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冬が終わるまで  作者: なつる
十二月
11/17

2 (R15注意)

「結構食ったなぁ」

 今日はしのぶのオゴリだという。先日実家まで送ってもらった礼だというのだ。

 その料理も残り少なくなり、残り物をつまみながら二人でビールをチビチビと飲んでいる。既に二十三時を過ぎた。しのぶもさすがに飲み疲れたようでペースがグンと落ち、会話も途切れるようになってきた。


「なんだ? ニヤニヤして……」

 口数が減った代わりに、しのぶはニコニコした笑顔で五嶋をじっと見つめている。深酔いしてるようには見えないが、その瞳が夜という魔の時間を反映して、妖しく光っているようでもある。


「そろそろ帰ったほうがいいんじゃないか」

「えー? 夜はまだ始まったばかりでしょ」

「ここで飲み明かすつもりかよ」

「……それもいいかもね」

 しのぶは缶ビールの残りを飲み干して、息をついた。

「お前、飲みすぎだろ。送ってってやるから、帰って寝ろ」

「えーやだー」

「冬休み初日から、二日酔いで過ごす気か?」

 そう言って、五嶋は気づいた。


「冬休みと言えばお前……正月はどうするつもりだ?」

「どーしよっかなー……実家に帰ってもしょうがないしねー」

 しのぶは何か思いついたようにニヤリと笑った。


「……先生、おせち料理一緒に食べてくれる?」

 しのぶは冗談めかしていたが、五嶋は彼女の切れ長の瞳をまっすぐに見て、微笑んだ。

「またオゴってくれるならな」

 意表を突かれたように、しのぶはビックリして目を丸くする。

 それから彼女もまた微笑を浮かべて、五嶋の目をまっすぐに見つめ返した。


「……先生って、やっぱり優しいね」

 五嶋はその視線から逃れるように、横を向いてビールをあおった。

「ホメたって何も出やしないぞ」


 テーブルの向こう側に座っていたしのぶが、四つん這いでゆっくりと忍び寄ってきた。その姿は、長い尻尾をピンと立ててすまして歩く猫にも見える。

 しのぶは五嶋のすぐ横に腰を下ろすと、通った鼻筋を五嶋の横っ面に近づけた。


「ね、先生……セックスしようか」


 香水の甘い香りが鼻をくすぐる。

 五嶋は表情一つ変えずに答えた。


「お前……やっぱり酔ってるな」

「酔ってないよ。アレぐらいの酒で酔うほどヤワじゃないの」

「じゃ、オレをからかおうって魂胆か」

「ひねくれてるなぁ、もう」


 そう言うと、しのぶは突然五嶋の唇を塞いだ。

 柔らかい唇の感触を楽しむ間もなく、生温かい舌が口の中に滑り込んでくる。されるがままにしのぶに任せていると、床の上に身体を押し倒された。

 しのぶは五嶋の上に馬乗りになって、それでも唇は塞いだまま離そうとしない。

 口の中で舌を絡め取り、拒否の言葉まで奪い去るかのようだ。


「……女に押し倒されるのは趣味じゃないんだがな」

 唇がようやく離れて、負け惜しみのようにそう言うと、しのぶは濡れた唇を満足げに歪めた。


「いいじゃない、たまには」

「満足したんなら、そこどいてくれ。重いぞ」

「まだ満足してないんだけど」

 しのぶは五嶋のワイシャツのボタンに手をかけた。


「……女に脱がされるのも趣味じゃないんだけどな。一体何が目的なんだ?」

「純然たる性欲」

 屈託のない笑みを浮かべて、彼女はそう言い放った。

「単にヤリたいだけだって言うのか?」

「そう。女だってヤリたくてしょうがない時はあるの」

 しのぶはボタンを外す手を止めて、五嶋の頬をそっと撫でた。


「一回ヤッたからって、恋人ヅラするわけじゃないから安心してよ。今夜一度きり」

「逆にオレがお前にイレ込んじまう可能性は考えないのか?」

 そう言うと、しのぶはどこか寂しげに笑って見せた。


「……私は三月になったら卒業して、ここからいなくなっちゃうのよ。だからさ、今夜一度きりのいい思い出にしようよ。後腐れは一切なしってことで」

「ずいぶんと都合のいい話だな」

「でも、先生にとっては悪い話じゃないでしょ?」

「そうは言ってもなぁ……」


 煮え切らない五嶋に、しのぶは意地の悪い笑みを浮かべた。

「まさか……教師と学生って関係に尻込みしてんじゃないでしょうねぇ? 怖いもの無しの五嶋先生がそんなことでビビってるわけ──ないよねぇ?」


 こんな言い方をされては、退路が断たれたも同然だ。しのぶの作戦勝ち、前に進むしかなくなる。

 五嶋は腕を伸ばして、しのぶの顔を引き寄せた。

 今度は自らの意思で、軽くキスする。


「……後悔するぞ?」

 五嶋の問いに、驚くほど澄んだ瞳で、しのぶは言い切った。

「後悔なんて……しないわよ。先生だから……」


 彼女の瞳に映る自分の姿が、次第に揺れ始める。

 腕を引いて転がるように上下を逆転させると、乱暴に口付けして、しのぶの瞳の中から逃げ出した。


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