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ルーチェとルイズ

 控えめなノックの後、「失礼します」という言葉共に入室してきたのは、クレアだった。

「ギルドマスター、お客様をお連れしました」

「うん。ありがとう」

 ノアが応答すると同時に、鉄が揺れる音と共に背の高い、大柄な女性が入ってきた。

「頼もう!」

 入室して早々にその燃えるような赤髪の女性——ルーチェは威勢の良い声を上げた。

「おうおう、みなサンお揃いじゃねェか」

 ルーチェは部屋の中を見渡しながら、よく響く声で言った。

 途中、一瞬私と目が合うと、にやりと口角を上げた。

「そンで、そっちが噂に聞くリズペットサンかい? 一応初めまして、かな?」

「ええ。あなたの名前は聞いているわ」

「そいつは光栄だぜ。記念に今度手合わせ願いたいもンだな」

「嫌よ。めんどくさい」

「ハハッ、そいつは残念」

 にべもなくリズに言われ、ルーチェは苦笑いした。

「ところで、もう結論は出たのかい?」

「いや、まだだよ」

 ルーチェの問いに対して、ノアが応じる。

「ちょっとした行き違いがあってね。今ちょうど話していたところさ」

「おおそうかい。そンじゃ、ちょうど良かったってなもンだな」

 ルーチェはにやりと笑った後、私に目を向けた。

「詳しい話はアタシからするよ。その方が早いだろ? な、先輩?」

「……()()?」

 訝しげな声と共に、リズの目が少し鋭くなる。

 ルーチェとの関係は説明しにくいので、あまり余計なことを言わないで欲しいのだが。

「ところで、今日はキミ一人かい? もう一人連れてくると聞いていたけど」

「あれ? さっきまで一緒だったンだが、おーい、おーい!」

 ルーチェが叫ぶと、ドアの陰からこちらを窺う小柄な女の子が見えた。背丈はノアと同じぐらいだろうか。ペチコートのスカートにベスト型の胴着を着て、前をエプロンで覆っている。髪は束ねられて片側に垂らされていた。

「いつまで隠れてンだよ! ほら、こっち来い!」

 女の子は一瞬びくっとなった後、ドアの裏を飛び出し、小走りで今度はルーチェの後ろに隠れた。

 それを見届けて、クレアは一礼した後で部屋を後にした。

「すまねェな。ちょいとばかしシャイなんだ。悪気はねェから許してやってくれ」

「それは構わないんだが、その子は?」

「ン? ああ、そういやギルドマスターサンも会うのは初めてだったか」

「初めても何も、ボクはキミとすら会うのは初めてだけど……」

「カカッ、そういやそうだったな。どうも()()()()()()()()()()()()()もンでつい、な」

「……変なことを言う奴だね、キミは」

 ノアとルーチェはそう言って、お互いに苦笑した。

「おっほん。そンじゃ、一応自己紹介しとくかね」

 ルーチェはわざとらしく咳払いをして見せた後で、ノア、リズ、私の順番で目を向けた。

「アタシはルーチェ。ルーチェ・ダインだ。気軽にルーちゃんと呼んでくれてもいいぜ。そんでこっちが——」

 ルーチェは自身の後ろに隠れた女の子の首根っこを掴んで、前に引きずり出した。

「こっちがルイズ。ルイズ・シャーリーだ。アタシたち平和な海賊団(ピースフルパイレーツ)の頭領さ。ほら! 挨拶しな!」

「……あたし、ルイズ……」

 ルイズと紹介された女の子は聞こえるか聞こえないかというか細い声で、自身の名前を口にした。

「ほらルイズ! あそこにいるのがカノン先輩だ! ナメた口聞いたらただじゃおかねェからな!」

 そう言われて、ルイズはおどおどとした目で私を見た。

 何かする前に私の印象が悪くなる紹介の仕方はやめて欲しいのだが。

「あたしがリズペットよ。もう知ってると思うけど」

「ボクがノアだよ。よろしくね、ルイズちゃん」

 二人の照会を聞いたルイズは落ち着かないようにきょろきょろと目を泳がせた後、ルーチェの手を払った。

「おっ?」

 ルーチェが何か言う間もなく、ルイズは何故か私のところに走り寄ってきた。そして、私の顔を見上げ、何か言いたげにしている。

 私は膝を折り、ルイズに目線を合わせて言った。

「私がカノンです。よろしくお願いしますね」

 ルイズはこくこくと頷くと、私に背を向けてそのまま背中を預けるように身体を寄せた。

「へへっ。どうやらルイズも先輩が気に入ったみたいだな」

 ここまでのやり取りの中に、一体どこに気に入られる要素があったのだろうか。

「ねえ、あたしの勘違いかしら?」

 頭を掻きながら、リズが口を開いた。

「その子、あなたのところの頭領、って言ったように聞こえたんだけど」

「ああ、そうさ。それとも何かい? 天下のリズペットサンともあろう者が人を見た目で判断するってのかい?」

「一応、あたしはその子の振る舞いも見て判断しているつもりだけど……」

 リズはどこか釈然としない表情で、私のところに収まるルイズを見た。

 当のルイズは、私に寄りかかったまま、ぼんやりどこかを見ていた。

 見た目で決めつけるつもりはないが、私もこの少女が頭領だと言われても、少々信じがたかった。

「あー、ボクも含めて色々と言いたいことはあると思うのだけど、とりあえず話を進めてもいいかな?」

 ノアは軽く手を挙げて、話の主導権を取った。

「ギルド間交流というのもボクとしては望むところではあるけど、そのために遠くからはるばる来たわけじゃないだろう?」

「もちろんさ。そンじゃ、アタシから説明させてもらうぜ」

 そう言ってルーチェは説明を始める。

「まず、うちのギルドからおたくらに協力要請を出させてもらった。ここまではいいかい?」

「ああ。その要請の中でカノンを名指ししてる、ってところまでは伝えてるよ」

「そうそう。そんでさっき案内してくれた姉ちゃんの話だと、先輩はつい最近冒険者になったって話じゃねェか。ますますアタシらには都合がいいぜ」

「さっきからその先輩ってのはなんなのよ……」

 リズのぼやきは聞こえなかったのか、ルーチェは特に構わず話を続けた。


「そンで、先輩にお願いしたいのは化け物退治への協力さ。なに、吸血鬼に比べたら格段にチョロい相手だよ」

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