下剋上 少年の名前は 黒羽 涼。 A wise head makes a close mouth.
能ある鷹は爪隠す
☆
ドカッ!
「気持ち悪いんだよ!お前!さわんなよ!」
「オタクー!うわぁ!キモイー」
倒れるのは、黒髪の少年。
せせら笑う男子と、くすくすと笑う女子。
彼は、その中にいた。
その輪の中心で、彼はうつむいて黙っていた。
☆
「………ぇ、ねえ!」
誰かが呼んでる?ん、寝てたみたいだ。暴言吐かれてたのに、寝るとか…。
え!?
だ、だれ…?
え、呼んでる?
呼んでる!?
ガバッ!
そこには、見知らぬ女子生徒。
顔は見えない。
だって、俺はうつむいているから。
どうせ、こいつも俺を笑いにきたのだろう。
何されたって、黙ってうつむいている俺を!!
俺だって、好きでやられてるんじゃないのに!!!!反撃したいのに!!!
「何のようですか?!」
俺は叫んだ。
あっ、しまった。こんな風に言ったら、またひどくなるだけだ。この女が、主犯の奴に言うのだろう。
もう、どうでもいい。いじめるなら、すきにしろよ……。
目をギュッとつむった。
「えっと、黒羽 凉くんですよね?
はい、これが、落ちてましたよ?」
そいつは、そう言った。
差し出されたのは、一冊の教科書。
「え…、あ、ありがとう。」
う、嘘だろ?
いじめられてるんだぞ、俺は!
呆然としていると、 ガラガラ という音がした。
「え?」
顔を上げれば、そこに、女子生徒の姿はなかった。
しまった。お礼もちゃんとしていないのに…。
まあ、いじめられてる俺になんか話しかけて欲しくないよな。
はぁ。
教科書…、返ってくるとは思ってなかった。うーん、ふ、不思議な感じがする。
みんな、俺がいじめられていても見て見ぬ振り、それか、加勢する。女なんて。女なんて、俺を助けることはなく、俺を惨めだとあざ笑う。だからこそ、意外だ。
ん?
あれ、俺の教科書ってこんなんだっけ?
あれ?
確かに、これも汚れてるけど、
ん?あれれれれ?
名前…、
俺のじゃない!
俺は確かに名前書いた!
この教科書には、違う名前が書いてあるし、書き込みがたくさんしてある。
もしかして、あの子のもの?
か、返さなくちゃ!
☆
その日、俺は、彼女の下駄箱に手紙を入れた。
主犯にみつかると面倒だ。俺はともかく、彼女は巻き込めない…!
手紙を入れるとき、告白するときってこんな感じなんだろうな…。
そんなことを、考えたら、頬が赤くなった。
恥ずかしい!!!
☆
ガチャ。
屋上の扉が開いた。
そこには、先日の彼女がいる。
キョロキョロして、かわいいなぁ。
はっ!!!!
俺は、何を考えてるんだ!
「えっと、神狩さん?」
びくっ!
彼女が恐る恐る振り返った。
「だ、誰ですか!?わ、わたしを呼び出して、な、何をする気です!?」
え?勘違いしてないか、彼女?
あ、そうだ。今の俺、情けない姿あれ以上見せたくなくて、姉ちゃんの言ったとおりの格好なんだ。
昨日、にやにやしてたけど、そんなに俺、変わるのか?
はっ!と、とりあえず、彼女を落ち着かせないと………、
「あ、神狩さん、俺だよ!黒羽。黒羽 凉。」
できるだけ、穏やかな顔で、微笑み?ながら、言うと、
「えっ!黒羽くん!?嘘!全然違うよ!かっこいい!」
なんて、言われてしまった!
やばいやばい!!!よくわかんないけど、顔が赤くなってる!!!
えええええええ!こういうときは、どうすればいいんだ!!えええええ?!?!?
「…えっと、黒羽くん?」
あ!か、神狩さんがいるのに、お、俺は何してるんだ!!
「神狩さん!」
「はい!」
「これ、君のじゃないかな?」
神狩さんに、教科書を差し出すと、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。あ、あれ?俺間違えた?
「く、黒羽くん、そ、それ……」
「神狩さん、間違えて俺に渡したみたい。なくて、困ったよね?俺のと交換しよう?俺の奴、その、いじめられてるから、汚いし…。」
できることなら、彼女にいじめられていることを自分から伝えたくなかったけど…。現実を見据えなければならないよね…。
「く、黒羽くん!」
彼女が教科書を俺に押し返してきた。
「神狩さん?」
「そ、それ!黒羽くんにあげる!」
「え、え、でも!」
「いいの!!その、実はわたし…………」
彼女はいきなり、うつむいた。
そして、
「わたし、あの日、黒羽くんの教科書が、ボロボロにされた教科書を見つけたの。
黒羽凉っていう人がいじめられていることを知っていたの、わたし!そ、それで……」
ズキンッ。
彼女が、俺がいじめられていたことを知っていたことと、彼女も、結局あの女たちと変わりないことに胸がなぜか、痛んだ。
「それで!黒羽凉って名前見て、わたしよりも生ぬるいいじめなんだろうな って、思ったの!」
え?
