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俺の勇者はロリ巨乳  作者: 梶田一回転
異世界転生編
1/6

三上、人間やめるってよ。

俺こと三上和弥が異世界にぶっとばされたのは、高校3年生の時だった。


その日、俺は落ち込んでいた。

ちょっと気になっていた幼なじみでクラスメイトの加奈子ちゃんに好きなタイプを聞いてみたら

『若干引きこもりで根暗でオタクでコミュ障で運動音痴で鼻がニンニクでたまに何か臭い時があるけど隠れイケメンで脇毛が濃い人』

と言われ、絶対俺のことだと思って喜び勇んで告白したら、全然違って撃沈したのだ。

なんという自惚れマン、俺。


意気消沈して下校していると、気づいた時には俺の自転車の車輪の下にアスファルトは無かった。

道端の側溝に自転車を脱輪させた俺は、民家のブロック塀に激突。

その反動で車道に投げ出され、ちょうど良いタイミングでやってきたトラックに轢き殺された。

自分の頭蓋骨が砕ける音を聞いた次の瞬間、俺の意識はブラックアウトした。





目が覚めると、金髪の美女が俺を覗き込んでいた。

彼女はその整った顔に、嬉しいような心配しているような微妙な表情を浮かべている。

うむ、タイプだ。

俺のストライクゾーンど真ん中のストレート。

絶好球をフルスイングするべく、俺史上最高のキメ顔を作る。

『君の瞳に乾杯。でも俺に触れると火傷しちゃうZE☆、子猫ちゃん』

そう言おうとして、


「あうあうあー」


俺の口から出てきたのは、頭の悪いエロゲのヒロインが言ってそうな喘ぎ声だった。

まさか、事故の後遺症が……?

まあでも仕方ない。

あれだけの事故だったのだ、後遺症が残っても何の不思議もない。


「ミ、ミツキ! 喋った! この子喋ったわ!」

「良かったですね、エリス様。泣かないので心配しましたが、大丈夫そうです」


俺が後遺症について悩んでいる中、金髪の美女は別の女性と呑気に会話していた。

いや、喋れてないから!

全然大丈夫じゃないから!

と抗議の声をあげようとしたその時、俺の体は何者かに抱え上げられ、宙に浮いた。

貧弱な帰宅部ボディとはいえ、18歳の男の体を易々と持ち上げるとは大したパワーだ。

そう思って、俺はそんなマッチョマンを確認するために目線を上げる。


俺の視界に飛び込んできたもの。

それは、俺を軽々と抱くメイド服姿の女性。

それは、メイド服越しにもはっきりと分かるダイナミックおっぱい。

それは、おっぱいを揉もうとする俺の小さな手。

それは、明らかに現代日本ではない粗末な部屋。


その時俺に電流走る……!

