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46話 観測開始:4年29日目-2 / 天上の三銃士キューレ様

 光が消えた夜の寝室。

 見えない天井をぼんやりと見上げながら、エデンの思考は昼間の訓練を繰り返し再生していた。

 レイラとの魔法訓練では、そこそこの数の水球を撃ち落とすことはできた。だが、威力不足で弾かれたもの、そもそも当たらなかったものも多数。

 そして何より、自分の魔力が尽きて訓練を終えた後。庭の反対では、アリシアが楽しそうに木剣を振り回していた。

 体の大きさ、筋肉の発達、そして、身体を動かす感覚。

 自分に決定的に足りないものが、結果として、妹との埋めがたい差に繋がっている。


(……無い物を嘆いても、仕方がありません)


 今も、自分の首に回されたアリシアの温かい腕と、押し付けられた頬の柔らかさを感じながら、エデンは誰にも聞こえない息を吐いた。


(無いのであれば、別の方法で補うまでです)


 お馴染みの視界が暗転する感覚。

 腕に感じていた温もりが、すっと消えていく。

 今回も身体ごと接続されたようで、冷たい床の感触を足の裏に感じながら、エデンは一歩ずつ確かめるように歩を進める。

 だが、いつもと違う光景に首を傾げた。

 丸テーブルの奥には見慣れた純白のソファが置かれ、その対面には椅子が1つ。

 それは変わらない。

 しかし対角線上に、高く積み上げられた本が、まるで肘掛け椅子のような奇妙な形を成している。


「ふはは! 待ちわびたぞ! よく来たではないか!」


 声はすれども、エデンの視界にはテーブルしか見えていない。

 椅子の上によじ登りキューレへと視線を向けると、ソファにふんぞり返ったキューレの姿があった。

 偉そうな態度にため息が出そうになった時。目の前に広がった光景に、エデンの思考が停止した。


「……は?」


「ん? なんだ、その気の抜けた返事は」


 正面のソファに座ったキューレが、不満げに眉をひそめる。

 

「まあ、言わずとも分かっているがな。我らの圧倒的な存在感を前に、言葉も出ないのだろう」


 本の椅子に座ったキューレが、満足げに口元を吊り上げた。

 

「くくく、いやあ、実に良い顔だ。溜飲も下がるというものよ」


 もう1つの本の椅子の上から、くっくっくと笑い声がする。


 両側の玉座の上に、涼花の姿をしたキューレが、それぞれ偉そうな態度で座っている。


「な、何故、あなたが、3人もいるのですか?」


「おお、よくぞ聞いてくれた! 貴様の中には、不本意ながら、この私の失敗を記録した映像データがあるだろう?」


「あれは確かに、私のとって唯一の汚点だった。だが、私は考えたのだ。なぜ失敗したのか、と」


「そして、結論に至ったのだよ! この私は完璧だが、一人では限界があると!」


 三人のキューレが、代わる代わる流れるように言葉を続ける。


「だから今回! お前が度肝を抜くような、完璧な情報をまとめておいた!」


「そして、ひれ伏し、泣いて懇願するがいい! 『以前の映像データは私の間違いでした、どうか削除させてください』と!」


「さあ、これが今回の我らからの贈り物だ! 刮目して見るがいい!」


 正面のキューレが、ぱちんと指を弾く。すると、凄まじい勢いと共に、一冊の、というよりは1つの重厚な箱がテーブルの上にドンと落ちてきた。

 見たくないという強い拒否感が湧き上がるが、これを見なければ話が進まない。

 エデンが引きつった表情で視線を向けると、『武器の基本:アルテリア大陸編 特別監修:天上の三銃士キューレ様』という文字が。

 やけに大きなフォントで書かれたタイトルの下には、肩を組み合った三人の涼花が、それぞれ武器を片手に、この上なく気障な笑みを浮かべている。

 正面の涼花は、宝石が散りばめられた宝剣を。左の涼花は、派手に装飾された金の杖を。そして右の涼花は、あろうことか、巨大な鎌の刃を、恍惚の表情でぺろりと舐めていた。


「……チェンジで」


 ぼそりと呟かれた拒絶の言葉に、キューレたちが首を傾げた。


「ん? 確かにお前にこの書物は勿体ないかもしれんが……今さら質を落とすのもな」


「確かに、配慮が足りなかったかもしれんな。我々としたことが」


「そうだな……。まあよい。ここはありがたく、受け取っておくが良い」


 全く意図が通じていないことに、諦めの気持ちでボックスに手を伸ばす。ずっしりとした重みを感じるそれを手元に引き寄せ、表情をしかめながら、情報データへと変換した。



 --------------------

 

 [SYSTEM] 情報オブジェクトの変換シーケンスを開始します。


 [TARGET] 概念情報『武器の基本:アルテリア大陸編 特別監修:天上の三銃士キューレ様』を認識。


 [DECONSTRUCT] 対象オブジェクトをデータ粒子へ分解... 完了。


 [INTEGRATING] データ粒子をシステムコアへ統合中...


