表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/71

70話 観測開始:5年9日目-5 / Guided_Freezing_Birds.ver.1.0

 --------------------

 

 [SUCCESS] 新規連携プログラム『Guided_Freezing_Birds.ver.1.0』の登録が完了しました。


 --------------------



 作業に割り当てていたコアの処理領域が、身体の神経回路へと再接続されていく。

 そして、少しずつ五感がシステムへと流れ込んでいき――。


「……にゃにを、しゃれていふのれしゅか?」


「む、エデン。戻ったか」


 視界いっぱいに映ったシエルが、エデンの頬をむにゅ、と摘まんでいた。

 シエルが手を離すと、その隣からアリシアが同じように頬に手を伸ばそうとしている。

 エデンがアリシアを見つめると、彼女はばっと手を引っ込め、自分の頬を両手で隠した。


「だめー! おねえちゃん! アリシアのほっぺは、だめなんだからー!」


「駄目……? うん。アリシア、分かったわ」


「……え?」

 

「それで、エデン。突然固まったから心配したぞ。いったいどうしたんだ?」


 彼女の表情は晴れやかな笑顔だが、どうやら心配をかけてしまったらしい。

 だが、成果は得る事ができた。


「はい、新しい魔法を構築していました。ここから、灰狼を仕留めます」


「さっきもそう言っていたけれど……ここから、500メートルくらい離れているんだよね?」


 エデンが改めて魔物の位置を確認すると、灰狼たちは少し移動しており、今の距離はおよそ650メートル。


「はい。問題ありません」


「……そうか。なら、見せてもらおう」


「……おねえちゃん、あたらしい、まほう?」


「うん。アリシアも、見ててね」


 エデンがそう伝えると、アリシアが嬉しそうにぱっ顔を輝かせた。

 右手をそっと前に出す。

 皆から興味の視線を浴びながら、構築したばかりのプログラムを起動した。


「――いきます」


 

 --------------------

 

 [REQUEST] 魔法連携プログラム『Guided_Freezing_Birds.ver.1.0』の実行を要請。


 [SYSTEM] 連携シーケンスを開始。サブシステムをコールします。


 [SUB_SYSTEM] アプリケーション『マジックソナー』を起動... 広域探知データを同期。


 [ANALYSIS] 探知データを解析... ターゲット『灰狼』3体の座標を特定。


 [CALCULATING] 各ターゲットへの最適障害物回避ルート(Guided Root)の演算を開始... 完了。


 [SUB_SYSTEM] 魔法プログラム『Ice_Familiar_ver.2.03 Model;Swallow』の生成シークエンスを開始。


 [PARAMETER] 生成数:3


 [PROCESSING] 基礎パラメータをロード... 各個体へ最適化ルートデータを同期シンクロ中...


 [EXECUTING] 全パラメータを適用し、魔力変換及び、相転移プロセスを開始...


 [SUCCESS] 使い魔(Swallow)x3 の生成を完了。


 [STATUS] 全3機、スタンバイモードへ移行。マスターの実行コマンドを待機します。


 --------------------



 放たれた魔力が、瞬時に3羽の氷で形成された鳥へと姿を変える。

 それはエデンの周りを軽やかに羽ばたき、日差しを反射してきらりと輝いた。


「おー! おねえちゃん、きれいなとりさん!」


「へえ……。凄い繊細な魔法だね。本物みたいに動いてる」


「うむ、見事だな。だが、それだけではないのだろう?」


 シエルに促され、エデンは頷くと凛とした声で呟いた。


「――行きなさい」



 --------------------

 

 [COMMAND] Guided_Freezing_Birds.exe --RUN


 [SYSTEM] 全3機、全自動誘導フルオート・ガイダンスによる突入シークエンスを開始。


 --------------------


 

 その声を合図に、三羽の鳥は一斉に森の奥へと飛び立った。

 それはみるみるうちに速度を上げ、あっという間に視界から消えていく。

 枝の間を巧みにすり抜け、岩の上を滑るように滑空する。

 そして森の中を無警戒に歩いていた三体の灰狼、そのがら空きの横っ面に――。


「……着弾を確認。灰狼三体、全て倒しました」


「む?」


「は?」


「お?」

 

