第9回
それから季節は春を過ぎ、5月になっていた。僕は相変わらず条件の合う求人を毎日確認するだけの日々を送っていた。「簿記2級」を検索していたことも忘れていたくらいだ。
そんなある日、青果卸売会社の事務職の求人を見つけた。早速、僕はハローワークに駆け込み、応募することを決めた。仕事内容は青果の入荷情報や注文データのパソコン入力から伝票整理、請求書発行、電話や来客対応とシンプルなものだった。これといって、取り柄のない僕にとってぴったりの仕事だと思った。
面接の日は5月というのに生暖かく、湿気がある空気が僕を包んでいた。スーツを身にまとい、ネクタイを締め、面接へと向かった。
「佐藤悠真です。本日、面接へ参りました。」
というと、応接室へと案内された。応接室といっても事務室の一角にあるソファーと机のセットだけでパーテーションで区切られてもいない。
しばらくすると会社の社長と現場を統括する部長が現れた。挨拶もそこそこに履歴書と職務経歴書を手渡した。履歴書と職務経歴書を2人が回して読むと一言、質問された。
「なんで、どちらの会社も半年で辞めているのですか?」
前に面接に行った物流会社の面接官より丁寧な口調が逆に緊張感を煽った。
「はい、物流会社では力仕事に従事していたのですが、適正として物流を支える立場の方が向いていると思い、退職しました。農業関係の会社では私自身の体力を過信し自己管理を怠ってしまったためです。」
事前に覚えておいた想定問答を覚えただけの台詞だったが、声が詰まり震えてしまった。
面接会場の事務室が一瞬凍ったような雰囲気を感じたのは僕だけだろうか。
「なるほど。分かりました。部長から何かありますか?」
社長が部長へ問いかけると、
「うーん…特には大丈夫です。」
これで面接は終了した。僕は不採用を早々に悟り、とにかく質問をした。
求人内容の確認から仕事内容から駐車場の場所や社内規則まで。
「結果は後日、送りますので。」
今回の面接ではお叱りを受けることはなかったが、僕の存在が空気のような、もっと言えば厄介者の相手をするような対応だった。現実問題、男女雇用機会均等法があるとはいえ、「一般事務」は女性の仕事というのが、特に地方では不文律である。最近では正社員の求人が少なくなり主婦層向けのパートや派遣社員が大半を占めているように感じる。そんなことを尻目に後がない26歳の働き盛りの青年が応募して採用される求人ではなかったのだ。
(厳正なる選考を行いました結果、誠に残念ながら今回はご期待に沿いかねる結果となりました。)
後日、履歴書と職務経歴書に合わせて入っていた文書にはこう書かれていた。
何度、不採用を食らっても、いくら不採用だと事前に悟っても現実的に社会から厄介払いされると精神的に来るものがある。
ベッドでスマホを取り出し、SNSを見るとバラ園に行って友達に撮ってもらった白石ひなの写真が投稿されていた。
スマホの中で輝く笑顔を見ながら、僕は一人涙を流すと共にある決心をしたのである。
「よし、簿記2級のテキストを買おう……。」
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