俺の脳内では、ある仮説が立っていた。


もしかして:異世界


アーリア歴231年4月16日。

それは、俺が赤ん坊として異世界『ヤハーネ』に転生した日だった。




======




赤ん坊として転生した俺は、すくすくと成長した。

何故前世の記憶が残っているのかは分からないが、その理由を知る手段は無いし、まあ記憶が残っていて困ることもそうない。

記憶を残しての生まれ変わりは、俺が前世で何度か妄想したことだった。

まさかその妄想が現実になるとは思わなかったが、異世界で二度目の人生を送るのは誰もが一度は思い描く夢だ。

この状況をラッキーなことだと考えた俺は、異世界ライフを満喫することにしたのだった。


俺が転生した先ヤハーネは、剣と魔法のガッチガチなテンプレ異世界だった。

文明レベルは現代日本より相当低いらしく、家には電気もガスも水道も通っていない。

その分を、この世界の人たちは魔法で火や水を生み出すことで補っていた。

赤ん坊である俺にはまだ魔法なんて使えなかったが、人の指から火の玉が出たりするのを眺めるのは、それだけでワクテカするってもんだ。


ただ、ファンタジー小説に出てきそうな異世界であるにも関わらず、この世界の住人の使用言語は日本語だった。

この家の人たちの会話を聞いていると少し違和感を覚えることがあるが、俺が転生前に使用していた日本語と概ね一緒だ。

地域によって訛りがあったりするのだろう。


何だかご都合主義のような気もするが、俺にとって言語が知っているものだったのは大きい。

お陰で、この世界の様子もすんなり理解することができた。

神に感謝だな。





目が覚めてから最初に視界に入った金髪美女が、俺の母親らしい。

名前をエリスと言った。

年齢ははっきりしないが、見た目から推測するに二十代前半だろう。

明らかに日本人離れした美貌の持ち主だが、よくよく考えればここは異世界であって日本ではないので当然だろう。


エリスについて俺から言えるのは一つ。

彼女のおっぱいは素晴らしい。

俺は赤ん坊の特権をフル活用してエリスの母乳を吸い漁った。

異世界サイッコー!

