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休暇の条件

「教団」施設の一室で、私は聖女とテーブル越しに向かい合って座っていた。

 この日は定例の報告を行う日であり、一通りの説明を終えた後、私はとある()()()をした。

「現場の判断を了承します。ナンバー十三(サーティーン)

 私の言葉に対して、聖女はさして考える時間もかけずに、いつもと変わらぬ無表情で言った。思ってもみなかった反応に、私は少々面を喰らってしまった。

「どうかしましたか。ナンバー十三(サーティーン)

「……いえ、あなたがそんなことを言うとは思わなかったので」

「わたしに意思はありません。これは『教団』の意思です」

 先日、私はリズに対して「お暇」、つまり休暇をもらうことを申し出た。

――わかった。あたしはカノンの意思を尊重するわ。

 リズは急な話に少々戸惑った様子を見せながらも、最後は了解してくれた。しかし私が許可を求めるべき相手はリズだけではなかった。

 私は「教団」の修道士として、「役目」を遂行するべき立場にある。

 私の「役目」は、リズペット・ガーランドと共にあり、導き、そして監視すること。

 休暇をもらうということは、その「役目」を一時的とはいえ放棄するのと同義だった。

 一時的にその状態になることを、私たちナンバーズの統括者である聖女に了承してもらう必要があった。私にとっては、リズ以上にこちらが障害になる想定だった。

 以前の報告でも私の成果について指摘をされたことがあったので、今回も何か言われるであろうことは想像に難くなかった。そのため、私が休暇を申し出た時に言われそうなことを想定して色々と準備をしてきていた。

 だが、実際には何も言われず、あっさりと了承された。

 私にとって都合が良いことは間違いないのだが、肩透かしを喰らったようで少々拍子抜けしたというのが本音だった。

 しかし、聖女の言うことをそのまま信用するほど、私はお人好しではない。

「それで、()()は何でしょうか?」

「何のことでしょう。ナンバー十三(サーティーン)

「私は『教団』が課した『役目』の遂行に穴を空けると言ったのです。それなら、何かしらの()()があってしかるべきでしょう」

「ナンバー十三(サーティーン)。あなたは少し勘違いをしている」

 聖女は、聞き分けの悪い子供を諭すような口調で言った。

「『教団』は血の通わない組織ではありません。全ての人々に愛と慈悲を与える組織なのです。その対象にはもちろん、組織の構成員たるあなたも含まれます」

 いけしゃあしゃあと、よくも言えたものだ。

 私は表情を悟られないように、口角が上がりそうになるのを抑えた。

「休養には『教団』の保養所を利用するのが良いでしょう。管理人には話を通しておきます」

「それはありがたい、ですが……」

 保養所の話は私も聞いたことがある。

 心身に傷を負った者が俗世から離れて静養に努める場所として、「教団」が一般に開放している施設である。利用するのは主に庶民だが、()()()の貴族が一時的な「避難先」として利用しているケースもあると聞いている。

 私自身で自分の身を守れない現状、「教団」の息のかかった施設を利用できるのは、私にとって悪くない話ではあった。

「まだ、疑っているのですか」

 無表情のまま、どこか呆れたように聖女は言った。

「疑ってなどいませんよ。我が聖女(マイシスター)

 私はわざとらしく肩を竦めながら言った。

「私はただ、あなたが()()()()()を言っていないのではないかと心配しているだけです」

「過剰な用心は身体に毒ですよ。ナンバー十三(サーティーン)

「意思の疎通に齟齬をきたしたくないだけです。お互いのために、ね」

 私が皮肉っぽく言うと、聖女は表情を変えないまま沈黙した。まっすぐと私の顔を見据え、相手の心を見透かそうとしているかのようだった。

 やがて、聖女は諦めたように一つ溜め息をついた。

「わかりました。あなたがそこまで言うのであれば、こちらからいくつか()()を出しましょう」

 聖女は渋々、といった具合に話し始めた。ノアあたりは「バカだなキミは。何もないって言ってるんだからわざわざ引き出すこともないだろうに」と言ってくるのだろうが、私は相手に、聖女に明言させることが重要だと思っている。

 暗黙の条件は、いつだって「聞かなかった方が悪い」のだ。

「一つ。休暇中はあなたの『役目』を一時的に免除します。ただし、そのことを理由に成果が減ることは認めません」

 要は、休んでもいいけど成果は変わらずきっちり出せということだ。

 言い換えれば、私の休暇にリズを巻き込むなと釘を刺したのと同じだ。

「二つ。休暇中は『教団』の庇護の下で行動しなさい。その前提で、あなたの自由行動を認めます」

 それについては私も異存はなかった。リズの下を離れる以上、自分の身は自分で守る必要がある。この場合の「自分で守る」とは、そのためにあらゆる手段を用いるということだ。私が自分で戦えない以上、「教団」の庇護下に入ることは元々考えていたことだ。

 そして、聖女は次の条件を告げた。

 それは、私にとって意外なものだった。

 

「三つ。リズペット・ガーランドの説得はあなた自身で行いなさい」


「……それは、どういうことでしょうか」

「言葉の通りです」

 思わず聞き返すが、聖女は変わらない口調で言った。

「あなたが一時的に『役目』を外れることについて、リズペットの理解を得るのはあなたの役割です」

「この話を持ってきた時点で彼女の了解は得ていると、話したはずですが」

「あなた方のことは、ナンバー(ファイブ)、そしてナンバー(セブン)からも報告を受けています」

 ナンバー(ファイブ)。ノア・テイバー。

 ナンバー(セブン)。ルーチェ・ダイン。

 いつの間にか私の情報を持つ人間も増えたものだと、場違いな感想を抱いた。

「あなたが解決済みだと言うのなら、これ以上言うことはありません。ナンバー十三(サーティーン)

 反論を封じるように、聖女は言い放った。これで話は終わり。そう言いたげだった。

 最後に聖女は、付け加えるように言った。

 

「くれぐれも、あなたの不在中にリズペットが道に迷うことのないように」

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