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元AI、姉になる。~魔力不足の異世界ラーニング~  作者: おくらむ
第2章 「API」〜万能のエネルギー『魔力』は、『プログラム』を稼働する〜
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39話 観測開始:3年65日目-5 / Ice_Lance_ver.1.0

 ディーンがぽつりと呟くその視線の先で、レイラが得意げな顔でエデンの小さな頭を指で撫でていた。


「はい、おしまい」


「お見事です」


「はあ、俺の見せ場が……」


 ディーンは溜息をつきながらも、洞窟の壁際にこんもりと盛られた土の山に目をやった。その1つに大剣を突き刺して崩すと、中から拳ほどの大きさの、白く柔らかそうな卵がごろりと転がり出てくる。


「……ほう。こいつは儲けもんだな」


「卵をどうなさるのですか?」


「食べるのよ、もちろん」


「魔物の卵を……食べる、のですか?」


 エデンの純粋な驚きに、レイラは口元を緩めた。

 

「ええ、一部の魔物はとても美味しいの。まあ、食わず嫌いの人も多いけれど」


「好きな奴はとことん好きだからな。いくつか持って帰るか」


 ディーンがせっせと卵を回収する傍ら、レイラは「それで、川の詰まりは……」と辺りを見回す。巣は崩したが、まだ水の流れは弱い。視線を上げると、行き止まりとなっている洞窟の天井付近から、水がぴちゃぴちゃと滴り落ちていた。


「……土蜥蜴の巣が、原因ではなかったのね」


「そのようです」


 二人が見上げる先、天井にぽっかりと、大人が這ってようやく通れるほどの横穴が空いている。

 すると卵を回収し終えたディーンが、二人の視線の先を見て目を細めた。

 

「どうするか……さすがに、これ以上はいけんな」


「そうねえ……」

 

 腕を組む二人の間で、レイラがちらりとエデンに視線を送った。


「エデンちゃん、少しだけ、この先の様子を見て来てもらってもいい?」


「私が、ですか?」


「ああ、そうだな……魔物もいないみたいだし、安心しろ」


 ディーンはそう言って指を立てる。確かに、エデンなら飛ぶことが出来るし、魔物がいないのであれば確認して戻るのは問題ないだろう。

 

「……分かりました、行ってきます」


「気をつけてね」

 

 レイラの肩から飛び立ち、エデンは横穴へと滑り込む。狭く、湿った通路を進むと、水音が次第に大きくなってきた。やがて、通路の終わりが見え、そこは大小様々な岩が積み重なり、完全に道を塞いでいた。上を見れば、そこから崩落したのか、天井へと続く縦穴が見える。岩の隙間から、絶えず水が溢れ出ていた。


「これは……崩落で、水脈が塞がれてしまったのですね」

 

 分かればさして大した問題でもなかった原因に、エデンは安心すると共に来た道を戻る。そうして穴から出ると、待っていた二人に報告をした。


「ママ様、ディーン様。この先で穴が崩れたようで、川がふさがっていました」


「お、早かったな」


「おかえりなさい。穴が崩れていたの?」


「恐らくは。大きな石がいくつも重なっていました。ですが、そこから水がこぼれていたので、その先に川は続いています」


「そう……んー、どうしようかしら」


 レイラはそう言うと、頭上にある穴を見上げた。昇るにしても、穴に入れるだろうか。そう考えていると、エデンが「ママ様」とパタパタと羽を動かしている。


「私が氷魔法で、ふさがっている石を壊してみるのはいかがでしょうか?」


 その提案に、レイラは「あら」と驚いた表情をした。

 

「エデンちゃん、もう『プログラム』出来上がったの?」


「はい。基礎データは前の物が使えましたので」


 レイラは数秒考えるような顔をすると、ニコリと笑った。


「それじゃあ、お願いしてもいいからしら」


「エデン、気をつけろよ」


「はい」


 二人の声に背中を押されながら、エデンは再度穴の中に入っていく。積み重なった石の前に戻ると、エデンはふわりと着地して顔を見上げた。

 無造作に積み重なった石は、多少の衝撃ですぐ崩れていきそうに見える。よし、と気合を入れ、エデンはプログラムを起動した。


 

 --------------------


 [REQUEST] 新規魔法プログラム『Ice_Lance_ver.1.0』の実行を要請。


 [PROCESSING] 現象再現のため、氷結及び、弾道物理演算アルゴリズムを構築中...


