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Sランク冒険者の付き人、始めました  作者: むぎひと
第四章
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これからの旅路

 冒険者ギルドでの話を終え、私とリズは滞在している宿に戻っていた。

 私たちが宿泊している部屋は、まさに殺風景という言葉が似合うものだった。家具はベッドが二つとテーブル、椅子があるだけ。最低限寝泊まりするだけの安宿である。

 リズのようなSランク冒険者が寝泊まりする場所としては似つかわしくないが、リズも私もそこにこだわりはなかったので、必然的にこういう選択となる。

——思えば、今日は色々あった気がする。

 マリーのこと。ルーチェのこと。そして、平和な海賊団からの協力要請のこと。

 別れ際のマリーの反応は少し気になるので、今度会った時にフォローを入れた方が良いかもしれない。

「カノン、良かったの?」

 部屋にまずリズが入室し、そして私が入ってドアを閉めたところで、おもむろにリズが言った。

「……何の話でしょう?」

「わかってるくせに。さっきの話よ」

 リズは椅子に腰をかけて足を組んだ。

「あたし、カノンはあの話受けると思ってた。ギルドからの要請だったし、何か向こうと知り合いっぽかったし」

「…………」


「だから、カノンが断ったの、ちょっと意外だった」


「……ご迷惑、でしたでしょうか?」

「いや別に。あたしはどっちでも良かったもの」

 リズはつまらなそうに、テーブルの上に置かれた百合の花を指で突いた。

「ただ、あたしに何か遠慮して断ったんだとしたら、それは嫌だなって」

「これが最善だった。そう思っています」

「それはあたしにとって?」

「もちろん、私にとってもです」

 今回の彼女らの協力要請——化け物退治への助力を受けるかどうかは、協力者として名指しされた私に一任されていた。

 ルーチェから一通りの話を聞いた後で、ノアには一日ぐらい考えてもいいとは言われたが、私はその場で結論を告げた。

 私は、彼女たちの要請を断った。

 理由は端的に、私たちにメリットが薄いからだ。

「教団」のナンバーズとしての私は、何より冒険者リズペットの成果を最大化するように努めなければならない。そのことは、手を挙げた人間全てを助けるということを意味しない。彼女の力を必要とする依頼や要請はたくさんある。どれが最善かは常に見極める必要があった。

 一方でリズの従者としての私は、リズが十分に満足する形で活躍の場を作る義務がある。リズは人助けのためにその剣を振るうことを厭わない正義感の持ち主だが、戦闘狂ではない。人々の生活を脅かしているとはいえ、わざわざ遠くの国まで行ってまで化け物退治に勤しんでもらうわけにはいかない。

 たとえば今回の話が最初からリズに対してのもので、彼女がもう少し乗り気だったら私に断る理由はなかったかもしれない。私にとってリズの意思は全てに優先されるのだ。

 だが、ルーチェや先方のギルドの意図がどうであれ、()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()

「わかった。カノンがそれでいいなら、あたしも異存ない」

 リズは言いながら、少し考え込む表情をした。

 こういう時のリズは、多少思うところがある時が多い。

「それより、リズ様」

 これ以上追及されないよう、私は話題を変えた。

「今後の動きについて話しましょう」

 そう言って、私は近くに立てかけてあった地図を拾い上げ、リズの前のテーブルに広げた。

「現状、私たちには三つほど選択肢があります」

「一つは、ここから少し離れたところにトロールの巣が見つかったという情報があります。今はまだ大人しいですが、いずれ近隣の村々を襲い始める危険性があります」

「討伐するのは問題無いけど、数が多いのが厄介ね」

 トロールは人間の二倍から三倍ほどもある巨大な身体を持つ魔物で、その巨体から繰り出される怪力と圧倒的な生命力、そして岩のように固い皮膚が特徴である。

 単体であればリズの敵ではないが、巣には当然、何体ものトロールとの遭遇が予想される。そして彼らは大量のゴブリンを使役する性質もあるため、二人で相手をするにはいささか分が悪い、というのが正直なところだった。

