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見えない違和感

 ルイズも含め、全員が起床した早朝、私たちは朝食を摂りながら作戦会議を開始した。朝食はパンと、昨夜のスープの残り。元気になったルイズは、これまでの食欲不振を取り返すかのように一際大きなパンを頬張っていた。保存に適したパンなので普段のものよりは固く、慣れていないルイズは少々苦戦していたが、特に不満などは口にせず、黙々と口の中を固いパンで一杯にしていた。

「……一応確認なのだけど」

 その様子を観察していたリズが、静かに口を開いた。

「ルイズ、大丈夫なのよね?」

ふん(うん)はいひょうふ(だいじょうぶ)

「ルイズ、はしたないですよ」

 口の中をもごもごさせながら喋るルイズを嗜める。それを受けてルイズはふがふがと何やら話しているが、相変わらず何を言っているのかわからない。

「……まあいいわ。元気になったようで何よりよ」

 リズは呆れながらも、ルイズの様子を見て少し笑みをこぼした。やはり、信用はしつつも心配はしていたようだった。

「そンじゃ、ルイズも元気になったってことで、先に進むってことでいいンだよな?」

「そうね。ちょっと心配なところはあるけれど」

 ルーチェの確認に対して、リズは頷いた。元々、今日進むかどうかはルイズの体調次第だった。しかしルイズの状態を見て、ひとまずは問題ないという判断となった。

 つまり、この後は戦いの場所に乗り込むということだ。

「ルイズは病み上がりなんだから無茶しないこと。いいわね?」

はわへて(まかせて)

「…………」

 元気に親指を立てるルイズに対して、リズは尚も何か言いたげではあったが、それでも一度下した判断を翻すには至らなかった。

 私はルーチェと顔を見合わせて、互いに肩を竦めた。

「カノン、トロールの巣まではあとどのくらいかしら?」

「情報があったのはこの先、およそ三時間程歩いたところです」

ほんひはん(さんじかん)?」

「腹が減るまでってことさ」

はるほほ(なるほど)

 ルイズの疑問に、ルーチェが端的に答える。その答えは短絡過ぎるような気もするが、ルイズは納得したようだった。

「ここまでは戦闘は避けてきたけど、ここからは戦闘も解禁するわ。できるだけ手早く片付けることと、なるべく少ない相手を狙うこと。数が多い時はルイズに狙撃してもらって、敵が分散したところを叩く。いいわね?」

「わかりました」

「アタシに任せな」

わはっは(わかった)

 今後の方針を確認したところで、作戦会議は終了となった。



 その後食事を終えた私たちは、移動を再開した。隊列は私が先頭で警戒と索敵を行いつつ、ルイズ、ルーチェと続き、最後尾をリズが固める。前日と隊列が変わったのは、ルイズが私の後ろを希望したのもあるが、病み上がりのルイズに進行ペースを合わせるためでもあった。

「それじゃ、手を繋いだ方が効率的だねっ」

 何が効率的なのかはよくわからなかったが、肌が触れている方が状態の変化を察知しやすいのはその通りだと思ったので、今回はルイズの希望に合わせることにした。

「ピクニックではないのだけど……」

「まあまあ。辛気くせェよりはいいじゃねェか」

 苦笑するリズをルーチェがなだめつつ、私たちはトロールの巣に向かって歩を進めた。

 その後の道中は、非常に()()なものだった。

 前日騒々しかったルーチェと元気になったルイズが揃って意外にも()()()()()()のも要因の一つではあったが、そのように感じたのはもっと別のところにあった。

 何より意外であり、ある意味では予想通りだったのは、前日から引き続いて想定された敵の遭遇がなかったことだった。

 私たちは間違いなくトロールの巣、言ってしまえば敵の拠点に近付いているというのに、その尖兵とすら遭遇しないのは、意外を通り越して異常なことだった。

「何か、良くないことが起きてるのかもしれないわね」

「良くないこと?」

「めんどくせェ、ってことさ」

 リズは懸念を呟きつつも、先を急ぐことになった。

 変化が生じたのは、出発してから二時間程経ったタイミングだった。

「……リズ様」

 私は最後尾のリズに声を掛ける。手を繋いでいたルイズは頭に疑問符が浮かんで見えた。

「ようやく、お出ましかしら?」

 リズの言葉に頷く。ルーチェも「待ち侘びたぜ」と言いたげな顔をしていた。

「この先、敵が潜んでいます。敵はおそらく単体。足音の大きさから考えるとトロールです」

 報告したところでルイズも状況を把握したのか、繋いでいた手を離して、代わりに肩に掛けていたライフル銃を両手で抱えた。

「如何、致しましょう?」

「……まずは全員で目視できる距離まで近付く。その後はできれば不意打ち、無理そうなら普通に倒す。いいわね?」

 そう言ってリズは周囲に目を遣る。私たちは首肯した。

 その後は、再び私を先頭に、今度は足音を立てないようにしながら、気配のある方向に近付いた。まもなくして、木の向こう側で一体のトロールがその姿を見せた。

 トロールはこちらに気付いた様子はなく、棍棒を地面に置いてきょろきょろと周囲を見回している。

 その動きに、私は少々違和感を覚えた。

 まるで、何かを見張っているかのようだったからだ。

 トロールがそんな人間のようなことをするという話は、聞いたことがなかった。

「カノン」

 考えていたところで、ふと肩に手が置かれた。

 振り返ると、リズが剣を抜き、前方のトロールを見据えていた。

 私は頷いて一歩下がると、リズはゆっくりと歩みを進めた後、木陰から飛び出して佇むトロールに向かって駆けた。

 トロールがこちらに気付いた顔をしたが、時既に遅い。

 リズが両手で剣を振るうと、肩から腰にかけて斜めに切り傷が生まれていた。トロールは鈍い悲鳴のようなものを上げると、同時に真っ赤な血が辺りに飛び散った。

 攻撃はそこで終わらず、リズは続けて身体を回転させると、その勢いで剣を振るい、首をはね飛ばした。

 宙を舞ったトロールの首は、どさりと地面に落下した。隣でルイズが息を飲むのが聞こえた。

「さあ。次、行くわよ」

 リズは空中を一振りして血を飛ばし、剣先を鞘に戻しながら、こともなさげに言った。

 背後から、ルーチェがひゅーと口笛を吹く音が聞こえた。

「最初から、雇用主サンだけで良かったンじゃねェのか?」

 ルーチェが呆れながら言った。

「不意打ちできたからよ。毎回うまくいくものじゃないわ」

 リズは真剣な表情を崩さないまま、続けた。

「何か、嫌なことが起きている気がする。気を抜かずに行きましょう」

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