うむ、神に感謝だ。





俺を抱き上げた巨乳メイドはミツキ。

彼女はこの家の使用人らしい。

ミツキの口調は丁寧で滅多に表情を変えることはないが、そのクールビューティーっぷりにメイド服は良く似合っていた。

メイド服は日本固有の文化とばかり思っていたが、どうやらメイド服はそのまんまの意味で全世界共通らしい。

うむ、実によく分かっていらっしゃる。

やはり神に感謝だな。


そんなミツキについて俺から言えるのは一つ。

彼女のおっぱいも素晴らしい。

いつか、ミツキの母乳も吸い漁りたいものだ。





俺はと言えば、前世の俺と全く同じ容姿で成長していた。

初めて鏡を見た時には、昔見たアルバム写真の幼き頃の俺と瓜二つの姿に、驚愕したもんだ。

前世の俺と全く同じ成長の軌跡を辿るのは少々気味が悪い。

どうせ生まれ変わるならイケメンになりたかったが、何でもそううまくはいかないということだろう。

仕方ない。


俺はエリスに全然似ていないので、本当は自分の子ではないと疑われるのではないかと心配したが、当のエリスは俺を抱いて

『見てミツキ! この子お父さんに似て超イケメンだわ! 私が母乳をあげる時に浮かべるニヒルな笑みに、私のハートは釘付けよ!』

と類い稀なる天然っぷりを発揮していた。

俺はエリスの子供に生まれてきてよかったと心底思った。


ただ、エリスはその天然さを存分に発揮し、俺を『アムロ』と名付けた。

歌を歌ったりモビルスーツを動かしたりしそうなこの名前を付けられた時には、エリスの子供に生まれたことを心底後悔した。





父親はこの家にはいない。

最初はもしかして死んでしまったのかと不吉な予想が浮かんだが、エリスとミツキの会話を聞くに、そうではないらしい。

どうやら、遠い地に単身赴任しているようだ。

どの世界でも働く父親は大変だ。

ホント、ご苦労なこって。


父親は一ヶ月に一回くらいの頻度で、俺が寝静まった頃に帰ってきた。

ただ、幼い俺は自力で動けないため、父親の声を聞くことくらいしかできない。

俺の父親は一度たりとも俺の様子を見に来ることはなく、そのくせ帰ってきた日の深夜には必ず隣の部屋からギシギシアンアンと明らかにアレな音がした。

俺の両親は早くも二人目を作る作業に勤しんでいるらしい。

ホント、お盛んなこって。


もっとも、二人が夜中に気持ちいいことをしていることはミツキも気づいているようだったが、俺たちは知らない振りをしてやった。

まあ、伊達に18年間生きてきてないからな。

これが大人の配慮ってやつよ。


夜遅くまで励んでいるにもかかわらず、父親は翌日の早朝、俺が起きるより前に家を出て行く。

そのせいで、俺はついに父親の姿を見ることはなかった。

俺の親父は謎に包まれている。




======




1歳にもなると、この世界や家族のことがだいぶ分かってきた。

まず、ヤハーネは俺の生前の世界とよく似ている。

文明レベルでは日本に劣るものの、食材なんかは地球とほぼ同じらしく、パンやスープは向こうで見たものにそっくりだし、りんごやぶどうが食卓にのぼることもあった。


さすがに寿司みたいなものは無いようだが、食文化は非常に似通っていると言っていいだろう。