 エデンの淡々とした報告に、疑問の声が返ってきた。

 木々の向こうでは、確かに灰狼の頭部が無惨に吹き飛び、その骸が地面に転がっているのだが。


「あの……灰狼を倒したことを、報告したのですが」


「おねえちゃん、すごーい! どうやったの!?」


「いや、言ってる意味は分かっているぞ。こんな森の中、どうやって魔法を当てたのだ?」


「エデン、今の魔法はなんだい? ただの鳥じゃないんだね?」


 一斉に向けられた興奮気味の声に、思わずエデンの体がたじろぐように後ろへ下がる。


「そ、そうですね。最適な飛行ルートを、予め設定しましたので」


「設定? エデン、簡単に言うがな……」


「されで、今の魔法は、なんて名前なんだい?」


 名前なんて、考えていなかった。だが、仮として付けたプログラム名は。


「そう、ですね……。安直ですが、『導かれる氷結鳥』、でしょうか」


「導かれる、ね。まあ、確かにそんな魔法なんだろうけど」


「ジン。とりあえず見に行ってみんか? どうなったのか見てみたい」


 シエルに促され、皆で着弾地点へと足を踏み出す。

 すると、アリシアがエデンの傍に来て目を輝かせた。


「おねえちゃん。いつもと、ちがうとりさんだった?」


「うん。よく分かったね」


「えへへー。さっきのまほう、すごかった!」


 歩きながら、アリシアが楽しそうに手を上に上げた。

 設計通りに稼働し、目標を撃破できたから、一応は成功と言える。

 だが最適化の余地と、それに課題もある。処理が複雑すぎて、通常の魔法と同じだけの数を生成できない。これを解決するには――。

 ふと、頭上から降り注いだ鳥のさえずりに視線を上げる。

 木に作られた巣穴から、数羽の小鳥が顔を出しているのが見えた。


「……最善とは、言えませんが、まあ、当面は……」



 *********



「……『導かれる氷結鳥』、か」


 焚き火が発つ灯が顔に揺らめく中、シエルはぽつりとその名を呟いた。

 道中に見つけた小さな洞窟に留まり、夜が明けるのを静かに待っている。


「どうしたんだい?」


「ああ、いや……。エデンの魔法について少し考えていてな。衝撃的だった」


 シエルの言葉に、ジンも昼間の光景を思い返す。

 魔法の結果を確認しに行ったら、三体の灰狼が頭部を破壊され息絶えていた。

 威力は通常の魔法と変わらないと謙遜していたが。

 遮蔽物の先を正確に打ち抜く。その精密さと応用範囲の広さを考えれば、もはやまったく別の魔法だ。


「そうだね。あんな魔法は、俺も初めて見た」


「あの様子だと、本人はどれだけ凄いことか分かっていないな。遥か先にいる相手を倒せる、そんなこと出来る者など……まあ、一人は心当たりはあるが」


「はは。フィフィはS級冒険者だけどね」


 五年前に別れた、どこかつかみどころのない森人の少女。その顔を思い出し、ジンは小さく笑った。


「それにしても、面白い子だね。見た事もない魔法を使えば、突然鳥の姿になったり。……レイラも、もちろん凄かったけど」


「そうだな。あの美しい鳥の魔法、まるでレイラみたいだ。それに探知スキルは……」


「まるで、ディーンみたいだね。それに、アリシアもゴブリンを真っ二つ。どう育てたら、5歳児がああなるんだろう」


 二人とも、ゴブリンを一撃で倒していた。

 何度か魔物と戦わせてみたが、まるで相手にならなかった。


「やっぱり、親バカじゃなかったかな」


「……いや、あの手紙は、親バカな部分もあっただろう」

 

