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Sランク冒険者の付き人、始めました  作者: むぎひと
第三章
36/102

作戦開始

 盗賊たちが根城としているのは、グレゴールからほど近いところにある、山中の洞窟だった。

 彼らのような無法者は人里からさほど離れていない、比較的近場に拠点を構えることが多い。略奪対象が近い方が都合が良いのもあるが、人間の居住地付近では魔物の脅威が比較的低いという理由もある。ただこれは因果が逆で、元々人間には魔物が少ない場所を選んで開拓してきた歴史がある。そのため、強力な魔物の移動に対応して居住地の移転や放棄が行われた例はいくつもあった。

「治安維持は為政者の役割」というのはノアの口癖だが、その「役割」に対処すべき国の軍隊は()()()()に投入されていることが多く、地方の治安維持にまで手が回っていないのが実情だった。そういう事情もあり、盗賊退治は基本的に冒険者の役割となっている。

「準備はいいわね?」

 暗闇の中、リズは私とマリーに問いかける。視線の先には、洞窟の前で薪を燃やす見張りの姿があった。人数にして二人。

「問題ありません」

「は、はいっ……!」

 私たちが同意すると、リズは小さく頷いた。

「——それじゃあ、作戦開始よ」

 その号令と共に、私たちは一斉に茂みから飛び出た。



 私たちには大きく分けて三つの目的があった。「人質の救出」と「盗賊の討伐」、そして「吸血鬼の退治」である。

 また、盗賊には近隣の街や村から人々を拉致した容疑があるため、人質の中にはクラウスの他にそうした人々も含まれる。

 今回、マリーの立てた作戦は単純だった。

 盗賊が寝静まった夜に急襲し、リズが吸血鬼を足止めしている間に人質を救出し、急いで離脱する。

 盗賊自体は大した脅威ではないが、足枷となる人質を早めに解放した方がこちらも動きやすい、という判断だった。

 突入メンバーは、斥候役として前回侵入したことのあるマリー。対吸血鬼用としてリズ。そしてそれ以外の担当で私の三人。あとの地を這う獣(クローリングビースト)パーティーメンバーは敵の拠点周辺で待機することになった。マリーの話では、拠点である洞窟は狭いということなので、大人数で行っても動きにくいという判断である。また、非戦闘員のノアは今回出る幕無しとして留守番が確定している。

「正面から乗り込む気かい? 大丈夫かな……?」

「あたしは悪くないと思うけどね。作戦はこれぐらいわかりやすい方が良いのよ。けれど——」

 ノアの懸念とは裏腹に、リズは一度同意した後で続けた。

「吸血鬼の取り扱い。そこだけは訂正を求めるわ。足止めじゃなくて抹殺するべきよ」

「えっと、頼もしいのは嬉しいんですけど、今回の目的は吸血鬼退治ではないですから、戦わなくて済むならそれに越したことは……」

「マリー。それは違うわ。吸血鬼は絶対に見逃しちゃいけないのよ」

 その瞬間、リズの眼光が鋭くなる。マリーはその言葉の意味がわからなかったようで、疑問の表情を浮かべていた。

「……まあ、作戦は理解したわ。マリー、あなたはクラウスを助け出すことに集中しなさい。後のことはこっちで何とかする」

 そう言って、リズは話を打ち切った。一方のマリーも釈然としない表情だったが、一旦の追及は諦めて「よろしく、お願いします?」と述べるに留めた。

「マリー、最後にいいかい?」

 話が途切れたタイミングで、ノアが口を開いた。

「今回は敵の拠点に乗り込むことになるんだけど、当然敵が待ち伏せしていることだって考えられる。そうなれば、相手は人質を立ててくるだろう。というより、ボクならそうする」

 そこまで言って、ノアは改めてマリーに向き直った。

「もしクラウスを人質に取られたら、キミはどうする?」

 マリーはすぐには答えなかった。それから、ゆっくりと口を開いた。

「そうならないための、侵入作戦です。でも、もしそうなったら——」

 そして、ノアをまっすぐ見据えて言った。

()()()()()()()()()()()()()()()



 マリーの話通り、洞窟内は狭く、二人か三人並んで立てるか、という程度だった。

 そんな狭い洞窟を、松明を持ったマリーを先頭に進んだ。

「……リズペットさま」

 マリーが振り返って言った。

「足音が聞こえます。それもたくさん、こちらに向かって走っている感じがします」

「あら。思ったより早かったわね」

 リズは少し意外そうに言った。

 盗賊の拠点で、奥から大勢の足音——それが示す事実は一つだった。

「わたしたちの侵入がバレたのでしょうか?」

「それはないと思うわ。見張りも声を上げさせる前に倒したし」

「だとしたら、一体……」

「マリー。ちょっとだけ予定が狂ったけれど、やることは変わらないわ。全員倒せば良いんだもの」

 そう言って、リズは剣を抜いた。

 マリーの疑念はもっともだった。確かに敵の拠点に侵入している以上、気付かれるのは時間の問題だったと言える。しかし、いくら何でも早過ぎる。

 その時、私は違和感の正体に気付いた。

「リズ様。……様子が変です」

「どうしたの?」

「マリーの言う通り、こちらに敵が近づいているのは間違いありません。ただ、それにしては彼らの足並みが揃っていない。これではまるで、」

「まるで?」

「……何かから逃げているかのようです」

 私が言い終えたところで、洞窟の奥から黒装束の男たちが飛び出してきた。

 だが、その表情は恐怖で凍り付いていた。

「ど、どきやがれえええぇ!」

 先頭を走る盗賊が私たちの横をすり抜けると、続く盗賊たちも一斉に走り抜ける。人数にして、二十人ほど。

 リズは無言で、横を抜けようとする盗賊の一人の首を捕まえ、手元に引き寄せた。

「……何が、あったの?」

 リズの問いかけに、最初は応答が無かった。終始目は見開かれ、震える口ががたがたと歯を鳴らしていた。

「き、吸血鬼だ!」

 しばらくして、男は言葉を発した。

「ボスもやられた! みんな、殺される!」

「人質はどこにいるの?」

「し、知らねぇ! だが、外から連れてきた奴らなら、たぶん『食糧庫』だ!」

 かろうじてそこまで言い終えると、男はリズの手を振り払い、悲鳴を上げながら私たちが来た方向——入口の方に走り去っていった。

「……カノン、どう思う?」

 リズは私を見ながら、意見を求めた。

「どうやら、彼らは化け物の制御に失敗したようです」

「そうね。全く迷惑な話だわ」

 そう言って、今度はマリーを見た。

「マリー。良かったわね」

「……良かった、ですか?」

 マリーが言葉の意味を測りかねていると、リズは続けて言った。

「これで盗賊の討伐——目的達成よ」

 言葉とは裏腹に、その表情は険しかった。

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