たまに、明らかに魔物の肉であろうものが目に入った時にはギョッとしたものだが、慣れてしまえば牛や豚と何ら変わらない。





この家のこともおおよそ掴めてきた。

まず、この家があるのは田舎の小さな村だ。

窓から見えるのは一面の小麦畑で、小さな家がポツリポツリと建っている。

風車が回っていそうな景色だが、あいにくこの世界にはそういうものは無いらしい。


俺の家、フリード家は、村の中ではそこそこ裕福な部類に入るようだ。

立ち位置的には、中の上といったところか。

家は木造二階建てで、家具は素人の俺から見てもなかなか良いものが揃っているのが分かる。


赤ん坊の俺が何不自由無く生活できるのも、未だ姿を見ぬ親父のお陰だな。

か、勘違いしないでよねっ。

感謝なんて全然してないんだからね!


オタクかつ現代っ子かつ半引きこもりだった俺からすると、テレビもゲームもパソコンも無いのは残念だが、こればっかりは諦めるしかないだろうな。

徹夜でモンスターをハントしたり、パルスがコクーンでファルシな世界を旅したりしたあの頃が懐かしい。

まあでもせっかく剣と魔法の世界に転生したのだし、元の世界よりもアウトドアに生きてみようと思う。





エリスは俺が思ったとおりの天然な女性だ。

ただ、頭が弱い訳ではなく、常識が無い訳でもない。

口を閉じていればお淑やかなお姫様だ。

ほんのちょっぴり感性が独特なだけなのだ。


エリスを語るにおいて、まず述べねばならないのはその美貌だろう。

彼女の顔はねづっちもびっくりな整いっぷりであり、子供である俺ですら惚れそうになったくらいだ。

そんなえっちぃ俺の一番の楽しみは、エリスの母乳を貪ることだ。

赤ん坊といえど、母親といえど、美人のおっぱいというのはそれだけで興奮する。

綺麗な顔してるだろ?

こいつ、一児の母なんだぜ?


母乳を頂くついでにエリスのおっぱいを舐め回す俺を見て、彼女は

『もうアムロったら元気いっぱいなんだから』

と笑うのだった。

一方、ミツキは汚物を見るような目で俺を見ていた。

興奮を禁じ得ない。


一見何もできなさそうなエリスだが、断じてそんなことはなかった。

彼女は魔法の扱いに長けていた。

火をおこすのも風をおこすのも水を生み出すのも、エリスが指を振れば一瞬。

家事において、彼女の魔法は最強だった。


エリスのポテンシャルが発揮されるのは、家事に限った話ではない。

驚いたのは、エリスが初めて俺に治癒魔法を使った時だ。

昼寝時にエリスのおっぱいの感触を思い出して悶えていた俺は、うっかりベッドから転がり落ちてしまったのだ。

ドシンという音を聞いて俺の元に駆けつけてきたエリスは真っ青な顔をしていたが、俺の頭に手を当てて何やらブツブツと呟くと、嘘のように痛みがひいていったのだ。


「これで痛くないでしょ、アムロ。母さん、これでも魔法には自信があるのよ。昔は父さんと一緒に冒険者として色んなところを旅したんだから」


言葉も理解できないであろう赤ん坊の前でえっへんとばかりに胸を張るエリスは何だか子供っぽくて笑ってしまったが、俺は身を以て彼女が一流の魔法使いであることを認識したのだった。


