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新たな依頼

「さて、まずはお礼からさせてくれないか」

 ノアはおっほん、とわざとらしく咳ばらいをした後、そう切り出した。

「ドレイクドラゴンを討伐してくれたこと、ギルドを代表してお礼を言いたい。ありがとう」

「別に。報酬はちゃんと受け取ってるし」

「私はリズ様に従っただけですので」

「……こっちは真面目に感謝しているんだから、もう少し素直に受け取ったらどうだい。まったく」

 ノアは苦笑しながらも、構わず話を続ける。

「実際、助かったのは事実さ。ヴォイド山脈は交易の要衝で、あそこが止まって困っている人間も多かった。ボクらに討伐の嘆願もたくさん来ていたんだが、なかなか難度と報酬のバランスを取るのが難しくてね。まあ難航したのは主にスポンサーが未知の魔物に懸賞として出すお金を渋ったせいなんだけど」

「スポンサー?」

「偉い人ってことさ」

 依頼をする側である出資者と受ける側である冒険者を繋ぐのが冒険者ギルドの主な仕事である。一方でドレイクドラゴンのような危険な存在はギルドから自発的に出資者を募り、討伐の依頼を出すことがある。その場合、討伐対象の危険度に応じて報酬を調整することになるが、ドレイクドラゴンの能力には未知の部分が多かったので、報酬の妥当性を判断するのが難しかったのかもしれない。おおかた、実際に相対して脅威を肌で感じているギルド側と、そうでない出資者側——おそらく近隣の領主や貴族とで認識の相違があったのだろう。

「実を言うと、交渉自体はまだ継続中なんだ。キミたちには取り急ぎ討伐手当、つまり危険度に応じた基本的な報酬は渡しているが、交易路が復活したことの恩恵あたりも加味して彼らには揺さぶりをかけていく予定さ。もちろん、交渉結果によってはキミたちへの追加報酬も考えている」

「随分あくどいのね」

「できることは何でもするのが主義なんでね。それに、その方が身体を張ってくれたキミの従者も浮かばれるんじゃないかな」

 勝手に殺さないで欲しい、という感想と同時に、そんなことも知られているのかと内心舌打ちをした。リズが冒険者でもない私のことをギルドに報告するとは考えにくいので、これは「教団」の情報網なのだろう。彼女は自分が得た情報を「教団」に報告すると共に、自身も情報を得ているようだった。

「……面白くない冗談ね」

 ノアの不謹慎な言葉選びに対して、リズは反応薄くそう呟いただけだった。こういう時にリズは演技ができないタイプだった。

「それで、本題は何かしら?」

 リズは腕組みをしながら、突き放すような口調で言った。

 ノアに向けられたリズの目は鋭く、まるで目の前に現れた敵を睨みつけているかのようだった。

「まさかそれを言うためだけにわざわざ呼び出すほど、あなたも暇なわけじゃないでしょう?」

「察しが良くて助かるよ。それじゃあもう一つの用件について話そうか」

 棘のある言葉にもまるで堪えた様子もなく、ノアは変わらぬ調子で話を続ける。

「まず、リズは——」

 瞬間、私は咳払いをした。

 ノアに聞こえるようあからさまに、且つ、わざとらしく。

「……キミは、ダミアン・アーミテージという男を知っているかい?」

「……いいえ、知らない名前ね。カノンは?」

 リズはノアの反応に違和感を持ったようだったが、会話を止めるまでには至らず、私に水を向けた。

「いえ、私も初耳ですね」

 リズと顔を見合わせると、ノアはその反応を予想していたかのように「やっぱりそうだよねぇ」と言った。

「まあ、簡単に言うと『偉い人』だよ。さっきの話で言うところの、ね」

 そう言って、ノアはどこか苦笑したような表情を浮かべた。

 その男は偉い人——つまりどこかの領主か貴族なのだろう。そしてノアの表情から察するに、彼女にとっても気の進む話ではないということなのだろう。

「結論から言うと、今回キミたちに依頼したいのは彼の護衛だ。そして——」

 ノアはそこで一度言葉を止める。そして、私の方を見ながら、その続きを話した。

「今日はそのために、カノン——キミにも来てもらったんだ」


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