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元AI、姉になる。~魔力不足の異世界ラーニング~  作者: おくらむ
第2章 「API」〜万能のエネルギー『魔力』は、『プログラム』を稼働する〜
33/40

33話 観測開始:3年32日目-1 / ver.Alicia

 湯気の立つシチューの皿を前に、アリシアの小さなスプーンが忙しなく踊っていた。リスのように頬張っては、ぷっくりと膨らんだ頬を夢中で動かす。そのあまりの勢いに、隣に座るレイラは思わず眉をひそめ、熱に浮かされたように次の一口を狙う手をそっと押さえた。


「アリシアちゃん、そんなに慌てなくてもお料理は逃げないわよ?」


「んぐ? ふぁい?」

 

 生返事をしながらも、アリシアの瞳は皿の上の鮮やかなニンジンに釘付けだ。その食いしん坊な横顔に、レイラは苦笑を浮かべた。

 その時、テーブルの上で小さな置物のように静かにしていた純白の小鳥が、ピクリと身じろぎした。その瞳がレイラを捉え、小さな翼を誇らしげに広げる。


「ママ様、プログラムの調整完了しました」


 再構築された、魔法発動プログラム。ここ数日の成果を確認し、エデンは納得の出来栄えにうなずいた。

 

「あら。今回は早かったのね」


「はい。最適化が出来ていたのと、十分なデータが揃っていましたので」


 誕生日に使用したプログラム、それに以前アリシアが発動できた初期のプログラム。その観測データを元に構築しなおした結果、以前より数段早く作業を終える事ができた。

 二人の会話を耳にしたアリシアが、ぱあっと顔を輝かせ、スプーンを握ったまま右手を振り上げた。


「おねえちゃん! それじゃあ!」


 喜びのあまり身を乗り出し、テーブルの皿がガタンと音を立てて傾く。レイラが「アリシア、落ち着いて」と慌てて皿を押さえる横で、エデンは「うん。たぶんだけど」と少し考えるように首を傾けた。

 

「アリシアも魔法、使えると思う」


「やったあ!」


 アリシアが歓声を上げ、今度は左手を振り上げようとするのを、レイラがやれやれと眉を下げて制した。


「アリシア、先にご飯食べてからよ」


「えーっ」


 不満げに突き出された唇と、ますます膨らんだ頬。そんな娘の拗ねた顔に、レイラは悪戯っぽく微笑むとお皿に手を伸ばした。

 

「あら、もういらないのかしら? じゃあ、ママが食べちゃおうかしら」


「だ、だめー! アリシアの!」


 お皿を守るように引き寄せると、アリシアは再び一心不乱に食べ始める。口の周りをべったり汚す姿に、レイラは小さくため息をついた。


「どうされました?」


「ん? ううん、ちょっとね……」


 エデンに問われ、レイラは少し困ったような眼差しで娘の横顔を見つめた。

 

「最近、食べ方がディーンに似てきたなぁって思うのよね」


 その言葉に、エデンの視線もアリシアへと注がれる。

 確かに、脇目もふらず食事に集中する姿は、ディーンの食事風景と瓜二つだった。

 

「それは……良くないことなのですか?」


「どうかしら? ただ、ちゃんとご飯食べてくれるのは……とても嬉しいわね」


 レイラの微笑みに、エデンの中の記録データが、かつての赤子だったアリシアの姿を再生した。

 

「……はい。私も、そう思います」


 

 *********



 肩に乗せた小鳥の羽が、ふわりと首筋をくすぐる。裏口から庭へ一歩踏み出すと、むわりとした熱気がアリシアの柔肌を撫でた。真昼の太陽がぎらぎらと照りつけ、地面からは陽炎が立ち上っている。思わず「あつーい!」と叫ぶと、すぐ後ろから「本当にねえ」とレイラが続いた。二人とも涼しげな袖なしのワンピース姿だが、額にはうっすらと汗が滲んでいる。


