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59話 観測開始:5年3日目-4 / エデン、観察される

「おっ? とと、あうっ」


 唐突に大地が揺れ、木剣を振り上げていたアリシアは尻もちをついた。

 エデンも立っていることが出来ず、咄嗟に地面に手をついてしまう。

 揺れはすぐに終わり、シエルは庭から遠くに見える山脈を見つめ、楽しそうに口の端を吊り上げた。


「なんだ。派手にやっているな」


 そう言って笑みを浮かべながら、木剣で自分の肩を叩いた。


「2人とも、凄いじゃないか。正直、驚いたぞ」


「ほんとっ!?」

 

 アリシアは、嬉しそうにぶんぶんと木剣を振り回し、その隣でエデンも顔を綻ばせた。

 シエルがもう一度と木剣を構えた時、家の表の方から、怒鳴るような男の声が聞こえてきた。

 エデンは慌てて小鳥へと姿を変え、アリシアの頭の上へとちょん舞い降りた。


「あ、おねえちゃん、とりさん?」


「うん。誰か来たみたい……誰だろう?」


「……は?」


 いきなり鳥となったエデンに、シエルが驚きで固まってしまう。

 家の中から騒がしい話し声が聞こえ、裏口の扉が勢いよく開くと三人の大人が庭へと姿を現した。


「あら、庭にいたのね」


「シエル! てめえ、何も言わずに先に行きやがって!」


「バンダ、そんなに怒鳴らなくても、聞こえてるよ。あれ? もしかして、アリシアかい?」


 騒がしく現れた三者三様の仲間たち。その中から、バンダが険しい顔でシエルへと詰め寄った。


「おい、シエル! 聞いてんのか!? 俺たちが準備終えた時には、もう、お前らの姿はどこにもぎゅっ!?」


「うるさい。少し、黙っていろ」


 シエルは持っていた木剣をバンダの顔に押し付け、つかつかとアリシアに歩み寄る。

 頭の上にいる小鳥を、まるで珍しい生き物でも観察するかのように、両手で持ち上げた。


「あっ」


「お前、エデンか? なぜ、そんな姿をしている?」


「ぴっ、ぴっ!」


 エデンが焦ったようにシエルと三人の来訪者へと首を振りながら、必死に羽をばたつかせた。

 突然人の言葉を話すのを止めてしまったエデンに、シエルが怪訝な顔をすると、シェリーが不思議そうな顔でその手元を覗き込んだ。


「シエル、どうしたの? 鳥になんて話しかけて……あらあ、綺麗な鳥じゃない!」


「む……いや、違うぞ、シェリー。私は、鳥に話かけているのではなくてだな」


 困ったようにシエルが振り返ると、アリシアがパっと顔を輝かせた。


「おねえちゃんたちも、ぼうけんしゃなの!?」


 そう言って嬉しそうに駆け寄るのを見て、シェリーはぶるりと体を震わせた。


「ふふ、ふふふふふ。そうよー。久しぶりね、アリシア」


「おいシェリー。あまり子供に近づくな」


「まあまあ。おお、アリシア、大きくなったねえ」


「あ? なんだよ、まだちんちくりんのガキじゃねえか」


 彼らは、それぞれ、個性豊かな装備にその身を包んでいる。

 シェリーは黒いローブを、両肩を大胆に出すように羽織り、頭には切れ目の入ったつばの広いとんがり帽子。握られた木の長杖は、まさに彼女が魔法使いであることを主張していた。

 トトは全身を隙間のないフルプレートに包まれ、歩くたびにガシャガシャと重々しい金属音を鳴らしている。背中には、人の背丈ほどもある巨大なタワーシールド、そして柄の長いウォーハンマーを無造作に肩に担いでいる。

 バンダは動きやすさを重視した軽装を身に纏い、その下にはいくつものポケットがついたサバイバルベストを着込んでいる。そのポケットのどれもが、パンパンに膨らんでいた。腰にも複数のポーチと、投げナイフと思しき複数の短刀がベルトにびっしりと固定されている。

 見るからに一般人ではないその出で立ちにアリシアが目を輝かせていると、シエルは苦笑いしながら彼らを紹介した。


「こいつらは、私の仲間だ。レイラと、ディーンにとってもな」


「あ、そうなのでしたか。これは、失礼いたしました」


 そう言って丁寧に頭を下げた小鳥に、今度はシェリーたちが、驚いたように目を見開いた。


「うおっ、なんだこいつ! 今、喋ったぞ!」


「え、使い魔か何かかしら?」


「はー。君は、鳥……なのかい?」


 不思議そうに首を傾げたトトに、エデンは首を横に振る。

 シエルの手を離れると、アリシアの隣で再び人の姿へと変わった。


「私は、エデンと申します。皆さま、よろしくお願いします」


 そう言って丁寧に頭を下げると、アリシアが腕にぎゅっと抱き着いた。


「アリシアの、おねえちゃんなの!」


 そう言って顔を見合わせて、にこりと笑い合う二人の女の子。突然人の姿になったエデンを前に、三人の冒険者たちの、「はああっ!?」という間の抜けた声が重なった。

 シエルがエデンについて、かいつまんで説明を終えると、彼らは興味深そうにエデンのことをじっと見つめていた。


「あ、あの……」


「へえ、すごいね。本当に、人にしか見えない」


「でもよお、さっきみてえに、好きに姿を変えられるんだろ? ずりいなあ、それ」


「ちょっと、シエル! 退きなさいよ! 子供をハグする権利は、私にもあるはずよ!」


「いや、お前は駄目だ。あと1メートル下がれ。その腕、切り落とすぞ」

 