 洞窟の奥に目をやれば、これまたエデンが作った奇妙な水のベッドの上で、アリシアがぐっすりと眠っている。

 あの魔法もかなりの物だ。

 レイラも似たような物を作っていたなと考えていると、ジンが焚火に枝を投げ入れた。


「二人とも、本当にディーンの娘なのか」


「なんだ? それはそうだろう」


「……俺にとって、ディーンが父親だなんて想像できないからね」


「私にとっても……レイラが母親か。どんなだったのか、あまり想像できんな」


「あの子たちの見た目は、レイラそっくりだけどね。でも、使う魔法も戦い方も……どこか、二人のことを思い出すよ」


「……それで、街に着いたらどうする? 予定よりも、大分早く着くぞ」


「うん。まずは、ギルドに行こうか。今回の件、報告しないといけないし」


「ギルドか……なあ、冒険者の特例登録があっただろう? あいつらを、見習いとして登録してみては?」


 シエルの提案に、ジンは首を横に振った。

 元々はそうしようかと思っていた。

 年齢制限に引っかかってしまい冒険者として登録できないが、特例登録であればそれも可能だ。


「二人とも、本登録で推薦する」


 きっぱりとしたジンの返事に、シエルは目を細めた。


「おい、五歳児で本登録なんて、前例がないだろう」


「見習い期間なんて、二人には何の糧にもならないよ」


 冒険者の見習い期間は、言うなれば依頼を受ける練習みたいな物だ。受けられる依頼も、街の掃除や届け物、落とし物探しくらい。


「……分かっているのか? 私達は、しばらく一緒には、いられないんだぞ?」


「薬草採取や、ゴブリン討伐くらいで経験を積ませるさ。クラリスにもそう頼んでおく」


「まあ、それなら……だが、そもそも特例での本登録には、試験が……」


 そこまで言って、シエルは言葉を飲み込んだ。

 試験の内容は、単に実力の確認だ。


「あいつらなら、落ちるわけないか」


「そう思うでしょ? たぶん、大丈夫だよ」


「たぶんで決めるな」


 どこか能天気な答えに、枯れ木を掴んでジンへと投げつけた。簡単に掴まれ、焚火に放り込まれてしまったけれど。

 その余裕がなんとなく気にいらずシエルが口を尖らせると、ジンが時間を確認するように上空を見上げる。

 それを見て、シエルが慌てたように立ち上がった。


「それじゃあ、ジン。交代の時間になったら起こしてくれ」


「うん。おやすみ」


「い、いいか? 魔除草を使うのは、私が寝てからにして欲しい」


「はいはい。分かってるから」


 呆れたように笑うジンに、シエルは念押ししてから洞窟へと入った。

 そこには、眠っているアリシアの手を握りしめたエデンが、うっすらと目を開けた状態で地面に座り込んでいる。


(……まったく、妹思いだな)


 親を亡くしてから、エデンは献身的にアリシアに寄り添い続けている。

 その振る舞いは確かに姉と呼ばれる存在で……まあ、背はアリシアより低いのだが。


「エデン。起きているか?」


 小さな声で囁くと、ぴくりとエデンの瞼が揺れ、ゆっくりと視線が上がった。


「あ、シエルさん。どうかされましたか?」


「いや。少し気になったことがあってな。たしかお前の剣、ミスリルだったな?」


「はい。その通りです」


 エデンは頷くと、空いている方の手で自分の剣をシエルへと差し出した。

 それを受け取り、鞘からそっと抜く。すると、ミスリル特有の、透き通った刀身が現れた。


「良い剣だ。ところで、ミスリルの剣について、お前はどこまで知っている?」


「剣について、ですか? 魔力を流すと、切れ味が増すとは理解していますが」


「……そうか」


 ディーンは魔法が使えなかったし、レイラは剣がからきしだ。

 それでもエデンにミスリルの剣を選んだのは、流石と言うべきだろう。


「いいか。ミスリルはな、魔力の通りが格段に良い。それはつまり魔法を発動するための触媒としても、使うことができるということだ」


 剣を返しながら、シエルは教え諭すかのように言葉を続ける。


「例えば、剣先から直接魔法を発現させたり……。私の戦いを以前見ただろう。私の剣もミスリル製だ」


「それは、気づきませんでした」


「明日から剣の使い方を教えてやる。……今はネストに着くまでしか、時間が取れんがな」


 本当は時間をかけて教えてやりたいが、仕方がない。

 シエルがそう伝えると、エデンは興奮気味に、こくこくと頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