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顛末と得られたもの

 吸血鬼ミリを討伐してから数日後、リズと私はノアの待つ冒険者ギルドに集合していた。

 討伐後、少し期間が空いたのは、ノアなりの気遣いだったのだろう。

 ギルドマスターの部屋に立ち入ると、そこにはクラウス、そしてマリーの姿もあった。

「ひとまず、各々が持っている情報を整理して、事の顛末を知っておきたいと思ってね」

 ノアはそう切り出して、今回の事件の経緯をまとめ始めた。



 ノアの調査によると、盗賊団はどこにでも現れるような小さな集団だったらしい。彼らのような小物は基本的に街や村を直接襲うことはなく、単独の旅人や護衛のいない隊商を狙って小金をせしめるのが普通だった。

 そんな彼らが、どこで吸血鬼と接点を持つに至ったかは不明である。

 吸血鬼ミリの発言から、食料となる人間を確保するために人間を使う、という悪魔じみた発想を教えた者がいることはわかっている。しかしそれが吸血鬼同士で情報共有が行われたのか、それとも別に入れ知恵をした何者かがいたのかはわかっていない。

 捕えた盗賊の証言では、()()はある日唐突に現れたらしい。

——ニンゲン、連れてこい。そうしたら、お前ら、生かす。

 吸血鬼と事を構えるのがどういうことかはわかっていた盗賊団のリーダーは、我が身かわいさにその要求を承諾した。服従する振りだけをして途中で逃げ出すことも可能だったが、うまくすれば吸血鬼の力を背景に大きな見返りを得ることができるという欲求が勝ったのかもしれない。

 実質的に吸血鬼の傘下となった盗賊団は、その日を境に近隣住民の誘拐を行うようになる。

 最初こそうまくいっていたが、所詮は小物集団である。近隣の街や村が警戒を強めると、次第に人間の確保が難しくなっていった。業を煮やした吸血鬼ミリは自身で()()の確保に乗り出すようになり、やがて役立たずとなった彼らもその一部に加えられる結果となった。

 ギルドの依頼を受けて、クラウスら地を這う獣(クローリングビースト)が盗賊討伐に乗り出したのは、ちょうどその頃だった。

 地を這う獣(クローリングビースト)は盗賊団の拠点を襲撃した際、吸血鬼ミリと予想外の交戦状態に入った。その結果敗退したものの、クラウスの献身により何とか全滅を免れる。

 捕えられたクラウスは死を覚悟していたが、ここで盗賊団のリーダーがクラウスを人質に身代金を要求することを思いつく。それを吸血鬼ミリが()()()()で了承したことで、クラウスは辛うじて生きながらえることとなった。「彼らがまだ人としての欲求や功名心を捨てていなくて助かりました」とはクラウスの言である。

 身代金の額の大きさは当初私たちの中でも話題に挙がったが、捕えた盗賊の情報だと、単に吸血鬼の力を背景に気が大きくなっていただけで、特に深い理由は無かったらしい。

 捕えられたクラウスはその後、誘拐された人々が集められる「食糧庫」とは別の「牢獄」に移される。他の人間と一緒に「食糧庫」においていては、()()()()食べられる可能性があるという懸念からだった。

「牢獄」の中で、クラウスは見張りを買収することでまず脱出の算段を付けた。その時点ですぐにでも脱出できる状態だったが、障害となる吸血鬼への対処方法がなかったため、しばらくは留まる選択となった。見張りの盗賊曰く「吸血鬼ミリは基本的に『食糧庫』から外には出ない」ということだったため、そこから離れた「牢獄」はある意味で一番安全な場所だった。

 そこから先は、私たちが盗賊団の拠点に乗り込み、最終的に吸血鬼ミリを打ち倒す流れに合流する。また、吸血鬼ミリと盗賊団の関係が「決裂」し、盗賊が「捕食」され始めたのもちょうどそのタイミングだった。

 一連の事件で失われた命は多かったけれど、これ以上の被害を食い止めたという意味では上々の結果と言えるんじゃないか、とはノアの言葉である。



「それじゃあ、改めて言わせてもらうよ」

 事件の経緯について取りまとめが終わったところで、ノアは腰を掛けていた椅子から立ち上がった。

「まずリズペット。吸血鬼を打ち倒してくれてありがとう。今回はキミがいてくれたおかげで早急に解決できたよ」

「お礼ならカノンにも言ってあげて」

「わかってるさ。カノンもよくやってくれた」

「私はリズ様に付き従っただけですので」

「……相変わらず褒め甲斐がないな、キミたちは。まあいいけど」

 ノアは苦笑しながら、次はクラウスとマリーに向き直った。

「二人もありがとう。特にマリー、キミの勇気がみんなを救ったと思うよ」

「わ、わたしは別に……」

「ぼくは完全に助けられた側ですけどね」

 照れ笑いするマリーに苦笑いするクラウスと、二人の反応は対照的だった。

「それでも、だよ。結果としてキミたちには危険な依頼を回してしまうことになって悪かったね」

 そう言って、ノアは申し訳なさそうに片目を閉じた。個人としてのノアはだいぶいい加減な女だと思っていたが、ギルドマスターとしてのノアは意外とこういう気配りができる女性だった。