「にしても、アムロったらこんな時でも笑うのね。痛いときには泣いてもいいのよ?」


エリスは愛おしそうに俺を抱いた。

俺は勿論、彼女の胸に顔を押し付けた。

その日も彼女はいい匂いがした。

お前の胸柔らかいな、柔軟剤使っただろ。





クールビューティーメイドことミツキは、端的に表すならパーフェクトな女性だ。

フリード家のメイドである彼女は、この家に住み込みで働いていた。

ミツキの仕事は常にパーフェクト。

料理はうまいし、おっぱいは大きいし、掃除洗濯はお手の物。

それに、おっぱいが大きい。


大体のことをそつなくこなすミツキだが、中でも際立つのは剣の腕だろう。

何度か彼女が庭で剣を振るっているのを見たが、あの姿はアレだ、るろうに何とかって漫画で見たヤツや。


そんな強い彼女だが、どうも俺のことは苦手らしい。

俺が何気なくミツキのおっぱいを眺めていると、彼女のロボットのようなポーカーフェイスに僅かに怯えの色が走るのだ。

まあそんなところもかわいいのだけど。


ミツキはメイドである以上、エリスに代わって俺の世話をしてくれることが多い。

俺に接する機会が多い分、俺に赤ん坊としてはあり得ないほど知能が高いことに気づいている節がある。

俺もあまり大それたことはせず年相応に振る舞うように気をつけてはいるものの、彼女の鋭い目はごまかせない。


ただ、大真面目な顔で

『この子、天才かもしれません……』

とか呟くのは勘弁して欲しい。

俺が何か新しいことをする度に

『アムロは天才よ、天才だわ!』

と叫ぶエリスよりはマシだが。





親父は家に来ることは殆ど無くなった。

だが俺は、エリスが時々夜中にいそいそと出かけていくのを知っている。

この世界にラブホなんてものは無いが、どこかでやることをヤっているのだろう。

勿論俺は無駄な詮索はしない。

親父が俺の前に顔を出さないのも、何か事情があるに違いない。

それを無理に突っついてエリスを困らせるようなことはしない。

俺は大人だからな。




======




俺が3歳になったころ、双子の妹ができた。

俺の予想通り、両親はこっそり合体していたのだ。

双子というのもあって出産は多少難航したが、ミツキが神懸かった助産婦スキルを発揮し事無きを得た。

双子の姉はカノン、妹の方はミーシャと名付けられた。


生前の俺に兄弟はいなかったが、やはり妹というのはかわいいものだ。

エリスの娘ならきっと将来は美人になるだろうし、ミツキに育てられれば心の優しい子に育つだろう。

ここは一つ、俺も兄として色々と優しく面倒見てやろう。


「カノンちゃーん、お兄ちゃんでちゅよー。ベロベロバァー」

「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」


いや、やはり教育はスパルタでいこう、そうしよう。





妹といえば、気づいたことがある。

この世界において、俺の黒い髪は相当珍しいらしい。

ヤハーネの住人は皆西洋人のような容貌をしているため、純日本人の俺は浮きまくる。

現に、カノンの髪はエリスと同じ金色だし、ミーシャは薄い茶色だ。


単純に珍しいだけなら良かったのだが、どうやらヤハーネでは黒髪は異端というか不吉というか、とにかくあんまり良くないらしい。

近所の人たちは俺に必要以上に近づきたがらないし、エリスやミツキも妹たちが黒髪でなくてホッとしているところがある。


まあ、この問題については俺はあまり悲観していない。

俺が黒髪だからといってエリスやミツキが俺を避けるようなことはないし、ちゃんとフリード家の子供として扱ってくれている。

現状、俺が生活するのに黒髪が邪魔になることはないのだ。

もし将来困ったことになったら、その時は髪を染めるか、野球部にでも入ってスポーツ刈りにすればいいだろう。





あと特筆することがあるとすれば、この頃から俺は剣と魔法を教わり始めたことか。

ミツキからは剣を、エリスからは魔法を教わるはずだったのだが、


「こうギュッとしてフンってしてエイってやれば火の玉が出るのよ」


エリスがあまりにも感覚派すぎたので、魔法の授業は初日で崩壊。

最終的にミツキが両方教えてくれることになった。

我が家のメイドさんは有能です。





ミツキは滅多に感情を表に出すことはない。

彼女の授業は淡々と進んでいったが、しかし分かりにくいという訳ではない。

むしろ、俺から見てミツキの教え方は実に合理的のように思えた。


剣には様々な流派や型があるようだが、それを学ぶには3歳の俺には早すぎた。

だから剣の授業と言っても、最初は体力作りから始まった。

いきなり剣を持たされてもうまく振るう自信がないのでこの方針に異論はないが、毎日トレーニングばかりというのも気が滅入る。


元の世界では圧倒的インドア派だった俺。

それは、記憶を残し同じ肉体を持つこの世界の俺も、インドア派予備軍であることを意味する。

剣の授業の成績は、あまり芳しいものとは言えなかった。





それに比べて、魔法の授業は楽しかった。


「まず、アムロ様の全身を魔力が巡っているのをイメージしてください」


ミツキ先生の仰る通りに、目を閉じて集中する。

うーん、血液が循環しているようなイメージだろうか。


「魔力の流れをイメージしたら、その魔力を右腕に集めていきます」


む、よく分からないな、こうか?

とりあえず右腕に力を込めてみる。

すると、俺の右腕の中を、何か温かいものが指先に向かって流れていった。


「魔力は指先に圧縮し、その魔力を燃料に火をおこすのをイメージしてみてください」


ミツキの人差し指の先に、ウズラの卵程度の炎が灯った。

おお、すげえ!

