幕間3 舞台裏1
本日2回目
そこは10人ほどの大人が入れば満員になってしまいそうな地下の一室。光源は何か映し出している台座に置かれた大きな水晶と台座にはめ込まれた色とりどりの宝石のみ。
「うーん、なかなかの見世物だと思いますが、ちとパンチ……足りませんカネ」
緑を基調としたまるでサーカスのピエロの格好をした男が直径1mほどの水晶に映されるハーレム王(笑)とニサの決着の映像をみながら、腕を組んで首をせわしなく左へ右へと動かす。
「3年前……黄金妖精誕生のご都合主義展開よりはましね」
いつからそこにいたのだろうか――濃い青髪のロング、左右に合わせた細い三つ編みを数本たらし、白のコートに上着は黒、下もこれまた黒いキュロットスカートにレギンス、20代前半の女性が壁によりかかっていた。
「これはこれは!!竜神殿にお越しいただけるとは……3年前のアレは主のいきなりの駒の配置……準備期間もなく、しかし!!味のある駄作を用意致しましたが――合いませんでしたか?」
当然現れた人物の来訪に、ピエロは大仰に両手を広げて歓迎する。
「別に、お母様があまりのご都合主義ぶりに退屈でなかったか心配だっただけ……それにしても相変わらずの道化ぶりね」
竜神と呼ばれた女性は前髪をかきあげ、ここに足を運んだ本題を思い出して道化師に問う。
「それより、”黄金妖精”と”モンスター”を使い潰したようだけど――それだけの価値があったのかしら?」
声には抑揚がなく、その鋭く切れ長の黄金の瞳はただ一つの執着以外はどうでもいいといいたげに道化師を見る。
「ええ!!あの戯曲はこの道化師めの一、二を争う傑作でございます!!あそこに至るまでの物語はええ、とても甘美で……そしていと哀れなものですカネ」
「ふーん。人間の機微はよくわからないわ……まあ、お母様のために精進しなさい。同時に2つも使い潰したから様子を見に来ただけだから」
興味を失ったのか――竜神と言われた女性は闇に溶けるように消える。
「ええ!! この道化師、主や竜神殿にご満足頂ける喜劇・悲劇・恐怖劇・英雄譚をご用意いたしましょう!!」
顔を上にあげ、常に人をバカにしているような仮面を右手で押さえ、道化師はまるで久し振りに想い人と再会したかのように自分の感情を吐き出す。
「さ・て・と」
先程の態度とは打って変わり、冷静に淀みなく道化師は台座にある茶色の宝石に手を触れる。
「仕込みは上々……期待してますヨ」
その独特の喋り方で、次の舞台へ道化師は自ら描いた台本に想いを馳せる。
道化師が触れた茶色の宝石の横には――割れた漆黒の宝石と黄金の宝石があった。