「今日は、気温が高いのですか?」


 エデンだけが、平然と首を傾げた。まるで暑さを感じていない様子で、ふんわりとした羽毛に包まれている。


「そうよー、もうすっかり夏ね。しばらくは、暑い日が続くでしょうね」


 レイラが空を見上げると、その瞳には吸い込まれそうなほどに真っ青な空が映る。雲1つない晴天は気持ちがいいが、肌を刺すような陽光は少し厄介だ。


「二人とも、少し待っていて」


 レイラがこともなげにすっと手をかざす。すると、青白い光と共に巨大な水の塊が現れ、流れるように形を変えていく。あっという間にベンチの上に優雅な水のドームを形成した。


「おー!」


「ママ様、お見事です」


「それじゃあ、ここでやりましょう」


 水の屋根が作り出す日陰に入ると、気化熱で周囲の空気がひんやりと冷やされている。アリシアは「わーい、涼しい!」と歓声をあげてベンチに飛び乗った。その隣に腰を下ろしながら、レイラはアリシアの肩から落ちそうになっているエデンに声をかける。


「エデンちゃん、『プログラム』の調整、どうだった?」


「はい。これまでのミスを加味して、新しいプログラムを準備しました。アリシア専用です」


 容量を大きく使ってしまうが、エデンとアリシアでは魔法に対するイメージの仕方が根本的に異なる。そのため、プログラムを分離する必要があったが、これできっとアリシアも魔法を使えるはずだ。

 その労をねぎらうように、レイラはそっと指先でエデンの頭を撫でた。


「すごいわ。大変だったでしょう?」


「いいえ。皆さまが寝てる間に作業していましたので」


 それが大変だったのではと思うのだが、まるで伝わっていない様子にレイラは苦笑してしまう。

 

「そう……それで、その『プログラム』は前のとどう違うの?」


「はい。魔法の制御を、ほぼすべてアリシアのイメージに依存するよう設定しました。私はあくまで補助システムとして――」


 エデンがレイラに説明していると、待ちきれなくなったアリシアが「ママ―!」とレイラのスカートを引いた。


「まほう、やってみていい?」


「ええ、そうね。じゃあ、まずは簡単な魔法から試してみましょうか」


 レイラは微笑み、再び手をかざす。今度はその手のひらの上に、透き通った小さな水球を浮かび上がらせた。

 

「最初はこんなふうに、小さくていいからね。水球を作ることから始めましょう」


「うん!」


 アリシアは元気よく返事をすると、母親の仕草を真似て、一生懸命に小さな手をかざした。その健気な様子を見守りながら、レイラはふと気づいたように頬に手を当てる。


「アリシアちゃん、呪文は言わなくても大丈夫なのかしら?」


「どうでしょう? 一応、アリシアのイメージに適応する形で魔法は発現するはずですが」


 二人がアリシアを見守る中、アリシアが大きくその赤い目を見開いた。


「せーのっ!」


 掛け声がトリガーとなり、アリシアの中の魔力がコアシステムへと流れ込む。プログラムが刻まれた魔力粒子が、主の命令に応えて一斉に輝き始めた。

 


 --------------------


 [REQUEST] マスター権限により、魔法構築プログラム『Create_Water_ver.Alicia』の実行要請を確認。


 [INTERFACE] マスター権限『アリシア』との、イメージ同期を開始...

   > PARAMETER 'INITIAL_STATE' の制御を譲渡。

   > PARAMETER 'BEHAVIOR_MODEL' の制御を譲渡。

   > PARAMETER 'RENDER_MODE' の制御を譲渡。

   > PARAMETER 'COORDINATES' の制御を譲渡。


 [SYSTEM] 基礎物理法則の定義をバックグラウンドで維持します。


 [STATUS] イメージ・フィードバック待機中...


 [STANDBY]ユーザー・トリガーを待機... (Input:Image | Power Source:Alicia's Magic Power)


 --------------------



 小さな手のひらが、うっすらと青い光を帯びる。その神秘的な輝きに、アリシアはぱあっと笑顔になった。

 

「それー!」


 最後の命令が、高らかな声と共に実行される。

 

 --------------------


 [COMMAND] Execute_Magic(Alicia_Image_Input); --RUN

 

 --------------------

 


 アリシアの手のひらの上で、青白い光が奔った。魔法発動の兆候に、アリシアは期待で目を輝かせ、エデンも思わず翼を広げる。レイラが固唾をのんで見守るその先で、澄んだ水が――

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