第八話 ハーレム王(中)(帝国暦570年9月22日)
本日二回目です。
「さて、どうすっかね」
俺――相場総一郎は住宅の二階の屋根に座り込み思案していた。もちろん、俺のハーレム要員についてだ。
「仕方ねぇんだが、PLのほとんどは男だし、前線に出てくるNPCもいまいち食指が動かん」
住宅街のNPCもどうも地味な町娘ばかりなので、経験値となってもらった。
「お、そろそろ終わったか」
俺の眼下で行われていたNPC対PLの魔法・弓戦が終わったようだ。
お次は近接戦闘の部隊による接近戦で、MP回復促進剤によって回復するまで魔法使いは後方で待機。弓使いは弓切れなので魔法使いを短剣装備で守ると俺らPL側のリーダーが言っていた。
「本当なら俺もすぐ前線にいかないといけねーんだが……」
ハーレム要員をかくまうためにSTRにモノを言わせて屋根に登って戦場を見ていたのが功を奏したのか良いことを思いついた。
「いまなら、PLの魔法使いや弓使いの奴ら楽に倒せるんじゃねえか?」
どうせ、最終的には骨肉の争いになるのは目に見えている――なら、別に少しはやくなるのなら問題ないんじゃないか?
「正直、あとに魔法使いや弓使いが残っているケースのほうが重戦士の俺としてはやばい」
前線がぶつかりあってからPLの魔法使い・弓使いを大量に倒して経験値を稼いで、遠回りしてNPCの魔法使い・弓使い部隊を撃破――いける。可能ならそれまでに得た馬鹿でかい経験値で残りのPL・NPC部隊を倒せば、オレTUEEEEができるってわけだ。
「皮肉なもんだなぁ……昨日のレイド戦で全体指揮できる奴らや戦況分析できるやつらがあらかた死んでしまわなければ、ゲリラ戦なりなんなりもっと戦い方があっただろうに……うっしゃ!漁夫の利でも得るとすっか!!」
俺は味方のはずのPLの後方部隊を潰すだけのお仕事しにいくだった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・
結論からいえば、渋々ですがポールさんとレムさんはわたしの提案をのんでくれました。
ただし、前線で戦うのではなく、あくまで酒場を守るためにです。
二人にそう言われてわたしの頭は冷や水を浴びたように冷静さを取り戻しました。
酒場の屋根裏部屋にはサフィがいます。母親が守らないでどうするのか!
(「わたしのバカバカバカ――本当に大馬鹿ものです」
わたしははじめての実戦に緊張しつつ、英雄のミスリル剣を両手で持ちます。
わたしたちが酒場の前に陣取る前に雨は止んでおり、地面は水溜りがいくつかあります。
剣の刃には緊張で強張ったわたしの顔が映っています。
アニタちゃんと別れてからこの町につくまでの道中は結局、レムちゃんが宿った短剣でポールさんが魔物退治をしてくださいました。
(「わたしは――人を殺せるのでしょうか?」
「来たわ……まあ、頑張りなさい」
まだ、ぷれいやーさんの姿は見えませんが、上級精霊の感知能力で恐らく把握したのでしょう。わたしとポールさんにレムちゃんが警告します。
「ああ、これで活躍したら本契約してくれよな」
「……もしわたしに、本当にふさわしいなら考えてあげる」と言って炎に包まれたレムちゃんがポールさんの持つ短剣に吸い込まれます。短剣からは炎の柱が立ち――次第に落ち着いてポールさんの足の長さほどの長剣サイズの炎の剣になります。
「まだ仮契約しかしてないっていうのにこの炎のマナ力か……断然本契約が楽しみだなぁ」とキラキラした目で炎の剣をみるポールさん。あ……いま、一瞬炎が揺らいだ気がしました。
敵の姿は――見えました!
すぐそこの10m先の鍛冶屋さんの中路地から3人組の男性冒険者――全員軽剣士風の格好です。
「あの炎の剣はなんだ?レア武器か?」
「お、ミスリル剣持っている金髪碧眼の少女がいる」
「危ない前線抜けてこっちに来てよかったなぁ!!これ終わったらドワーフの鍛冶場で武器漁りしようぜ!」
ゆっくりと3人組がこちらに向かってきます。
残り8m、7m、6m――っ?!
3人組の姿が消えます!
「ど、どこに?」思わずわたしは後ろを向いてしまいます。
「残念……前でした」と後方から男性の声が聞こえます!
慌てて前に向きなおそうとしますが、身体の動きがやたらゆっくりに感じます。
駄目、間に合わない!?
ふと自分の手が不自然に動いたことに気づきます
いつの間にかわたしは右手でミスリル剣を”自分の脇の下に”刃を通していました。
そのまま、わたしの腕はミスリル剣が地面に着くまで振り下ろします。
わたしの視界の前方に後方から鮮血が飛び散ります。
おそるおそる後ろ振り返ると――胸から股間が真っ二つに切れた3人組の一人がいまだに立っていました。男は信じられない顔してますが、白目を向いていてどう考えても事切れています。
「はぁはぁ……」
一瞬の出来事なのに、とても長く感じました。
冷静になって嗅覚が正常に動作するようになったのでしょう。隣が”焦げ臭い”です。
左隣にいたポールさんを見ると座り込んでいました。ポールさんの両脇には焦げた何かがあります。これはきっと――
「やべぇ、死ぬかと思った。ありがとな……レム」とポールさんが炎の剣に向かって礼を言います。
「はあ!?いや、あんなの対処無理だろ!?」と一人ごとをはじまるポールさん。
(「きっと、レムちゃんと何らかの方法で話しているのでしょう――でないとただの不審者です」
はじめてのわたしの初陣は武器の性能や英雄さんの腕での勝利でした――でも、これはこの先の展開の前奏曲でしかなく。
「ハーレム要員。みーっけた」という男性の野太い声が窮地を乗り切ったわたしたちに聞こえてきました。