 シェリーだけが、ワキワキと不気味に指を動かしながら、じりじりと距離を詰め、そのたびにシエルに蹴り飛ばされているが。

 その視線にエデンがうろたえていると、顔に傷跡の残るトトが優しく笑った。


「なんにしても、だ。エデン、アリシアも。これからよろしくな。俺はトトだ」


「あ、トト、抜け駆けはずるいじゃない。私はシェリーよ! よろしくね!」


「俺はバンダな。……ところで、なんでお前ら剣なんて持ってんだ?」


 アリシアが楽しそうに木剣を振りながら笑った。


「シエルおねえちゃんに、おしえてもらってた!」


「はっ! ガキのくせに、いっちょ前に剣か!」


 バンダが悪態をつきながら笑うと、トトが興味深そうにその素振りを目で追った。

 シエルは満足そうにと頷くと、「ところで」と腰に手を当てた。


「お前たち。悪いが、少し外の見回りに行ってきてくれんか? 魔物が来る可能性がある」


「ああ、そうよね。ジンはもう行っちゃったの?」


「まあな。たぶん、そろそろ合流するんじゃないか。……ああ。それと、エバ殿にも、一度挨拶をしておくと良い。この家に、全員は泊まれんからな」


「……だってさ、男ども」


 そう言って、シェリーはバンダとトトの肩に、ぽんと手を置く。

 すると、トトが振り返りながらローブの首元をぐいと掴んだ。


「なに言ってんのさ。君も行くに、決まってるだろう」


「まあ、世話になる分くらいは、働いてやるか」


「ま、待ちなさいよ! 私も、ここでアリシアとエデンと、遊びたいのに!」


 引きずられるように連れていかれるシェリーが、虚しく手足を動かす。

 それをエデンとアリシアが見つめていると、バンダが口を開いた。


「そういえばよ。なんか、子供たちが見当たらないとか慌ててる奴いたよな」


「ちょっと、あんた! なんでそんな大事なこと、早く言わないのよ!」


「え? そんな人、いたかい?」


「あん? 聞こえてなかったのかよ、お前ら」


「待て、それは、いつの話だ?」


 シエルも、険しい表情で話に加わる。

 その傍らで、アリシアは不思議そうにエデンの手を握った。


「ねえ、おねえちゃん。こどもが、どうしたの?」


「えっと……どこか、行っちゃったのかも」


「おー……じゃあ、みんなで、かくれんぼしてるのかな?」


「んー……」

 

 それなら良かったのだが。

 シエル達の空気は、事態がそれほど単純ではないことを物語っていた。

 

「……村から、出ちゃったのかな?」


「えっ、いいなー。アリシアも、おそといってみたい」


「いいなって。村の外は、危ない……のよ」


 羨ましがるアリシアを、姉らしく窘める。そして思い至った可能性に、シエルたちの方をチラリの見た。


「……念のため」


 かくれんぼであることを願いながら、エデンは『マジックソナー』を起動した。

 

 立ち上がった設定画面から、探知範囲を設定していく。

 子供のいる場所が分かればいいので、探知は一瞬。当然、『マナ・ソナー』の項目はオフに設定済みだ。


 放出されたエデンの魔力が、不可視の波となって村全体を一瞬にして通り抜けた。

 そうして得られた膨大なデータが、視覚情報として再構築され、エデンの網膜へと投影される。


「……村には、いない……」


 数人の子供が広場で遊んでいるのは見える。だが、コパを含めた年の高い子供たちの姿がどこにも見当たらない。


「いないの?」


「うん……もう一度」


 今度は、村から5㎞の範囲を探知する。どこかで秘密基地でも作って、遊んでいるのだろうか。

 そう期待を抱きながら魔力の波を飛ばすも、その結果はエデンの期待を打ち砕いた。


「い、いけない!」


 エデンは、パッと走り出すと、まだ何やら話し込んでいたシエルの服を、ぎゅっと引っ張った。


「シエルさん! 子供たちが、魔物に追われています!」


「……どういうことだ?」


「あれは……灰狼です! 時間がありません! 来てください!」


 エデンは叫ぶように伝えると、その姿を再び小鳥へと変え、空に舞い上がった。

 悠長に話している時間など、一秒たりともない。狼と子供の足では、すぐにでも追いつかれてしまう。


「アリシア! おうちにいて!」


 それだけを空から呼びかけると、エデンは小さな翼をはためかせ一直線に飛んでいった。

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