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Sランク冒険者の付き人、始めました  作者: むぎひと
第四章
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ルーチェの「遊び」

「あれ、いないのか? おーい! アタシだって! おーい!」

 ドアの向こうの人物は大きな声を響かせながら、尚もドンドンとドアを叩きつけていた。

「……どうしましょうか?」

 私はリズに目配せをした。

「……放っておいてもブチ破ってきそうだし、仕方ないわね」

 リズが諦めたように言ったのを確認して、私も渋々ドアのロックを解除した。

 その瞬間、勢い良くドアが開け放たれた。

「おう! さっき振りだな!」

 そこに立っていたのは、やはりというか案の定というか、ルーチェだった。

「あなたねぇ……」

 リズは露骨に顔をしかめながら言った。

「こんな時間にいきなり来ないでよ。あと声がうるさい」

「おっと、そいつはすまねェな」

 言葉とは裏腹に、ルーチェはがははと笑いながら言った。

「……とりあえず入りなさい。他の部屋に迷惑だから」

「おう、ありがとな」

 ルーチェがずかずかと部屋に入ったその後ろで、ドアの影からルイズがひょっこりと顔を覗かせた。

「何よ、その子も連れてきたの?」

「いいじゃねェか。仲間外れはかわいそうだろ?」

「勝手に来ておいてその言い草は何なのよ……」

「ほらルイズ! 早く来い!」

 呆れるリズを無視して、ルーチェがルイズに声を掛ける。

 ルイズは一度きょろきょろと室内を見回した後、小走りで私の前まで来た。

「……迷惑、だった?」

 身体を小さくしながら、ルイズはどこか不安げに上目で私の顔を覗きながら言った。

 そんな顔をされたら、はっきりとは言いにくい。

 これも見越してルイズを連れてきたのだとしたら、ルーチェも見かけによらず策士だと思った。

 私は一つ溜め息をついた。

「……突然の訪問で驚いただけです。迷惑ではありませんよ」

 私がそう言った瞬間、ルイズの表情がぱっと明るくなった。

「センパイ、ありがとっ」

 そう言って、ルイズは私の胸にめがけて飛び込んできた。その反応に少し驚きながら、咄嗟に両手でルイズの身体を受け止める。そして昼間の時と同様、私の腕の中に納まった。

「……どうやら、どこかの大きな人よりそっちの小さい頭領さんの方が、人間ができているみたいね」

「なんだよ、アタシだってお礼ぐらい言えるぜ?」

 リズの指摘に対して、ルーチェは不満げに口を尖らせる。

 そう主張するならお礼と、ついでに詫びの一つでも欲しいのだが。

「……ところで、何の用?」

 リズは腕を組みながら、話題を変えるように言った。

「まさか、本当に遊びに来ただけってわけじゃないでしょう?」

「アタシとしてはそれでも良いンだが、残念ながら、ね?」

 ルーチェはわざとらしく肩を竦める。

「……言っておきますが、説得は無意味ですよ」

 機先を制して、私は言った。

「あなたたちへの協力はできません。何度来ようと、その結論は変わりません」

「ハハッ、お堅いねェ先輩は。でも安心しな。今回は先輩に決定を翻して欲しくて来たンじゃねェ」

 それじゃあ、何のために?

