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トロールの巣

 見張りと思しきトロールを撃退してから、私たちはトロールの巣の捜索を続けた。

 一般的に、トロールは自然の中で雨風が防げる場所、たとえば洞窟などを根城にすることが多い。ひとまず私たちはその傾向に従って、巣になるような洞窟を探した。

 そしてそれは、まもなく見つかった。

 切り出されたかのような山肌にぽっかり空いた穴、その入口近くに、大きな動物の骨が散乱していた。体格的にはおそらく鹿で、力任せに噛み砕かれたかのように細かく切り刻まれている。また、入り口も自然に作られたにしては不自然に広く削られた痕跡があり、何か大きな生き物が住んでいた形跡を物語っていた。

「しかし、妙ですね」

 私は警戒心を強めたまま言った。

「ここには確実に奴らがいる形跡があります。しかし」

「まったく、気配は感じないわね」

「はい。通常なら()()()()があってしかるべき状況だと思いますが……」

 リズが言うように、この洞窟には痕跡も形跡もある。

 逆に言うと、それしかない。

 トロールは知能が低い代わりに感覚は鋭い。こんな入り口近くにまで侵入者が接近しても尚、誰も出て来ないというのは考えにくい。

「とりあえずは、中を調べてみるしかねェだろうさ」

 話を聞いていたルーチェが口を挟んだ。

「アタシも何も感じねェから、無駄骨になるかもしれねェけどな」

 程なくして、ルーチェの予言は的中した。

 洞窟の中には、トロールが使い潰したと見られる棍棒の残骸など、新たな痕跡は見たかったものの、肝心のトロールは幼体一匹見つけられなかった。

 まさに、もぬけの殻というやつだった。



「一旦、二手に分かれましょう」

 洞窟の探索が終わったところで、リズが提案した。

「あたしはルーチェと組むから、カノンはルイズと組んで頂戴。目的はトロールの捜索よ。戦闘はそれぞれの判断に任せるけど、無理はしないこと。いいわね?」

「わかりました」

「わかった」

 私とルイズ、それぞれが同意を示す。

「さすがに、見つからなかったからラッキーで帰る、ってなわけにはいかねェわな」

 ルーチェは言いながら苦笑する。

 この辺りでトロールの数が増えているのは確かだった。

 そして、私たちの目的は「巣の破壊」ではなく「トロールの討伐」である。

 増え過ぎたトロールが近隣を襲う事態になる前に、その存在を撃滅する必要があった。

「それじゃあ、一時間後にこの巣の近くに集合しましょう。カノン、くれぐれも無茶しちゃ駄目よ。くれぐれもね?」

 リズの執拗な念押しを聞きながら、この場は解散となった。


 

 ルイズと近辺を捜索し始めてまもなく、私はトロールの存在を検知した。確認できるのは単体で、今度は棍棒を片手に十分に警戒しており、不意を打つのは難しそうだ。

 私は、ルイズにトロールの存在を伝えた後で、作戦を話した。

「私が先陣を切ります。ルイズは適宜援護をお願いします」

「わかった、けど……」

 ルイズは一度同意した後で、何か奥歯に物が挟まったような反応をした。

「……何か、心配事でもありますか?」

 戦いにおける不安は前回の時に払拭できているはずなので、殊更不安になる要素はないように思えた。まして、今回は二対一の有利な状況だった。

 ルイズは少しだけ言いにくそうにしながら、口を開いた。

「大丈夫、かな。他のトロールが近くに潜んでたら危ないし、それに、あたしの銃声で呼び寄せちゃうかも……」

 いつになく、慎重な意見を口にするルイズだった。

 確かにルイズの言うことはもっともではあったが、トロールはそもそも隠れたり潜んだりといったことをしない生き物だった。奴らは獲物を見たら手に持った棍棒で襲い掛からずにはいられない。そうでなくとも、この場には目の前の一体を除いて、敵の存在は確認できていなかった。