 [INDEXING] 新規データパッケージのインデックスを作成中...

 [CONFIRMED] 主要コンテンツ:『近接武器の種類と使い方講座』を確認。

 [CONFIRMED] 主要コンテンツ:『魔術武器の種類と使い方講座』を確認。

 [CONFIRMED] 主要コンテンツ:『遠距離武器の種類と使い方講座』を確認。


 [SUCCESS] 新規ガイド『武器の基本:アルテリア大陸編 特別監修:天上の三銃士キューレ様』のインストールが完了しました。


 --------------------



 インストールされたデータの内容を確認し、エデンは再び疑問に顔を上げた。

 膨大な情報の大半が、文章や画像ではなく、映像データで構成されている。そのうちの1つ、『片手剣の基礎』と名付けられたデータを再生すると、エデンの思考の中で映像が流れ始めた。

 中腰に剣を構えた、真剣な表情のキューレ。次の瞬間、彼女は見事な動作で、一閃、剣を振り抜いた。そこまでは良かった。だがその直後。画面いっぱいにキューレのドヤ顔が、派手な効果音と共にカットインする。そして映像の下部、申し訳程度のスペースに、丁寧な説明文が、およそ読ませる気のない速度で流れては消えていった。


「……」


 情報の圧倒的な有用性と、それを台無しにする無駄な演出の数々。言葉を無くしていると、正面のキューレが満足そうに高笑いを上げた。

 

「かっはっは! どうだ! これこそが、我らの知恵の結晶よ!」


 そう言って白衣の襟元を掴み、胸を広げながら得意げにポーズを決める。

 

「くっくっく。やはり天才が3人寄れば、完璧なものが生まれるのは必然だったな」

 

「何しろ、一度たりとも意見の対立がなかったのだからな。これは、初めから定められていた結末なのだ!」


(元が同じなのだから、意見が対立するはずもないのでは?)


 そんなツッコミをぐっと飲みこみ、エデンはこの騒がしい空間から一刻も早く退散しようと、テーブルに手をついた。


「お、おい! 待て、待て! 用件はそれだけではあるまい! とりあえず、前回の忌まわしき映像データを、今すぐここで削除するのだ!」


「いえ、既に前回来た時のことは、文字データにしているので……映像データは削除済みです」


 最後のアップデートの前、容量不足解消のために不要なデータを整理した。その過程で、あの衝撃的な登場シーンは跡形もなく消去済みである。

 そう伝えると、三人のキューレが、信じられないとでも言うように一斉にエデンを見つめてきた。

 

「な、なにぃっ!? なぜ消したのだ!? なんてことを!」


「え? いえ、ですが今、消すようにと……」


「勝手なことをするな! この私との、貴重な邂逅の記録ではないか!」


「いえ、別に、いつでも会えるのでは……」


「そういう問題ではないのだ! この私の、麗しい映像なのだぞ!? そもそも、敬意が足りんのではないか!?」


「それは……足りていないかも、しれませんが」


「「「なんだとお!?」」」

 

 雷に打たれたかのように固まってしまった3人を尻目に、エデンは椅子から慎重に降りた。そして、その場から離れようとして、ふと疑問が浮かんだ。


「ところで……あなた方キューレ様の間には、序列や優越はあるのですか?」


 その問いに、3人のキューレたちはゆっくりと、お互いの顔を見合わせた。


「ふっ、愚問だな。序列の頂点が、この私であることに、疑いの余地はない」


「馬鹿を言うな、お前らなんぞ、この私の足元にも及ばない」


「お前達、寝ぼけているのだな。この私こそが、もっとも優れているに決まっている」


「何をぉっ!?」


「ほざけっ!」


「この、あほ面共がぁ!」


 なぜかお互いの胸倉を掴み、醜い争いを始めた3人に、エデンは静かに背を向けた。そして心の底から、深いため息を1つ。


「……帰って、映像を確認しましょう」

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