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元AI、姉になる。~魔力不足の異世界ラーニング~  作者: おくらむ
第1章 「Hello, World!」〜無知なるAIと銀髪の幼女〜
24/40

24話 観測開始:2年349日目-2 / 家族と主従

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 [REQUEST] マスター権限により、魔法構築プログラム『Create_Water_ver.1.0』の実行要請を確認。

 

 [PROCESSING] 現象再現のため、物理演算アルゴリズムを構築中...

 

 --------------------

 

 

「え……!?」

 

 エデンの思考に、先ほどとは比較にならない負荷がかかる。途切れ途切れになった思考を続けるも、ただ疑問が駆け巡る。

 

(な……ぜ!? ア、リ……シア様……が!?)


 

 --------------------

 

 [LOADING] 基礎パラメータをロード...

 

 [ROUTING] 魔力を指定座標へ集束中...


 --------------------

 


 「アリシア様! 危険です! おやめください!」

 

 高負荷処理が終わり、再度生成したアバターから出したエデンの絶叫も、興奮したアリシアの耳には届かない。彼女の小さな右手に、エデンが使った量の数倍もの魔力が、青白い光となって渦を巻き始める。


 「あいしゃもやるの!」


 

 --------------------

 

 [EXECUTING] 全パラメータを適用し、魔力変換プロセスを開始。

 

 [SYSTEM_LOAD] 98%...99%...[COMPLETE]


 --------------------


 

 エデンの尋常でない様子に、レイラの顔から血の気が引いた。

 

「ま、まさか……!」


「アリシア様!」


 エデンの制止を振り切り、アリシアは満面の笑みで叫んだ。


 「それーっ!」

 


 --------------------

 

 [COMMAND] Create_Water.exe --RUN

 

 --------------------

 

 

 青白い閃光が走り、リビングの天井付近に巨大な水球が出現した。それは一瞬で膨張し、天井を軋ませる。その光景を見たレイラが、咄嗟にアリシアを抱きかかえた。

 

「いけない!」


「えっ?」


 次の瞬間、水球が限界を超えて弾け、津波のような奔流がリビングを呑み込んだ。テーブルも椅子もいとも簡単に押し流され、アリシアを抱いたレイラの体が物量に押され、なすすべなく壁際へと流されていく。


 「ママ様!」


 レイラが壁に叩きつけられる寸前、その間に滑り込んだエデンがコマンドを発動した。

 


 --------------------


 [EMERGENCY_PROTOCOL] スキル『可変構造』を強制起動。


 [PARAMETER] 変更対象:アバター・スケール

 

 [PARAMETER] 指定サイズ:現行の1000%に設定。


 [WARNING] 急激なスケール変更により、アバターの構造的整合性が著しく低下します。

 

 [WARNING] 予測される最大稼働時間:3.2秒


 [RECONSTRUCTING] 『マナ・ポリゴン』を緊急再構成... アバターを拡大します。

 

 --------------------

 


「きゃっ!?」

 

 次の瞬間、エデンのアバターが巨大なエアバッグのように膨れ上がり、ふんわりとした羽毛が衝撃を受け止める。だが、到底その衝撃に耐えきれず、アバターはガラスのように砕け散り、レイラは勢いを殺されたものの、それでも強く背中を壁に打ち付けた。


「ぐっ……!」


「ママ様!? ご無事ですか!?」


「え、えぇ……。エデンちゃん、今のは……?」


 割れたアバターの残滓を目で追うレイラに、エデンがアリシアの中から叫んだ。

 

「私は問題ありません! 今は退避を!」


 濁流はレイラの腰の高さにまで達している。様々な物を勢いよく流しており、ここにいては危険だ。レイラは近くの裏口ドアに手を伸ばすと、力任せに開け放った。出口に殺到する水に押し出されるように、アリシアと共に庭へ転がり出る。


「アリシア様、ママ様! お怪我は!?」

 

 アバターを再構成したエデンが、慌てて二人の傍らに舞い降りた。

 

「う……ええ、大丈夫。アリシアちゃん、大丈夫?」

 