 とはいえ、それをそのまま伝えてもルイズの疑問を解決したことにはならない。繰り返すが、ルイズの意見は通常であれば正しいのだ。

「大丈夫ですよ、ルイズ」

 私は、ルイズを安心させるために言った。

「危なくなったら大人しく退いて、リズ様たちと合流することにしましょう」

「……うん、わかった」

 ルイズはそれでも少々不安そうだったが、最終的には頷いた。

 それを確認したところで、私は前方のトロールに視線を移した。トロールは相変わらず周囲を警戒しているが、こちらに気付いた様子はなかった。

 しかし、先程といい、トロールが()()()()()()()というのは聞いたことがない。

 一抹の疑念は浮かんだものの、すぐに振り払った。今は行動する時だった。

 私は木の間を縫って駆け出した。トロールはまもなくこちらに気付き、咆哮と共に持っていた棍棒を薙ぎ払った。私はそれを跳んでかわすと、槍を無防備な腹部に突き刺した。血が噴き出すのと同時に、グオオオ、という悲鳴が上がった。

 すぐさはトロールが棍棒を振り上げるのが見えたので、深追いはせずに後ろに跳んだ。振り下ろされた棍棒は私がいた空間を斬り、風圧を発生させた。

 着地しながら前方に視線を向けると、トロールが近寄ってくるのが見えた。私は槍を構え直し、次の攻撃に備えた。

 トロールは一歩ずつ歩みを進め、こちらの射程に入ろうかというところで、トロールは立ち止まった。同時に、棍棒をこちらに向けて突き出して静止した。

 まるで、様子を窺うかのような動きだった。

 その時、強烈な違和感を覚えた。トロールは知能が低く、闘争本能のみで生きているような魔物だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その瞬間、大きな銃声と共にトロールの頭から血が噴き出した。状況が膠着したのを見かねて、ルイズが狙撃してくれたのだろう。

 トロールは頭を抑えて悶絶する。大きなダメージは与えたが、まだ倒れてはいない。

 私はとどめを刺すべく、一歩を踏み出した。

 その時、背中に強い衝撃が走った。

 身体が一瞬宙に浮き、すぐさま地面に投げ出される。息が詰まり、声が出なかった。

――とにかく、不意打ちを喰らった。

 反射的に理解した私は、すぐさま身体を起こし、周囲を見回した。

 背後の森の中には、いつの間にか別のトロールが三体、こちらを窺っていた。

 その中の真ん中に立つ一体が、Y字型の木の棒に革の紐が付いた器具を構えていた。

 私は思わず目を見開いた。

 トロールが手にしていたのはスリングショットと呼ばれる、原始的な投擲武器だった。それ自体は驚くに値しない。弓や銃が主流とはいえ、防具のない顔や手足などに当たれば致命傷にもなり得る。

 問題は、トロールがそれを使って攻撃してきたということだった。

 加えて、奴らが潜んでいることを察知できなかった。

 つまり、奴らは()()()()()()()()ということだ。それもおそらく、別のトロールを囮にして、獲物がかかるのを待っていた。

 果たして、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかし、それを考えているまもなく、トロールはスリングショットを振りかぶったのが見えた。二発目の投擲。

――かわしきれない。

 反射的にそう思った私は、右腕で顔を覆った。

 すぐさま、人の顔ほどもある大岩が私の腕に直撃した。

「ああああっ!!」

 熱くなるような激痛が右腕を襲う。痛みを我慢できず、思わず声を上げてしまう。患部の右腕を抑えながら、地面を転がった。

 荒く呼吸をしながら立ち上がる。

「……なるほど」

 改めて周囲の状況を確認して、私は思わず笑みが溢れた。

 三体に見えたトロール共だったが、その背後にはさらに複数体のトロールの姿が確認できた。数にして十数体。

 トロールの群れに追い込まれた私は、この場にルイズを連れて来なくて本当に良かったと思った。

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