することができました。
途中で逃げ出したポールさんですが、どこにいったらいいのかわからなかったためか酒場の周囲を一周して戻ってきました。短剣から出てきたレムちゃんが申し訳なさそうな顔をしていました。ですが、レムちゃんが鉄球を抑えてくれたお陰でわたしははじくことができたのです。それに……レムちゃんの短剣(本体)にひびが入って大慌てしたポールさんをみて、正直わたしは安心しました。
(「ああ、この人はいやらしいことだけを考えている人じゃないんだ」
だから、わたしは大変おこがましいのですがお二人を笑って許しました。
「短剣のひびはマナで直せるから……泣きやみなさいな」とレムちゃんはいつまでも泣きながら短剣を撫でるポールさんに呼びかけます。
「ほ、本当か?」と顔は涙の跡と鼻水でひどいことになっています。
「ええ、火の魔石を用意すれば……あと、本体になる媒体ももっといいものにしないと――わたしのバイト代(酒場で働いたお金)?で足りるのかしら」
「た、足りなければ、俺の金いくら使っても構わない」
「……ありがと」
二人のやりとりに少しほっこりします。雨降って地固まるでしょうか?――わたしの恋愛脳が恋の予感を訴えています。
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今回のぷれいやーの方のクーデターによって住宅街に住んでいた大勢の人がお亡くなりになりました。墓地などは結界の外にあり、供養するにも人数が多すぎるため、本人確認かその人の特徴をメモした遺体は結界ぎりぎりの南にある草原に埋めることになりました。ぷれいやーさんたちの遺体は少し離れたところに埋めたそうです。
不幸中の幸いは今生き残ったぷれいやーさんは町人に協力したりプレイヤーのクーデターに非協力だった人が大半なので、もうこんなことは起きないだろうと酒場のマスターさんから聞きました。マスターさんも他の方から聞いたそうですが……。
わたしたちのこの町の知り合いである酒場のマスター、女将さん、ミリーちゃんは無事でした。でも――
(「昨日、お店に来たお客さんは大勢亡くなったのでしょうね」
どうしてこんなことになったのでしょうか?
いきなりよくわからない結界に閉じこまれての凶行だったのでしょうか?
どうにかして食い止められなかったのか――とても胸が痛い。
わたしは今、どうしてもサフィがいる部屋に戻る気になれず、無理を言って酒場で働かせてもらっています。もうすぐ夕方ですね。ポールさんたちは火の魔石などの買出しに行っています。
(「夕方ですが、お客さんはまばらです」
概算でぷれいやーさんが1000人中800人ほど、町の人は3000人中2000人ほど町から姿を消してしまいました。先程はじめてこの酒場を訪れたという男性のお客さんはわたしをみて泣き出してしまいました。いつもは自宅で夕食を食べるそうですが、奥さんとお子さん亡くしてしまい、わたしを見てお子さんを思い出したのだそうです――わたしももらい泣きをしてしまって実は目が真っ赤です。
「あ、あのー、ニサさん。今日はもう休んだほうがいいですよ」
もうすぐ10歳になるくらいでしょうか――赤毛の三つ編みに目元にそばかすのある少女、酒場の看板娘のミリーちゃんが心配そうにこちらを覗き込みます。
「で、でも、今のわたしはサフィに合わす顔がありません」
わたしが引っかかっているのは人殺しをしてしまったことです。このご時勢でよくあることだと記憶喪失のわたしでもわかります。自分の殺してしまった二人が脳裏を離れません。戦闘中はサフィと酒場を守ることでいっぱいいっぱいだったのですが、冷静になるともう駄目でなにかしてないと正気ではいられそうになくて――
「ああ、もう!!そんな不景気な顔をされたら商売上がったりです」
「ご、ごめんなさい」とわたしは顔をふくことしかできません。
「正直ニサさんとコンドウさんたちにはこの周辺の商店街の人たちは感謝しているんです。クーデターを起こしたぷれいやーの冒険者なんてわたしたちではどうすることなんてできなかったですから」
きっとこの商店街に現れた四人のぷれいやーさんは町の冒険者やプレイヤーの協力者、自警団の人が抑え切れなかった人たちだったのでしょう。
「ニサちゃーん、また上のうさみみ嬢ちゃんに夕飯持っていってくれ」とマスターの声が聞こえます。
「はーい!!」とミリーちゃんから逃げるように、おにぎりと飲み物が乗せてあるトレーを持ってわたしは二階に向かうのだった。
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「……失礼します」
わたしはノックをして反応がないことを確認した後、前回の反省を踏まえてトレーを一度床に置いてからドアを開けてうさみみ少女の部屋に入った。
部屋は暗いですが夕日の光のお陰でなんとかテーブルの位置などは把握できます。わたしは料理をテーブルに置きがてらベットで寝ている少女を見ます。
「くーくー」とカーテンがされて暗い部屋で、うさみみの寝巻きを着た10歳くらいだろう少女が寝ています。黒髪ロングで腰のところまで髪が伸びています。ちなみに枝毛がひどいですが――寝ているお客さんに勝手なことは……
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「ふぅ……良い仕事をしました」とわたしは額の汗をぬぐうような仕草をします。
いい感じでウサミミ少女の髪の毛を整えられたと思いますが、起きませんでしたね。
わたしは酒場内にあるお手洗い場からはさみを拝借しましてうさみみ少女の髪を整えました。わたしはこう……部屋が散らかったり、洗濯されてないものをみるとうずうずしてしまう性格のようです。
「あ!……サフィの食事をマスターさんに用意してもらわないと」
わたしは重大なことに気づき一階に早足で向かうのだった。