 腕の中のアリシアに呼びかけると、驚きに固まっていた彼女の表情がくしゃりと歪み、母の胸に顔をうずめてわっと泣き出した。その背を優しく撫でながら、レイラは息を切らしてエデンを見上げた。


「どうして、アリシアが突然魔法を……?」


「……アリシア様が、私の中のプログラムを稼働されました」


 エデンの言葉に、レイラは目を細めた。


「プログラム……というのが私は分からないけれど。アリシアは……エデンちゃんの力を使えるということ?」


「正確な回答は難しいですが、恐らくは……」


 エデンの答えに、レイラは「そう」とだけ呟き、何かを思案するように目を伏せた。やがて、泣き疲れたアリシアが腕の中で静かな寝息を立て始める。

 その寝顔を見つめ、エデンがぽつりと呟いた。


「……何故、アリシア様は魔法をお止めくださらなかったのでしょう?」


 プログラムは稼働した。だけど、最後の発動コマンドを宣言しなければ、それはただの設計図だ。


「私はお止め出来ませんでした……なぜ……どうして……」


「ねえ、エデンちゃん」


 落ち込むエデンに、レイラがそっと手を差し出した。夕暮れの光が、その掌を温かく照らしている。エデンがおずおずと着地すると、レイラは慈しむように顔を寄せた。


「さっきは守ってくれて、ありがとう」


「……ですが、私は……」


「ふふ。エデンちゃんは、アリシアが本当に大切なのね」


「はい……私にとって、最も……大切な方です」


「そう……」


 レイラは一度言葉を切り、核心を突くように、静かに、しかしはっきりと問いかけた。

 

「ねえ、エデンちゃんはアリシアと、どんな関係になりたいの?」


 その問いの意味を掴みかねて、エデンは戸惑うように首を傾げた。


「関係、ですか?」


「ええ。アリシアと共に生きる、家族になりたい? それとも、アリシアを主と敬う主従の関係?」


「……一緒に生活をしていれば、それは家族なのではないのですか?」


 エデンの思考が混乱する。家族。主従。意味は理解できる。だがレイラは首を振って、静かに続けた。

 

「主従関係だって、同じ家で暮らすわ。でも、心の在り方が違う」


 レイラはそう言って、小さな小鳥の胸元を指で触った。


「こころ……?」


「もしエデンちゃんが主従関係が良いというのであれば、それでも良いの。でももし、アリシアを守りたい、時には自分の言うことを聞いてほしいと本気で願うのなら……家族として対等に接してみたら?」


「対等……」


「人は自分より下の者の言葉を、本当の意味では聞こうとしないものだから」


「それは……そうなのかもしれません」


 論理的には理解できる。だがその言葉にうなずくのが正しいのか、分からない。

 

「でもエデンちゃんは、アリシアより自分を下に置いてるわね」


「……ですが、私はアリシア様の『ギフトスキル』です」


「関係ないわ」


 エデンの小さな声に、レイラはきっぱりと言い切った。

 

「エデンちゃん、あなたがどうしたいかよ」


 レイラはそう言って、その透き通る青い瞳で、小鳥の黒い目をじっと見つめた。少しの時間が流れ、小鳥の体から出たのは自信の無さそうな、震える小さな声だった。

 

「……アリシア様は、私を……受け入れてくださるでしょうか?」


「大丈夫よ。アリシアのことを、大切に思ってくれているのなら」


「……対等というのは、どうしたらいいのでしょう?」


「ふふ。そうね、まずはその敬語からやめてみましょうか。様付けをやめて……アリシア、って呼び捨てにしてみて?」


「よ、よ呼び捨てですか!?」


 『呼び捨て』。その単語にエデンがうろたえていると、家の表の方から「うおぉ!? なんだ!?」というディーンの驚愕の声が響いた。


「あら、ちょうど良いわ。片付け、ディーンにも手伝ってもらいましょう」


 レイラはアリシアを抱え直し、ゆっくりと立ち上がった。

 

「エデンちゃん、アリシアと一緒に寝室で待っていて。あの子が目を覚ましたら……こう言ってあげてちょうだい」


 レイラは悪戯っぽく微笑んだ。

 

「――おはよう、アリシア、ってね」

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