「さて、報酬の話はまた今度させてもらうとして。差し当たりまずカノンに渡したいものがある」

「……?」

 唐突に自分の名前が呼ばれて、思わず困惑する。自然と、周囲の注目が私に集まった。

「いいから。ちょっと手を貸してくれるかな?」

 手招きに応じる形で私が前に出ると、ノアは差し出した私の手を取り、()()を手の上に置いた。手のひらに金属片の感触が広がるのを感じた。

 手元には、手の中に収まる大きさの銀の札が握られていた。札には鎖のようなものが付けられていて、ネックレスのようにも見えた。

「……何ですか、これは?」

 私が質問を投げかけると、ノアは意外そうに眼を丸くした。周りを見渡すと、リズ、クラウス、マリーまでも一様に同じ顔をしている。

 どうやら、これが何かわからないのはこの場で私だけのようだった。

「カノン。それは冒険者に与えられるタグよ」

「冒険者……?」

「おいおい、キミがなりたいって言ったんじゃないか」

「いや、それはわかりますが……」

 何かすごく失礼な反応をされているが、私がわからなかったのは「何故今なのか」という部分だった。

 いくら吸血鬼の件でばたついていたとはいえ、自分で言ったことを忘れたりはしない。

「前に、キミに言った話は覚えているかい?」

「ええ、私が最大でDランクまでしか認定できない、という話でしたよね?」

 そして、私がDランク以下だと、ギルドの規定でリズと同じパーティーを組むことができない。そういう話だったはずだ。

「そうそう。そこにいるSランクのリズペットやBランクのクラウスの推挙を集めたとしても、それ以上は難しい。そう思っていた」

「馬鹿馬鹿しい話ね」

 後ろで、リズが口を尖らせる声が聞こえた。ある意味、予想通りの反応だった。

「だけど、今回キミにはランクCの発行が決まった。おめでとう」

 ノアが祝意を告げると、クラウスとマリーから拍手が聞こえた。振り返ると、リズは「まあ当然ね」と言いたげな顔をしていた。

「あの、さっきまでそれは難しいという話だったかと思いますが」

「ああ、そうだ。ただ前例が無いだけで、ルール上できないというわけじゃない。何しろルールは特に無いんだ。だから、冒険者として()()()()()さえあれば、あとはボクの領域ってわけさ」

「……なるほどね」

 ノアの説明に対し、リズが口を挟んだ。

「つまり、今回の吸血鬼討伐を、カノンの功績にしたってわけね」

 リズの言葉に、ノアは「そういうこと」と同意する。

「それに、前例の話をするなら、今回キミたちが成し遂げた吸血鬼討伐だって前例が無いことだよ。何ならもっと上のランクでも良いぐらいさ」

「ですが……」

「カノン、吸血鬼討伐の功績を自分の手柄にしてしまうことなら、気にしなくていいのよ」

 私の言葉に先回りして、リズが言った。

「今回、あの化け物を倒せたのはカノンのおかげだと思ってる。だから、それはカノンがもらうべきだわ」

「しかし……」

「いつか言ってくれたわよね。あたしの功績がカノンの功績だって」

 確かに、言った。

 私は「教団」のナンバーズとして、リズを助ける「役目」を持っている。

 リズを手助けするのが、私の目的であり、存在意義だ。

「だったら、逆でもいいじゃない」

「逆、ですか?」

「別にあたしの功績がカノンのものになったって、誰も困らないわ」

 そう言って、リズは私に笑い掛けた。

 正直、リズの功績が私のものになってしまうと、「教団」のナンバーズとしては困ってしまうのだが。

「リズペットもこう言ってくれているんだし、とりあえず受け取るだけ受け取っておいたらどうだい? どうしても気になるなら今後の働きで挽回すればいいさ」

「……まあ、リズ様やノアがそこまで言うのであれば……」

 やや腑に落ちない部分はありつつも、私は了承して銀のタグを首にかけた。胸元で銀色が光を帯びてきらりと光った。

「とてもお似合いですよ。カノン嬢」

「わたしと同じCランクなので、上位ランク風を吹かせられなくなるのは少し残念ですけど、でもカノンさまなら当然ですねっ!」

 二人の祝福の言葉を聞いて、少しむずがゆいような、そんな感覚を覚えた。

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