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Sランク冒険者の付き人、始めました  作者: むぎひと
第六章
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過去③ セルナの秘密

「誰だ、てめぇは!」

 私たちの姿を見るなり、賊の一人が威嚇するように叫んだ。

「この紋章が目に入りませんか?」

 セルナは槍を突き出し、穂先の根本に掲げられた旗を見せつけた。

 それを見た賊は、怒りの形相を浮かべた。

「なるほど……グリーンランドの犬ってわけか」

「お望みとあらばワンワン鳴いてあげましょうか?」

「ふざけやがって!」

 激高して、賊共は各々の得物――剣や斧と、果ては農具といった様々なもの――を抜いた。

「あなたがたの行いは治安を乱すものです。武器を捨てて投降するのなら、命だけは見逃しましょう」

「オレたちが『はいそうですか』と言って従うと思うのか?」

「いいえ、()()()()()()

「……セルナ?」

 思わず、口を挟んだ。

 どんな相手にもいきなり斬りかからず、交渉から入るのはセルナの常套手段だ。

 しかし、今日のセルナはやけに好戦的だ。

 まるで、奴らの運命が最初から決まっているかのように。

「カンナ、大丈夫ですよ」

 セルナは正面を向いたまま、横に控える私に小声でささやいた。

「せっかく掴んだ()()()()なのです。この機会を逃すわけにはいきません」

「……チャンス?」

 私の問いかけには答えず、セルナは正面の賊に向かって声を張った。

「あなたがたは、そこにあるものが何かご存じですか?」

「はん、そこにあるものが何か、だと?」

 男は鼻で笑いながら、即答した。

「決まっている! グリーンランドの奴が貯め込んだ金だ! オレたち領民を酷使して掘らせた、大量の金塊だ! オレたちは薄汚い領主から金を解放し、貧しい領民に分配する!」

