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いばらの冠  作者: サモト
忌み枝
52/53

おまけ

*神サマの思い通り


「ご領主様のところでは、治癒魔法の基本は、キ、キスなんですね」

「マリアのところはちがうの?」


「私のところでは、手をあてます。でも、キスもありですよね。要は、相手に触れることによって、自分のもっているエネルギーを相手に分け与えるのが目的ですから。手でも、キスでも……」


「え? じゃ、べつに、どっちでもいいってこと?」


「はい、たぶんどっちでも――いえ、そんなことないかも。口の方が効率いいかもしれないです。私、カークに試してきます! キ、キスしてあげれば、気絶しているカークも、すぐ目が覚めるかも!」


 きゃああ、とマリアは顔を赤くする。

 一方で、ロゼットとエセルは急速に表情が冷えていた。


 ちょっと出かけてくる、と部下たちに一言いい残して、二人はどこかへ消えた。




*神サマのいうとおり


「このセクハラ大魔神! どさくさにまぎれて、どういう嫌がらせだこの野郎! あんな治療なら、まだ痛い方がましだ!」


「ええ? いばら姫、痛い方が好きなの? Mだったのかあ。意外」

「そのゲスな口を閉じろ。いや、閉じなくてもいい。島民全員を避難させてから、貴様を島ごと沈めてやる」


「なんでエセルも怒ってるの? せっかくスキンシップをはかれる機会だからと思って、うれしはずかし、楽しい方法を提供してあげたのに。

 そっか、キスがハードル高いなら、抱きしめるとか、なでるとか、なめるとかでも大丈夫だよ?」


「殺すぞ」

「どっちもそんな方法、望んでないから。もっとまともな方法教えろ」


「まともって、どれもめちゃくちゃまともなんだけどなあ。

 治癒魔法で一番大事なことは、相手を想う気持ち。相手に治って欲しいって、元気になって欲しいって思うこと。

 それを伝えるには、相手に触れるのが一番でしょ? 言葉がなくても伝えられる、最高の手段だ。


 触れるのはね、相手に自分のエネルギーを分け与える効果のほかに、相手に治したいっていう気持ちを高める効果もある。

 自分が大事に思われているってわかれば、だれだって早く治したいって思う。身体の治癒能力が高まるんだよ」


「……」

「……」


「要するに、愛が大事ってコト。愛こそ治癒魔法の奥義といっても過言じゃない。

 あ、いばら姫、頬の傷、消えたねー。古傷って消えにくいんだけど、きれいに消えたねえ。上出来上出来。

 もともとエヴァンジェリン、治癒魔法は得意なはずだからね。エセルは心のガードが固すぎるからダメだけ。感情を制御しようとするあまり、心を抑えすぎ。

 いばら姫、君には感謝してるんだよ? 嫌がらせするなんて、とんでもない。君のおかげでエセルは、自分のなかのやさしーい心に気がついて、レベルアップまちがいなし――

 ちょ、なんで帰るの、二人とも。来て五分と経ってないのに」


「うるさい。僕は僕が帰りたいときに帰るんだよ」

「貴様のたわごとに付き合っていられるか」


「夏と冬のバカンスと、年始年末くらいは帰っておいでね?」

「里帰りか!」


 返り討ちにあった気分の二人だった。




*肖像画


「そういやエドロット、伯爵は肖像画って描かせてないの?」

「あるけど……」


「何その訳ありな感じ」

「まあ、見せてやるよ。宝物庫の奥でボロ布にくるまれて荒縄でしばってあるこれだ」


「………………何これ」

「伯爵」


「それはわかるけど! なんで背景にバラが咲き乱れててムダにキラキラしてんの!? 気持ち悪っ!」

「画家いわく、見えた通りに描いたらそうなったらしい」


「庭で描いたの? 鳩? の白い羽根とか舞ってるし」

「いや、室内だけど」


「……何をどうしたらこうなるんだよ」

「誰に何度描かせてもそうなってさ。最後は伯爵が『ありのままに描けといっているだろう! おまえらの目は腐ってるのか!』ってブチ切れて中止」


「よく燃やさなかったね」

「燃やしとけっていわれたんだけど、執事さん、仮にもご主人様の肖像画を燃やせないからって取っといているんだよな。

 ……ってか、前は五枚あったんだけどな。一枚ないな」


「……そういや、前に師団長がコソコソ」

「職人に額縁特注していたような」


 二人はよけいな詮索はせず、黙って元のとおり封印した。




*アナタにふりむいてほしくて


「おーい、エセル! エセル! こら! 無視すんな!

 くっそー、あいつ。とことん人を無視しやがって」


「そりゃ、カーク、君の呼び方じゃ、聞こえるわけないだろ」


「聞こえないわけないだろ。あんだけ大声で呼んでんだから」

「僕なら今、君と話している声量でだって、ふりむかせられる自信あるよ」


「嘘つけ」

「おーい、そこの寝起きの悪い陰険女顔男ー。ほら、もうふりむいた」


「……」



*理由


「伯爵は、なんであんなにカークのこと無視するの? 何かあったの?」

「何かというか……あれに幽霊が見えることは、昔から知っていたからな。万が一、私が魔法使いだと悟られると面倒だから、なるべく関わらないようにしていただけだ」


「なんだ。小さいころ女の子だと間違われて告白されたの、根に持っているんじゃなかったのか」

「なんで知ってる」

「とある筋からの情報。勘ちがいは昔からの特技なんだなあ、あいつ」



*前途多難


「しかし、今回の勘違いについては、おまえが悪いんだろう。前からいおうと思っていたが、男装はやめろ。周りが混乱する」

「いいじゃん、似合っているんだし。こっちの方が動きやすくていいんだよ」


「そういう問題じゃない! 男の格好なんてしているから、性格も凶暴になるんだ。ドレスも用意してやったから、着ろ」

「えー……気が進まないんだけど」


「今日の正餐は、その格好でないと抜きだぞ」

「……しかたないな。わかった、君がそこまでいうなら。着てやるよ。

 ―――これでいい?」


「……………まあ。いいんじゃないか」

「もっと近くで見てから言ってくださる? 伯爵様」


「いや、それでいい。大丈夫だ」

「お顔そらさないでいただけますぅ? 伯爵様」


「もうわかったから寄るな触るな話しかけるな!」

「人に女の格好しろっていう前に、女嫌い治せこのバカ伯爵――ッ!」


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