エリスが何気なく火を生み出しているのは何度も見たが、こうやって手順を踏んだミツキの魔法を見るのは初めてだな。

なるほどなるほど、燃料を火に変換するイメージ……。


ボッ……。


と、俺の指先にも小さな火が点いた。

とはいえ、俺が生み出した炎は一瞬で消えてしまったが。


「ミツキ、なんか出た! すげえ!」

「アムロ様はやはり優秀ですね。普通の人は最初はまず失敗するんですよ」


柄にも無くはしゃいでしまった俺を見て、ミツキはほんの少しだけ口角を上げて微笑んだ。

そしてその天使のような表情のまま、俺の頭を撫でながら褒めてくれた。

神はここにいたのか……。


「そこまでできれば、あとは簡単です。指先に魔力を込めた時に、炎の大きさ、熱さ、発射速度を設定してください。そうすれば、ほら」


ミツキの指先から火の玉が発射され、庭の木に向けてすっ飛んでいく。

木の幹に激突した火の玉は、ジュッという音を立てて着弾部位を5センチ程焦がした。


「炎属性初級魔法、ファイアボールの完成です」





その後、幾度かの失敗を経て、俺は授業開始から一時間も経たないうちにファイアボールを習得した。

元の世界にいた頃から魔法使いになる妄想をしてきた甲斐あって、俺は瞬く間に主な属性の初級魔法を殆ど習得した。

エリスの才能が遺伝したのかミツキの教え方が良いのかは分からないが、魔法の授業はすこぶる順調だ。





ミツキが俺の家庭教師をしている間、エリスはカノンとミーシャの面倒を見ていた。

双子の姉妹ということで大変そうだと思いきや、


「これよ、これこそ子育ての感覚だわ! やっぱりアムロは大人しすぎたもの。赤ちゃんはこうでなくっちゃ!」


何かあるたびに泣き叫ぶ二人を、嬉々として世話していた。

大人しすぎる息子でごめんよ、母さん。

でも俺、昔からあんまり喋らない方なんだ。

所謂コミュ障というやつだな。





親父は相変わらず顔を出さない。

が、この頃にはそれが当たり前になっていて、俺はもう親父について深く考えることはしなかった。




======




6歳になる頃には、俺は全ての中級魔法をマスターしていた。

上級魔法に手をつけなかった理由は単純だ。

ミツキもエリスも、上級魔法を使えなかったのだ。

上級魔法は高度な技術で、王宮の一部の魔法使いしか使えないレベルらしい。

習得したければ、王都まで行って上級魔法使いに弟子入りする必要があるんだとか。


エリスは、留学してくれば? などと軽い口調で言っていたが、俺は迷うこと無くその提案を断った。

上級魔法を学べないのは確かに痛いが、俺は生まれ育ったこの村を出るつもりはない。

異世界にやってきたからといって、手に汗握る大冒険が始まる訳じゃない。

俺に必要なのは村に近づいてきた魔物を倒すくらいの力で、それには中級魔法さえあれば充分だった。





「卒業試験をしましょうか」


ミツキがそんなことを言い始めたのは、ある晴れた日の昼下がりだった。


「え? 魔法ならまだしも、俺、剣の方はまだ全然だけど?」


そうなのだ。

魔法はある程度習得できたが、剣はからっきしだった。

薄々感づいてはいたが、俺に剣の才能は無かったらしい。

それこそ、一所懸命に教えてくれるミツキ先生に申し訳なくなるくらいに。


「人には得意不得意がありますから。魔法使いが魔法と同じレベルで剣を扱える必要はありません。アムロ様は魔法が得意なので、無理に剣を覚えるよりも魔法の特訓を重点的にしていくべきです」

「んー、そんなものなの?」

「そんなものなのです。そして、魔法に関しては私がアムロ様に教えられることは無くなりましたから、卒業なのです」


ミツキは、無表情ながらちょっと寂しげにそう呟いた。

いつもははちきれんばかりにその存在を主張している胸も、今日はなんだか垂れ気味のような気がする。


「そっか。じゃあやろう」

「試験は十分後に庭で開始しますので、準備していてください」

「はーい」





十分後。

俺は庭で、木刀を持ったミツキと対峙していた。

が、さっきから冷や汗が止まらない件について。

え、卒業試験って、俺が一発すごい魔法を見せて終わりじゃないの?


