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元AI、姉になる。~魔力不足の異世界ラーニング~  作者: おくらむ
第2章 「API」〜万能のエネルギー『魔力』は、『プログラム』を稼働する〜
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36話 観測開始:3年65日目-2 / 魔力の味

 家に戻るなり、ディーンは勢いよく朝食を平らげると、「準備してくる」と一言残し、裏口から出て行ってしまった。

 残された食卓には、穏やかな時間が流れる。ゆっくりと食べるレイラを、机の上に座ったエデンが見上げながら首を傾げた。


「ママ様、もし水が無いのでしたら、魔法で出せば良いのでは?」


 そのエデンにとって当然の疑問に、レイラは「そうねえ」と相槌を打ちながら、その口元に微かな苦笑を浮かべている。


「それでもいいのだけど……きっと、村の皆さんは嫌がると思うの」


「嫌がる……のですか?」


 水は生命の源。その危機に瀕しているというのに、なぜ拒むのか。エデンには皆目見当がつかない。頭の上に疑問符を浮かべていると、レイラはふと立ち上がり、戸棚から空のコップを取ってきた。そして、アリシアとエデンが見守る前で、そのコップに魔法で湧き出させた水で満たしてみせる。清澄な水が、陽光を弾いてきらめいた。


「はい、アリシアちゃん。これ、飲んでみて?」


「え? うん!」


 アリシアは素直にコップを受け取り、こくりと一口。途端に、その青い瞳が驚きと喜びに大きく見開かれた。


「ママ! このおみず、すごくおいしい!」


「ふふ、ありがと。全部飲んで良いのよ」


「やったあ!」


 アリシアは夢中になってコップを傾け、あっという間に飲み干してしまう。空になったグラスを名残惜しそうに見つめる娘に、レイラは「あら、なくなっちゃったわね」と微笑んだ。


「……ママ様。何故井戸の水が必要なのか、余計に分からなくなりました」


 アリシアの反応を見るに、魔法で作られた水は飲用として適しているように見える。もし適していなければ、レイラはアリシアに飲ませたりはしないだろう。その戸惑いが伝わったのだろう。レイラは再び椅子に腰を下ろし、「それはね」と語り始めた。


「魔法は『イメージ』が大切というのは何度もしたと思うけれど……人によって水の味が全然違うのよ」


「あ……なるほど」


 レイラの言葉に、エデンも納得する。人が水に「美味しさ」を感じるのは、大地に溶け込んだ様々なミネラル成分が含まれているからだ。レイラの水が美味しいのであれば、そうしたところまで繊細に再現出来ているからなのだろう。そう言う意味では、エデンの作る水は不純物を一切含まない「超純水」にあたるため、全く美味しくないだろう。

 

「飲めるほどの水を作ることが出来る人は、あまり多くないの」


 レイラは、まだ空のコップを気にしているアリシアの肩に、そっと手を置いた。


「アリシアちゃん、このコップに魔法のお水いれてもらっていい?」


「ん? いいの!?」


「うん。お願い」


 目を輝かせたアリシアが、小さな手をコップにかざし、習いたての呪文を一生懸命に唱える。すると彼女の指先から青白い光が走り、水流となってちょろちょろとコップに注がれていった。以前よりずっとしっかりとした流れで、水はコップの半分ほどを満たした。


「まあ、アリシアちゃん、たくさんお水出せるようになったわね」


「えへへー」


 満面の笑みで褒められる娘を見て、レイラはコップを手に取り、中の水をほんの少しだけ口に含んだ。

 

「んー、冗談で『魔力の味』なんて言うけれど……アリシアちゃんもいつか、美味しいお水作れるかしら?」


「ママ様、飲んで大丈夫なのですか?」


「まあ、少し口に含むくらいなら」


「ママ? アリシアものみたい!」

 

 自分も、とアリシアが手を伸ばすが、レイラはその手をそっと押しとどめた。


「もう少し魔法が上手になったらね。今はまだ駄目」


「えー」 

 