 私が聞き返すより先、ルーチェは腕を組み、不敵に笑いながら言った。


「先輩、アタシたちを雇うつもりはないかい?」


「……()()?」

 私は思わず、オウム返しのように繰り返した。

「そうそう。()()じゃねェぞ?」

「何をつまらない冗談を言ってるのよ……」

「おっとすまねェ。つい、な」

 リズの冷静な指摘を受けて、ルーチェはがははと笑った。

 息の合ったやりとりを見て、この二人は意外と相性が良いのかもしれないと思った。

 私は少しだけ、奥歯を噛みしめた。

「……いまいち、状況が呑み込めないのですが」

 内心抱いた気持ちを振り払うように、頭を掻きながら言った。

「今、あなたは私たちから仕事を請け負って報酬を受け取りたいと、そう言ったのですか?」

「そうだ。さすが先輩」

 即答したルーチェの言葉を受けて、私は少し考え込む。

 それをすることの、彼女側のメリットがわからない。

 一国を代表するSランクパーティーの面々が、路銀に困っているとは考えにくい。まして今私の腕の中にいる少女はそこの頭領だ。その辺の旅人とはわけが違う。

 お金が主目的ではないとしたら、ギルドの点数稼ぎだろうか。

 いや、それなら私たちではなくノアに話を持っていくはずだ。そもそも、こんな遠く離れた異国の地で少しばかりの点数を稼いだところで、それが一体何になるというのか。

「――そンなに警戒しなさンなって」

 黙り込んだ私を見て、ルーチェは苦笑しながら言った。

「アタシたちは先輩の力になりたいだけさ。報酬も、そっちの言い値で構わねェ。それでも不要ってンならそれでも大丈夫さ。アタシらはおとなしく国に帰るよ」

 潔過ぎるルーチェの回答に、私はますます疑問を強くする。

 まさか、本当に私の力になりたいなどということが、果たしてあるのだろうか。

「――カノン」

 再び思考の中に入ろうとした私に、リズが声を掛けた。

「リズ様……」

「ここは、あたしに任せて」

 そう言って、リズはルーチェに向き直った。

「悪いけど、うちのパーティーのリーダーはあたしなの。カノンに何かあるなら、まずあたしに話を通して頂戴」

「おっと。確かにそうだな。そンじゃリズペットサン、どうだい?」

「その前にいくつか確認したいのだけど……」

 リズは少しだけ考える仕草をした後で言った。

「さっき、『アタシたちを雇うつもりはないか』って言ったわよね?」

「ああ、言ったぜ」

「まさか、()()()()()()()()()()()()()?」

 リズの言葉を受けて、思わず腕の中にいるルイズに目を向ける。

 ルイズは変わらず、ぼんやりと部屋の隅を見つめているだけだった。

「ああ、そのまさかだぜ」

 事も無さげに、ルーチェは言った。

「戦うのはアタシ、ルーチェ・ダインと、そこのルイズ・シャーリーだ。そこは間違いねェ」

「わからないわね。何でそんなことを?」

「仲間外れはかわいそうだろ、と言いたいところだが、実はちょっとだけ違う」

 ルーチェは、私とルイズを一瞥して言った。

「昼間も言ったが、そこのルイズはまだ実戦経験がねェのさ。元々先輩の力を借りたかったのも、ルイズの経験不足で戦力に不安があるからだ。おたくらの下で経験を積めるンなら、その問題も解消できるってもンさ」

「……それが、あなた方側のメリットってわけね」

 そういうことさ、とルーチェは応える。

「次に、それをあたしたちの下でやろうとする理由は何かしら。普通に考えたらリスクしかないと思うのだけど」

「それも単純さ。アタシは、お前サンがたの実力が見てみたい。気を悪くしねェで欲しいンだが、実力を疑ってるわけじゃねェんだ。純粋にアタシの興味の問題さ」

「そうね。あたしやカノンが弱かったら、そもそも協力要請なんでする必要ないものね」

「……こっちが言いにくいことを言ってくれてありがとうよ」

 そして最後に、とリズは付け加えて言った。


「このことを、そっちのギルドは承知しているの?」


 リズの問いに、ルーチェはすぐに答えなかった。

 こちらの意図を窺うように、不敵に笑うだけだった。

「あたしたちは、あなたたちの安全を保証できない。戦いの中でケガをする可能性だってあるし、最悪命を落とすことだってある。そのことを、あなたのギルドはわかっているのかしら?」

「……そこについても心配いらねェ」

 重々しく、ルーチェは口を開いた。

「ギルドには、最悪アタシたちが生きて帰れない可能性があることも伝えてある。こっちのことで、あんたやおたくらのギルドに迷惑はかけねェさ」

「……あなたの大事な頭領を危険に晒すことになるのだけど、それはいいの?」

「ハハッ。心配感謝するぜ。でも大丈夫さ」

 そして、ルーチェはさも当然のことのように言った。


「もし戦いの中でルイズが倒れるようなことがあったら、そン時はそれまでだったってことさ」


 ルーチェの非情な宣言にも、ルイズは特に反応しなかった。

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……わかった。報酬はこっちの規定で払う。それでいいわね?」

「構わねェが、それってつまり――」

「ええ、そういうことよ」

 リズは一瞬だけ私に目を向けた後で、宣言した。


「あたしは、あなたたちを雇うわ」

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