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Sランク冒険者の付き人、始めました  作者: むぎひと
第六章
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過去② グリーンランド卿の依頼

 アインラッド共和国は大陸南部に位置する国で、有力貴族の中から選挙で王が選出される選挙王政が特徴的な国家である。

 私たちはその有力貴族の一人、カイゼル・グリーンランド侯爵の邸宅を訪れていた。

 王国の貴族、それも侯爵クラスの人物となると一般庶民が会うことは通常叶わないのだが、セルナはこれまで彼の依頼を何度かこなしており、今では伝書鳩で個別の依頼を請け負う間柄となっていた。フリーの冒険者である彼女が一体どうやって貴族とのコネクションを確立したのか、セルナ本人に聞いても「ふふっ、秘密です」とはぐらかすばかりで、結局その秘密は教えてくれなかった。

「いやあ、お引き受け頂いて助かりましたよ」

 邸宅の中を案内しながら、グリーンランド卿は上機嫌に言った。

「グリーンランド卿のご依頼とあれば、当然でございます」

 セルナはにっこり微笑んで、相手の言葉に調子を合わせる。私はそうしたおべっかがあまり得意ではないので、こういう場面では影の従者に徹するのが常だった。

「さて、領内から盗賊を追い払って欲しい、とのことでしたが?」

 案内された客間で着席したセルナは、世間話もそこそこに話を切り出した。

「セルナ殿は、わたくしの収入源が何かご存じですかな?」

「ええ。もちろん」

 セルナは即答した。

「広大で肥沃な土地から収穫される農作物、治安が良く安全を確保された領民が進んで支払う税金、それに領内に多く抱える金鉱山ですね」

「その通りです。よくご存じでいらっしゃる」

「ここに来る途中、領民の方々をお見掛けしましたが、皆明るく生き生きとしていらっしゃいました。閣下の実直な統治が行き届いている証拠ですわ」

「わっはっは、これはまたお上手で」

 グリーンランド卿は気分良く笑った。どれだけわざとらしくても為政者というものは褒められると嬉しいものらしい。

「それで、今回賊が住み着いたのは、我が領内にある金鉱山の一つなのです」

 グリーンランド卿はひとしきり笑った後、真面目な顔になって言った。

「大変いやらしい話ですが、わたくしは結構儲かっておりましてな」

「ふふっ、本当にいやらしいですね」

「これは失敬。だがその収入の大きな部分を占めるのが金鉱山からの鉱物収入なのでございます。鉱物収入が途絶えると、わたくし自身の活動はもちろん、領内の統治、ひいては領民の生活まで影響が及ぶのです」

「それは由々しき事態ですね」

「ええ、なのでセルナ殿には早急に賊を討伐して頂きたい」

 グリーンランド卿の言葉に、セルナは少し考えるように目を閉じた。

 それから考えがまとまったのか、目を見開きながら言った。

「……一つだけ、お伺いしても?」

「構いませんよ。どうぞ」

「何故、そのご依頼をわたしに?」

 セルナの言葉に、グリーンランド卿は少し目を丸くした。

「……わたくしの依頼では、不服ですかな?」

「逆です。グリーンランド卿のご依頼はわたし共にとって()()()()のですよ」

「つまり、どういうことですかな?」

「今回のご依頼、手紙によると賊は十数人ということですが、これはご依頼としては簡単過ぎます。また、先程のグリーンランド卿のお話からも、今回の対処をかなり急いでおられるご様子。それであればわたしのようなフリーの冒険者ではなく、たとえば閣下の私兵を動かしになる方が確実ではないでしょうか」

「ふむ……」

 グリーンランド卿は腕を組み、椅子の背もたれに体重をかける。

 それから少し間を置いた後、グリーンランド卿は口を開いた。

「セルナ殿の仰る通り、これは本来我が領内で解決するべき問題です。しかし我が私兵には通常別の任務を与えております故、領内の治安維持まで手が回っていないのが実情です」

「存じております。そのためにわたしたちのような冒険者がいるのですから」

「そして、冒険者ギルドに依頼をして解決してもらうという手段もありますが、正直なところ、ギルドの連中はあまり信用していないのです」

「……理由をお聞きしても?」

「ギルドは独立性の強い組織です。それ故、裏で誰の息がかかっているかわかったものではありません」

 そう語るグリーンランド卿の目は少々鋭く感じた。まるで、何か身に覚えがあるかのように。

「その点、あなたは安全だ。ギルドに所属していないが故に、特定の個人や組織の意向に縛られることがない。わたくしの個人的な依頼をするには最適な相手だ」

「ご信頼頂いて恐縮ですが、わたしも裏で閣下に都合の悪い誰かと繋がっているやもしれませんよ?」

「そこは、貴殿とわたくしで積み重ねた信用でございますよ」

「なるほど。承知致しました」

 セルナは椅子から立ち上がり、胸に手を当てて宣言した。

「わたし、セルナ・カービンは、あなた様の依頼を遂行致しますわ」



「カンナ、どう思います?」

 グリーンランド卿の領内、盗賊に占拠された鉱山に向かう道中、セルナは言った。

「あの男、どうも胡散臭くて好きになれないわね。何か裏でものすごく悪いことしてそう」

「お貴族様は多かれ少なかれ()()()なことをしているものですよ。……そうではなく」

 セルナは苦笑いしながら、私を嗜めるように言った。

「まもなく目的の鉱山ですが、敵の様子はどうですか?」

「……正直に言うと、全然()()()()()()()()()()ね」

 ここまでの道中、何かしらの罠が設置されている可能性も考えて警戒していた。

 しかし、罠どころか見張りの一人も見当たらない。

 それどころか、ご丁寧に道のど真ん中に新しい足跡が残っていた。これではこの道は安全だと教えてくれているに等しい。

 グリーンランド卿は「盗賊」と言っていたが、ただの素人と言って差し支えないレベルだった。

「まあまあ。簡単に終わりそうなら良いではありませんか」

「……主さまは楽天主義でいらっしゃる」

「ふふっ、ありがとうございます」

 皮肉が空振りに終わり、何となくバツの悪さを感じながらも、周囲の警戒は怠らない。

 しかし、いくら気配を探ろうとも、危険な兆候は全く見えてこない。

――これでは、油断するなという方が難しい。

 そうこうしているうちに、目的の鉱山が見えてきた。

 鉱山の前はかがり火が焚かれており、さすがに多くの人間――事前の情報の通り十数人――が屯していた。

 その姿に、私は強烈な違和感を感じた。

「どうかしましたか?」

 私の様子を見て、セルナが声を掛けてきた。

「……奴ら、全然盗賊らしくない」

 もちろん、盗賊に決まった服装があるわけではない。

 それでも人の目を盗んで悪事を働く都合上、闇夜や緑の木々に溶け込むような色――黒や緑といった服装にするのが一般的だ。

 しかし、目の前にいる男たちは、ごくごく普通の服装だった。まるで、日常生活を終えたその足でここまで来たかのような、ありふれた服装。

「盗賊でないとしたら、なんでしょうか?」

「……盗人か、ごろつき?」

「それであれば、わたしたちの()()()()であることは変わりません」

 セルナは背中から槍を引き抜きながら言った。

「では参りましょう。いつも通り、カンナはわたしの合図の後で動いて下さいね」

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