心の中で声が響いた。
「でも、実際に黒羽くんのいじめは、わたしよりすっとひどかった!教科書には、その、…。黒羽くんの教科書には、嫌な気分にしかならないことしか、書かれていないし!
わたし、自分が一番の被害者だと思ってたの!
だ、だから、偽善者だけど、わたしのまだきれいな教科書を使ってほしくて…。」
神狩さんは、うつむき、震えながら、俺にそう告げた。
か、彼女、もしかして、俺らの学年でいじめられてる、女子生徒なのか…?
え、神狩さんもいじめられてるの…?
「もし、もしもだけど、黒羽くんが、よかったら!許してくれるなら!わたしと、その…
友達になってくれませんか…?」
これが、神狩さんとの出会いの一かけら。
☆
「すごい!すごいね、神狩さん!」
「えへへへ、て、照れるよ、黒羽くん…。」
俺と彼女は、昼休みに屋上で一緒にご飯を食べながら、互いに愚痴を言ったり、夢を語り合う仲になっていった。
この関係は、俺に心地よいもので、ずっと続くことを求めていた…。
☆
やばい。いつもよりも遅くなった!
階段を駆け上がり、屋上に向かう。
「ごめん!おそくなった!」
でも、そこには
「あれ?」
神狩さんの姿はない。
「やめてよ!」
屋上から見下ろした裏庭で、彼女はあの日の俺のように囲まれて、
泣いていたんだ。
☆
「お前かよ!俺らの獲物に勝手にエサやったのはぁ!!!」
「くすくす、馬鹿ね。そんなにいじめてほしかったの?」
「く、黒羽くんのことを、悪く言わないで!!!」
バチンッ
赤くはれる彼女の頬。
「まあ、いいわ。あんたのこれ、壊してあげる。いつも持ち歩いていて、気持ち悪いのよ!」
「やめて!!!」
女の足が、神狩さんの宝物を踏みつけようとしている。あれは、神狩さんの大切な夢の欠片の一つ…。
男が、神狩さんを押さえつけている。
あいつらが、せせら笑っている。
俺じゃなくて、神狩さんを…!!
そして…
神狩さんが、泣いている。
ああ、なんだ、簡単なことじゃないか…。俺は、俺は…。神狩さんといて、心地よかったのは、今のこの情景に俺がこんなに怒っているのは、神狩さんのことが、………だから。
だからね、神狩さんをいじめるのは許せないな。
「黒羽くん!?」
☆
「ねえねえ、大ニュースよぉ!?」
「なになに!?」
「黒羽凉が!あの、黒羽がいじめのグループに、か、か、か、勝ったのよ!!!!」
「えっ!う、うそぉ!!」
「それだけじゃないわぁ!!!黒羽って、いっつも眼鏡かけて、女みたいに、髪を、おろしてたじゃない!!」
「え、う、うん!」
「そ、それでね!
黒羽が、眼鏡とって、髪の毛を結ぶと………、
い、イケメンだったのよ!」
「え、えええええええええええええええええええええええ!!!!????!!?」
☆
今日の昼も、屋上だ!あの日から、俺へのいじめがなくなって、神狩さんへの、いじめもなくなった!
そして、俺と神狩さんは!
ガチャ
「ごめん、遅くなった!」
「全然待ってないよ!
凉くん!」
「あ、ありがとう?
薫。」
俺らは、校内で有名なカップルになった!!
その名も『下剋上カップル』
そのまんまだけどね。
☆
俺の名前は、黒羽凉。この間まで、いじめられていたとある、男子生徒。
同じようにいじめられていた神狩薫に恋をして、彼女のいじめ現場に遭遇。
そこで、親から言われていた喧嘩をしてはいけないという言いつけをやぶり、姉からの普段、特別な場合以外は眼鏡をとって、髪を結んではならないという言いつけを破った。
父親が、警察関係の人だったから、武術を俺は、だいたい身につけていた。
そのため、喧嘩なんかしても俺が勝つ。けれど、喧嘩をすると、相手がケガをするからやめてきた。
そんな俺だが、惚れた女の涙には弱かったみたいだ。
神狩さん、いや、薫が泣いているのを見て、我慢ができなくなった。
そう、初めて俺の本当の力?と容姿?を見せた。
そうしたら、みんな、俺をおそれ始めたし、女たちは俺をバカにしなくなった。
薫のいじめをなくすには、時間がかかったけど、万事解決したし、
本日は快晴。下剋上達成。
愛しの薫、と屋上にて。
黒羽 涼
男の子。眼鏡をして、髪をおろすと地味だが、眼鏡をとって、髪を結べばイケメンというご都合主義男子。運動も勉強も得意だが、いろいろな人に目をつけられたくなかったので、手を抜いていたが、薫の「一生懸命っていいですよね!」という言葉で、爪を出し始めた鷹www
神狩 薫
涼の彼女。将来の夢は…で、(今は伏せておきますね)平凡な女の子。