「またクラウスたちと共闘しようかしら」

 そう言いながら、リズは顎に手を当てて考える。どこかのパーティーと協力すること自体には異存ないのだが、クラウスら地を這う獣は盗賊退治やよろず相談が専門のパーティーであり、化け物退治は専門外だった。今でこそ関係は良好だが、過去にドレイクドラゴンという化け物の退治を巡って彼らと決別した経緯がある。

 共闘者については後日ノアに相談することにして、私は次の話に移ることにした。

「もう一つは、いくつか山を越えた先の村で吸血鬼の目撃情報が上がっています。件数は少ないですが、確かに見たと主張する者が何名かいるようです」

「……本来ならすぐにでも行って確かめたいところだけど、情報自体の信憑性が問題ね」

「はい。現状犠牲者や行方不明者の情報も出ていないとのことです」

 吸血鬼の目撃情報はそこまで珍しくないが、一方で吸血鬼の情報には出どころが怪しいものも数多くある。中には懸賞金目当てに虚偽の報告をする者いるため、情報の信頼性には常に目を配る必要があった。

 吸血鬼の危険性は最近身を持って体験したばかりであるが、もう少し確かな情報が出るまでは様子を見ても良いかもしれない。

「いずれにしても、私たちは少しこの街に長く留まり過ぎたと思います。なので、一度各地を回り、人々の話を聞きながら、対応する依頼を考えるのも手だと思います」

「それが三つ目ってわけね。けど、もう一つあるんじゃないかしら?」

「もう一つ?」

「ほら。さっき聞いた話があるじゃない」

「……その話はもう終わったはずですが」

「念のためよ。一応、検討の遡上には上げておくべきだわ」

「…………」

 そう言われてしまっては、反論できなかった。

「……あとは、ここから遠く離れた海洋国家フータンのギルドから、海の化け物退治に関して協力要請が届いています」

「確か、亡者(アンデッド)とか言ってたかしら?」

「はい。本来であれば彼ら平和な海賊団単独でも問題無い相手ですが、最近頭領が代替わりしたこともあり、念のため戦力を補強したい意図のようです」

 ルーチェが言うには、平和な海賊団には一つのしきたりがあり、それは「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」というものだった。

 簡単に言えば、平和な海賊団頭領は常に戦いの最前線に身を置く必要があり、逆に言うとそれができなくなった時が引退する時なのだという。

 それがつい最近、先代の頭領が戦いで負った傷が原因で戦場に立てなくなり、急遽代替わりをすることになったらしい。

 そして新しい頭領に就任したのがルイズだった。

 しかし彼女は十五になったばかりで、まだ戦場に立ったことがなかった。それもそのはずで、通常は二十歳になってから実戦を経験するのがしきたりだった。

 ルーチェが護衛するとした場合、一方で前線に立つ戦力が手薄になる。もちろん、ルイズの身に危険が及んでは元も子もない。

 そういった事情もあって、彼らは一時的でも戦力を欲しているという話だった。

「アタシの代わりに護衛してくれるでもいいぜ。ルイズも先輩に懐いているみたいだし」とはルーチェの言葉だ。

「それで、カノンはどう思う?」

「そうですね、私は一旦この街を出て——」

「違うわ。さっきの話、カノン個人はどう思うの?」

「……私、個人?」

「そう。カノンはいつだってあたしのことを考えてくれる。けどそういうのを抜きにして、カノンという個人はどう思ってるか、それだけ教えて欲しい」

「…………」

「あたしも、これ以上は何も言わないから」

「……私は——」

 答えようとしたところで、ふと()()に気付いた。

「——リズ様、こちらに足音が近づいてきます」

「宿の従業員、とかじゃないのね?」

「はい。武装した者の足音です」

 リズは立ち上がり、無言で腰の剣に手を掛けた。私も背中のナイフの感触を確かめた。

 足音は、ギシギシと音を立てながら次第に大きくなっていき、やがてドアの目の前で止まった。

 そして、ドンドンと乱暴に叩かれた。

「……どちらさまですか?」

 私は警戒心を保ったまま、ノックの音に応答した。

 そして、その相手は荒々しく叫んだ。


「おうアタシだ! 遊びに来たぜ!」

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