「ところでミツキさん」

「何ですか?」

「卒業試験って、まさか闘うんじゃないですよね?」

「まさにその通りですが、何か問題が?」


ミツキは表情を変えないまま、首を傾げてくる。

ミツキと付き合いの長い俺には分かる。

これ、何が問題なのか本気で分かってない時の顔や。


「いやいやいやいや、問題ありまくりだよ! 俺がミツキに勝てる訳ないじゃん。それに、」


とここで、俺は玄関先を指差す。

そこには、


「ミツキー。お兄なんかぶっとばせー」

「お兄ちゃん。もししんじゃったら、のうみそひろってあげるね」


金髪ツインテールのカノンと栗色の髪にアホ毛が特徴的なミーシャがいた。


「何あのミツキ応援団。しかも若干一名、何か怖いこと言ってるんですけど!」

「あの二人も3歳になりますので、そろそろ授業を始めようと思って見学させることにしたのです」


ふむふむ、なるほどなるほど。

つまり俺は、妹二人の前でミツキに……。


「やめて! 俺に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに!」

「えろどう……? 何のことか分かりませんが、とにかく始めますよ」


始まりは唐突だった。

ミツキの足が地面を蹴ると、気がつけば俺の前には殺気を放った彼女が。


「ひうっ!」


咄嗟に頭を下げると、頭上数センチのところを木刀が通過していく。

俺の髪を揺らす剣圧が、ミツキの本気度を物語っていた。

危なかった。

冷水をぶっかけられたように冷えた頭をフル回転させる。

接近戦では勝ち目が無い。

何とかして木刀のリーチの外に出なければ。


距離をとろうと後ずさると、当然ミツキは素早い動きで間合いを詰めてきた。

俺はさらに後方へ跳びながら、ミツキの足元に照準を合わせる。


「イラプション!」

「なっ」


ミツキの進路を阻むように、地面から勢い良く溶岩が噴き出した。

しかし、彼女は若干驚く素振りを見せたものの、最低限の動きでこれを回避する。


「ファイアボール!」


その動きを予想していた俺は、足止めにいくつもの火の玉をバラまく。

が、それでもミツキの進撃は止まらない。


「くっ……、サンダーブレード!」


振り下ろされた木刀に対して、咄嗟に魔法を詠唱する。

俺の手から一直線状に放出された雷の束が、何とかミツキの木刀を受け止めていた。

バチバチと音を立てながら鍔迫り合いが展開されるが、この状況は俺にとって好ましくない。


「シルフウィンド!」


どこからともなくやってきた柔らかな風が、俺の体をさらに後方へと運んでいく。

アクロバティックのような動きで宙を舞うが、その間にも詠唱を怠らない。


「アイスニードル! ホーリーランス!」


立て続けに魔法を行使し、十本ほどの氷の針を生み出す。

それぞれがミツキに狙いを定めて飛んでいく針の後ろを、光の槍が駆け抜ける。

時間差攻撃。

これならいくらミツキでも……。


「……エクスプロード」

「え?」


俺が見たのは、信じられない光景だった。

ミツキの足元で爆発が起き、その勢いのまま俺に向かって突進。

針も槍も全てかいくぐり、俺が瞬きする間に、目の前まで距離を詰められた。


どうする。

どう対処すればいい?

避けるか?

受けるか?

そもそもそんな魔法なんて……。


「うわあああああ」


パニックになった俺は、ただ瞳を閉じて君を描いた。

それしかできない。


いつだったかミツキがファイアボールをぶち当てた木の下で、俺は無様に倒れ込んだ。

そんな俺の頭を、ミツキは木刀でコツンと叩いたのだった。





「合格です」


そう言って、ミツキは地面に尻餅をついた俺に手を差し伸べた。

いつもの俺なら喜んでミツキの手をニギニギするところだが、今日に限ってはそれが躊躇われる。


「負けたのに合格なの?」

「はい。剣士相手の接近戦で、魔法のみでこれだけ立ち回れれば文句なしでしょう。私から教えることはもうありません」


ミツキは今まで見たことの無いような優しげな笑みを浮かべていた。

ザ・鉄仮面の異名を持つ彼女の笑顔に、俺は思わず息をのむ。

その笑顔の裏に、俺は彼女の思いやりと俺への愛を見た。


「あなたはこれで卒業ですが、どうしてもと言うのなら、引き続き私の弟子を名乗ることを許さないでもないです」

「……はい、師匠」


俺がミツキの手を取ると、彼女は軽々と俺を地面から引き離した。

自然と、ミツキの顔との距離が近くなる。

六年間で、俺も背が伸びたのだ。


「なんだかとても恥ずかしいことを言ってしまったような気がします……あうぅ」


ほんの僅かに顔を赤らめるミツキに、俺のセイバーがエクスカリバーした。

今なら聖杯戦争にも勝利できそうだ。


「お兄、なんかきもーい」

「お兄ちゃん、にんげんやめてへんたいになっちゃったの?」


が、すぐに俺のエクスカリバーは鞘に納められることとなった。


「うるせえ! 今日の俺は阿修羅さえ凌駕する存在だ!」

「「きゃー」」


何だかフラッグに乗ってそうな台詞を叫びながら、俺は照れ隠しで双子に襲いかかる。

エリスの制止する気のない制止の声が響く中、俺たちの鬼ごっこは家の中まで続いた。


にしても、人間やめた変態か……。

その夜、俺は枕を濡らした。





こうして俺は異世界に転生し、魔法使いになった。

しかし、その代わりに大切な何かを失った。

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