 [LOADING] 基礎パラメータをロード...

  > TARGET_ENTITY: 氷 (H₂O)

    >> SUBATOMIC_PARTICLE_MODEL: 素粒子標準模型(Standard Model)

    >> ATOM_STRUCTURE: 水素(¹H) | 酸素(¹⁶O)

    >> MOLECULAR_GEOMETRY: 六方晶系氷結晶構造 (Ice I_h)

      >>> BOND_MODEL: 水素結合による、三次元的な網目構造を維持

 

  > INITIAL_STATE: 温度 - 203.15K (-70°C) | 状態 - 固体

 

  > FORM_MODEL: 鋭利な円錐形状(弾頭形状)に設定

 

  > BEHAVIOR_MODEL: 直線軌道に固定 - Z軸中心の回転運動を付与

    >> KINETIC_ENERGY: 450 J (初期運動エネルギー)

 

  > RENDER_MODE: 物理準拠(PBR)

    >> PROPERTY: 透過率 - 92% (内部亀裂を考慮)

    >> PROPERTY: 屈折率 - 1.309 (氷)

    >> PROPERTY: 表面散乱 - 微細な結晶構造を反映

 

  > DURATION: 10sec (目標到達後、または最大稼働時間経過後に自己崩壊)

 

  > COORDINATES: X:150 Y:50 Z:200 (相対座標)


 [ROUTING]アバターの魔力を指定座標へ集束中...


 --------------------



 目の前の障害を見つめる小鳥の嘴に、魔力が青白い光となって収束する。その魔力は白い冷気となって漏れ、まるで小鳥が吐息を吐くようにあたりを白く染めていく。


 

 --------------------


 [EXECUTING] 全パラメータを適用し、魔力変換及び、相転移プロセスを開始。

 

 [SYSTEM_LOAD] 98%... 99%... [CRITICAL_LOAD]


 [COMMAND] Ice_Lance.exe --RUN


 --------------------



 ピキキという小気味の良い音が、青白い光の中からその場に響き渡る。小さな氷の結晶がいくつも重なりあい、形作られたその氷槍は、不純物のない澄んだ透明と魔力の青白い光によってうすぐらい穴の中を照らしていた。

 そして、放たれた。

 回転する氷槍は、積み重なった岩盤の中央に突き刺さり、けたたましい破壊音と共にそれを貫通する。次の瞬間、堰き止められていた水が、解放された。


「やりました!」


 足元に流れ込んできた水を受け、エデンが歓喜に羽を広げた、その時だった。

 ビシリ、と頭上で不吉な音が響いた。続けて、ピシピシピシ、という亀裂の広がる音。エデンが打ち砕いた岩盤だけでなく、その周囲の脆くなっていた壁全体が、崩れ始めたのだ。


「あ……い、いけません!」


 穴全体を塞ぐほどの濁流が、轟音と共にエデンに襲いかかる。

 エデンは跳ねるように飛び上がり、必死で来た道を戻り始めた。しかし、背後から迫る水の壁はあまりに速く、狭い通路の中で逃げ場はない。

 

「――ああ、待って、待ってください! ああああ――ッ!!」


 悲鳴にも似た声を最後に、エデンの小さな体は圧倒的な水流に飲み込まれ、その勢いで割れてしまった。


 ――ゴオオオオオッ!

 

 穴から凄まじい勢いで奔流が流れ落ち、洞窟内に滝のような水飛沫を上げる。跳ね返った水が、ディーンとレイラの足元をあっという間に濡らしていく。

 洞窟内に木霊したエデンの最後の声。そして、流れ落ちる水の中に、キラリと光って消えた魔力の粒子。

 二人はしばらく、ただ茫然と、正常に戻った川の流れを眺めていた。

 やがて、ディーンがぽつりと呟いた。


「……帰るか」


「……うん」

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