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俺の高校の野球部は死ぬほど弱い

俺の高校の野球部は死ぬほど弱い3

作者: 日光さんDX

俺の高校の野球部は死ぬほど弱いの続編です。

今回でパート3です。

6-0でまだ俺の高校が負けている。

だが、もうその場の雰囲気が違っていた。明らかに流れが俺らにある。

ツーアウト。ランナー満塁。

ここで打席に立つのは三重坂先輩。


「一年」


俺はビクっとなる。声をかけてきたのは試合中に全く無言でいた人。

俺らの高校のエース照橋てるはし先輩だった。


「すまんな。俺が点を取られたばっかりにあきらめムードになっちまって」


「いえ、気にしてないッス」


俺の代わりに岸本が一年代表として答える。

実際、俺も気にしていない。毎回、ランナーこそ背負ったが、ちゃんと締めていた。道光高校に取られた6点だってそのうち4点は鷺沼先輩のタイムリーエラーである。


「今はそんなこと気にするより、目の前のほうを気にしたらどうでしょうか」


少々辛口主張が強い中山が言った。なんか言動にイラっとくるものが多々あるが、今回限りは彼に賛同だ。


「そうです。今はピッチャーに集中しましょう」


「そう……だな……」


照橋先輩は軽く頷いてから、ストレッチを始める。

そして、突然に、


「フォアボール!」


と審判が高らかに声を上げる。

これで念願の1点である。三重坂先輩は俺らベンチに微笑みながら、親指をたてる。


「男が微笑むとやっぱりキモイな」


中山が呟く。そこ、先輩をディスるんじゃありません。


「じゃあな一年。必ず出塁するから打ってくれよ」


照橋先輩はベンチから出ていく。目の前にはホームを踏んだ鷺沼先輩がベンチに帰ってくる。それぞれ目を合わせ対峙する。

お互いにニヤリと笑いハイタッチをした。

照橋先輩は鷺沼先輩のエラーを何も気にしていないのか、それとも、場の流れなのか分からない。

けれど、そこには彼らの強いなにかを垣間見た気がした。


「ただいま~。寂しかったよ~」


鷺沼先輩はいつものテンションでベンチに帰ってくる。バッターボックスで見せたあの真面目な表情の面影はなかった。

俺は思わず、質問してしまっていた。


「先輩は全部わかっていたんですか?こうなるってことを。こういう結末をシナリオ通りに予想してたからこそあんな余裕だったんですか」


鷺沼先輩はわざとらしく考えるような素振りを見せる。口元が緩んでる。これはわざとに違いない。

鷺沼先輩は鷺沼先輩らしくケラケラと笑い返す。


「いやだな。僕は何もしてませ~~~ん」


舌をチロリとみせ、赤ん坊をあやすかの振る舞いで両手をひらひらとふる。

マジで腹立つ。


「本気で言っているんです」


と俺が強く主張すると、鷺沼先輩は肩をすくめる。口元が緩んでいるのは変わらないが、ふざけるのはやめたらしい。


「あのさ。野球が一人の力でどうにかなったら、それは野球じゃないでしょ」


鷺沼先輩は一拍おいてから、


「ヒットがでなくても野球は勝てる。ホームランがでなくても野球は勝てる。だから……弱くても勝てる。そういうスポーツだ。野球っていうのは」


俺に不敵な笑みをみせて、まだ口が減らず話を続ける。


「そんなスポーツだから実質僕は何もしてないよ。いやいや、ここら辺はホントだよ割とマジで。ただちょっとだけ相手を揺さぶったぐらいさ」


鷺沼先輩はそこで話をやめた。そして、次の4番である部長の渋先輩に目を向ける。俺もつられて部長を見た。

渋先輩はタイムをとり、素振りを数回していた。

そして部長は素振りをやめ、ある行動をした。

右方向スタンドにバットを向ける。


予告ホームラン。


俺は呆気にとられて唖然としていた。言うまでもなく、相手チームも。

会場はしんと静まり返る。

一人を除いて。


「くくく……くははは……はははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!馬鹿だ!馬鹿がいる!あそこに本物の野球バカがいるぞ!」


鷺沼先輩は一人大爆笑していた。

会場は鷺沼先輩の声だけで包まれている。


「予告ホームランってどこのベーブルースだっつーの。はははははははははははははははははははははははははははははははははマジあいつ馬鹿だろ!」


ツーアウトでバントエンドランを薦めたあなたも大概だけどな。

と俺は思いつつ、


「部長!お願いします!」


不思議と俺は応援できた。これがキャプテンの安心感というものなのかと感じるぐらい本当に予告ホームランを実現できそうだった。

相手ピッチャーはニヤリと笑う。その表情は身の程をわきまえろという顔はしておらず、逆にやれるもんならやってみろという闘志を燃やしている風に感じた。


「プレイ!」


という審判の合図とともに試合が再開された。


一球目。初球だった。

部長は相手の配球を読んでいたのか迷いのないスイングで力強く振りぬく。



芯に当たる快音が響き渡る。そして、指名した通りに右スタンドの場外へとボールは消えていった。

予告ホームラン。


正確に言えば、予告満塁ホームラン。

これで6-5で1点差である。


相手チーム唖然。

会場喝采。

鷺沼先輩爆笑。


「よう。後は頼む」


部長がベンチへと帰ってくる。俺はネクストバッターサークルに向かう直前にそう言われた。

俺はその言葉を頂いて燃えないわけがない。


「任せてください!」


絶対、同点に追いついてやる。






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― 新着の感想 ―
[一言] どうも。友城にい、といいます 先にある感想と似たり寄ったりな感想なんですね(笑) 「1だけ」と惹かれたタイトル。気づけば そのまま1~3を一気読みしてしまいました。恐ろしあd(⌒ー⌒)…
[一言] いやぁ、1〜3まで一気読みしてしまいました!(^^) 淡々と進んでいるように見える試合ながらも、要所要所でストーリーを盛り上げる展開はとても上手いと思います◎ 読みやすく、熱くなれる、自分…
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