 何かスイッチが入ったかのように、男は自身の高説を述べ始めた。

 グリーンランド卿からは盗賊だと聞いていたが、奴らの素人としか思えない振る舞いにはどうも違和感があった。

 だが、彼の言葉で、それらがすべて繋がった。

 彼らは盗賊でなければ、無法者の賊やごろつきでもなく、周辺に住む普通の領民なのではないか。

「セルナ!」

 私の推測が確かなら、このまま彼らを討伐するのは良くない。

 それは彼女の、セルナの信義に反することになる。

 それだけは、何としてでも食い止めないといけなかった。

「……なるほど。それがあなたたちの正義というわけですか」

 だがセルナは、私の声など聞こえなかったかのように、冷酷に宣言した。

「やはり、あなたたちを見逃すわけには参りません。ここで全員討ち取ります」

 そう言って、セルナは両手で槍を構えた。先端に取り付けられた旗が、風でなびいていた。

 私は未だに、状況の整理が追いついていなかった。

「さあ、カンナも構えてください。まもなく来ますよ」

「ちょ、ちょっと待ってよセルナ。彼らは普通の――」

「ええ、おそらく()()()()()()()()()()()()()()()()()、でしょうね」

 何でもないことのように、セルナは言った。

「でも、()()()()()()()()()()()()?」

「……セルナ?」

「カンナ。わたしたちはグリーランド卿に雇われた冒険者なのです。それなら、彼に仇なす敵を倒すのが、わたしたちの使命」

「どうしたの? そんなの、セルナらしくない」

「カンナこそ、いつも殺したがりのあなたが随分甘くなったものですね」

 セルナに強い口調で言われて、私はそれ以上言葉が出てこなかった。

 今のセルナは、まるで別人のようだった。

「……わたしに幻滅したのであればそれも結構です。ただ、もし、」

 セルナは私の方は見ずに、独り言のように言った。

「もし、それでも私を信じてくれるのなら、全て片付いた後に必ず全てをお話しします。それは、お約束します」

 それはどういうことか。

 聞き返すより先、セルナは前方に駆け出した。それが、開戦の合図だった。

「くっ!」

 止むを得ず私もナイフを抜き、セルナの逆方向に駆け出した。

 彼女の真意がどうであれ、私は彼女に従うしかない。

 それが、ナンバー(ツー)として与えられた私の「役目」なのだ。



 戦いはあっけなく終わった。

 私たちにとって、数で上回る盗賊の退治は慣れたものだ。まして、盗賊未満の素人など赤子の手を捻るようなものだった。

 血まみれとなって散らばった死体を眺めながら、私はセルナの姿を探す。

 セルナは敵の一人の胸倉を掴み、何事かを喋っていた。

「……なるほど。わかりました」

 セルナは表情を変えずに言うと、男を掴んでいた手を離した。

「セルナ……」

 私が声を掛けると、セルナはゆっくりと振り向いた。

「お疲れ様でした。カンナ。終わって早々ですが、あなたに三つお願いがあります」

 その表情はいつもと変わらぬ、温和な笑顔だった。

「まず一つ。あなたはこの場――鉱山入口で待機していて下さい。少々気が滅入るところで申し訳ありませんが」

「それはいいのだけど、セルナは?」

「わたしは、鉱山の中に潜ってきます」

 セルナは誰も遮る者がいなくなった鉱山の入口に目を遣る。

 予想通りの答えに、私は思わず顔をしかめた。

「セルナ、忘れていないと思うけど、私たちの仕事は――」

「ええ、鉱山を荒らす盗賊の討伐です。グリーンランド卿からも鉱山の中には入らないよう釘を刺されていますね」

「だったら――」

「それでしたら心配ありません。今は詳しく言えませんが、とにかく大丈夫です」

 セルナの有無を言わさぬ強い口調に、思わず口をつぐむ。

 何が大丈夫なのか。それすらも言えない状況とは、どのような状況なのだろうか。

「二つ。わたしが戻るまで誰一人、鉱山に立ち入らせないようにして下さい」

「誰一人、ということは――」

「そうです。()()()()()()()()()()()()、です」

「……私が言って止まるような相手じゃないと思うのだけど」

「手段はカンナに一任します。とにかく誰も通さないで下さい」

 私は思わず息を飲んだ。

 ()()()()()()()()ということは、つまりそういうことだ。

 明らかに、セルナは何かをしようとしている。グリーンランド卿や、私ですら知らないところで。

 その状況が、ひどくもどかしく感じた。

「そして、最後に三つ目です」

 そう言うと、セルナは槍の先端に付いた紋章付きの旗を引きちぎって捨てた後で、私の方にゆっくりと歩み寄った。

 そして、片手で私を抱きしめた。首に吐息が荒く吹きかけられ、鎧越しに彼女の鼓動が伝わってくるかのようだった。

「お願いします。どうかわたしを信じて……」

 祈るように呟くと、セルナはそのまま身体を離して鉱山入口に駆け出していった。

 残された私は、呼び止めることも忘れて、ただただ茫然とするしかなかった。


 彼女の後ろ姿が見えなくなってしばらくしたところで、ようやく思考が回転し始める。

 思えば、セルナの行動には不審な点が多かった。

 彼女は有力な依頼主の連絡用として伝書鳩を利用しているが、その「有力な依頼主」の判断基準は教えてもらっていない。金払いが良い、依頼内容が人助けになっている、などの理由は思いつくが、どれも決め手というにはほど遠い。

 そして、そもそも何故彼女ほどの人間がフリーの冒険者をしているのか。

 今の時代、ギルドに所属していない冒険者の待遇は必ずしも恵まれているとは言えない。ギルド所属には身分保障という大きなメリットがあり、それがない野良の冒険者は無法者と同じ扱いを受ける。実際、セルナは行く先々の都市や街で衛兵に金銭を払い、身分を「買って」いた。

 グリーンランド卿のように、ギルド所属であることを厭う依頼主もいるが、それがセルナにとってフリーを選択する理由になるとは思えない。

 最初から、グリーンランド卿のような人物から依頼を受けるため、とでも考えない限りは――。

 思考を巡らせていたところで、私の感知範囲に何者かが侵入したのを感じた。

――人数は二十人ぐらい。全員武装している。これは……。

 新たな侵入者に当たりを付けた私は、彼らを迎えるため足音の方向に向き直った。

 しばらくして、全身を鉄の鎧で覆った兵士の一団が、私の前に姿を現した。

 先頭に立つ、一際豪華な鎧に身を包んだ人物が一歩前に出て、その兜を脱いだ。グリーンランド卿だった。

「おや、あなたはセルナ殿のお仲間の――」

「カンナと申します。以後、お見知りおきを」

 私は恭しく頭を下げた。

「ほほう、さすがですな。もう賊共を全滅させたのですか」

「いえ、この程度の相手は私どもの敵ではございませんので」

「素晴らしいですな。それで、セルナ殿は何処へ?」

「セルナは、用があって外しております」

「ふむ、用、とな……」

 グリーンランド卿は何か考えるように顎の髭を触った後で、再び私を見た。

「それであればご苦労であった。あとは我々の兵にて対処する故、カンナ殿はお引き取り願おう」

「それはできません」

 私が即答すると、グリーンランド卿は露骨に顔をしかめた。

「私は、主人から命を受けています。誰一人ここを通すな、と。たとえグリーンランド卿、あなたであっても」

「なるほど。ではやはり()()()は鉱山の中というわけだな……?」

 グリーンランド卿はそこで、はっきりと敵意をむき出しにして睨んできた。

「ならば貴様もそこをどけ! 邪魔だてしなければ命だけは助けてやろう!」

 グリーンランド卿の声を聞いて、私は一度目を閉じた。

 確かに、私がここで彼らの邪魔だてをする理由は少ない。元々セルナが何をやっているのかわからないし、武装したグリーンランド卿の私兵を相手取るのは正直言って難しい。

 それでも、私はお願いされたのだ。

 自分を信じてくれと。

 だから、私は彼女を信じる。

 たとえ、裏切られる結果になったとしても――。

 私は目を見開いて、ナイフを構えた。

「ふん、それが貴様の選択か。愚かなことよ」

 嘲笑った後で、グリーンランド卿は兜を再び被る。

 私は前方を見据えながら、一歩前に足を踏み出した。


――次の瞬間、鉱山の奥から大きな爆発音が響いた。

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