 残念がる娘をなだめ、レイラがテーブルにコップを置いた、その時だった。裏口の扉が開き、ディーンが戻ってきた。その身には使い込まれた皮鎧をまとい、背には大剣が鎮座している。完全な戦闘態勢だった。


 「戻ったぞー。いやあ、外暑いな」


 そう言いながらテーブルに近づくと、そこに置かれたグラスに気づき、喉の渇きを潤そうと何の気なしにそれを掴み、一気に煽ってしまった。


「ぐっ!?」


 ディーンの動きが固まる。それを見たアリシアが、自分の成果物を取られたとばかりに声を張り上げた。


「あー!? アリシアがまほーでだしたのにー!」


「っ!? ……!」


 娘の言葉に、ディーンの顔が青ざめる。しかし、吐き出すわけにもいかず、ごくり、と喉を鳴らして全てを飲み干した。体を微かに震わせ、必死に平静を装う。

 

「い、いやあ……あ、アリシア……う、うまかったぞ!」


「ほんと!?」


 アリシアが嬉しそうにするのを見て、レイラが「もう」と呆れたように笑いながら、空になった食器を片付け始めた。


「ディーン? 悪いのだけれど、私のローブと杖持ってきてもらってもいい?」


「ん? ああ、そうだな。どこにある?」


「私の仕事部屋の、奥の棚の上に箱があるんだけど、ローブはその中に入っているわ。杖もそのあたりに立てかけてあるから」


 ディーンが心得たとばかりに部屋へ向かう。その背中を見送ると、レイラは再び魔法で水を出し、シンクで食器を洗い始めた。カチャカチャと心地よい音が響く中、アリシアの傍らでその様子を眺めていたエデンに、レイラがふと声をかけた。


「エデンちゃん」


 キッチンから顔を覗かせた彼女の瞳が、悪戯っぽくきらめいている。

 

「この後なんだけど、エバさんにアリシアの事をお願いしたの。それで良かったら……あなたも私達と一緒に来てみない?」


「え?」


「えー!?」


 突然の提案に、エデンが驚いたように見上げ、アリシアは不満の声を上げた。


「おねえちゃんだけずるいー! アリシアもいきたい!」


「アリシアちゃんには、まだ早いかしら」


「えー!」


 レイラは頬を膨らませるアリシアに苦笑すると、困ったようにアリシアとレイラの間で顔を右往左往させている小鳥に視線を向けた。

 

「ここにいても、その姿で「ぴっ」て鳴くだけになっちゃうし。エデンちゃん、どうする? 自分で決めていいのよ」


「そ、そうですね……ですが、アリシアの傍を離れるのは……」


 そう言って首を振ろうとするエデンに、レイラは「そうよね」と頷いた。


「確かに、アリシアから離れるのは心配かもしれないわね」


 洗い物を終えた彼女は、キッチンから出てくるとわざとらしく溜息をついてみせる。


「あーあ。残念。村の外で見た珍しいもののこと、アリシアにお話ししてあげられると思ったのになあ」


「……え?」


「アリシアちゃんも、村の外のこと知りたいわよね?」


「うん! しりたい!」


「え!?」


 その言葉に、小鳥の首がぐるっと回って興味津々な顔をしているアリシアを見つめる。


「じゃあ、ディーンと二人でさっさと行ってきちゃおうかしら。もしかしたら、初めて見るような面白い物が見られるかもしれないのに」


「おもしろいもの!?」


「ま、待ってください……!」


 レイラの言葉に、エデンはじっとしてはいられなかった。

 バタバタと慌てるようにテーブルを飛び立つと、ふわりとレイラの肩に着地した。


「わ、私も行きます! 村の外のこと、アリシアにお話ししたいです!」


 その必死な声に、レイラは満足げに微笑んだ。

 

「ふふ、良かった。それじゃあ、一緒に行きましょうか」

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