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果たすべき「役目」

――時間は前日に遡る。

「ナンバー十三。あなたは役目を果たさなければなりません」

 片膝を突き、頭を垂れた姿勢でその言葉を聞いた。役目、という言葉が小さいながらもしっかりと胸にのしかかる。「教団」にとって、それは己の使命を果たす時の言葉だった。

 私は目を閉じたまま、その続きを待った。

「冒険者リズペット・ガーランド。あなたの新しい主人の名前です。明日、城塞都市グレゴールに赴き、彼女と接触しなさい」

 人々が床に就き始める時間だったが、「教団」本部の大広間は一際輝く月の光で十分に明るかった。天井では二人の天使をかたどったステンドグラスが煌びやかに室内を照らしていた。

 その広い室内には、私ともう一人の人物。顔は暗いフードで覆われ、表情は窺い知れない。唯一、声質から年配の女性だとわかる程度だった。

 彼女、「教団」の「シスター」は続ける。

「あなたの役目は三つです。

 一つは彼女を守ること。何があっても彼女の命が脅かされることはあってはなりません。

 二つは彼女を導くこと。我が父の子供たる人々の夜を守るよう、彼女を正しい方向に連れて行きなさい。

 そして三つは――」

――監視すること。

 内心の呟きと「シスター」の言葉が重なった。

 世界の秩序を守るため、彼女の動向をつぶさに見守り、それを「教団」に報告しなさい。

 それらが、私に与えられた「役目」だった。

「『シスター』、一つお伺いしても?」

 一通りの話が終わったタイミングで、口を開いた。静寂の中で、場違いな私の声が響き渡る。

 相手の同意を待たず、私は続けた。

「何故、私なのでしょうか?」

 しばらく返答は無かった。本来、「儀式」の最中に役目の担い手が会話することは許されない。

 本来、私が選ばれるはずがないのだ。少なくとも今、このタイミングでは。

 静寂が一段落した後で、「シスター」は口を開いた。

「我が父の思し召しであり、我らが神父のご采配です。ナンバー十三」

 それは決まり切った、そしてわかりきった答えだった。

 どうやら、これ以上追及しても無駄なのだろう。

「謹んでお受け致します。我らが『シスター』」

 淡々と承諾の言葉を述べる。元より拒否する権利など私には無い。許された返答はただ一つだけだった。

「ナンバー十三。今からあなたはカノンと名乗りなさい。それがリズペット・ガーランドの従者の名前です」

 ただ、その後出てきた言葉は予想外のものだった。

「カノン。これはあなたに与えられた贖罪の機会です。ナンバーズとして役目を全うすることを期待します。もう二度と――」

――失敗は、許されませんよ?

 失敗、という言葉が一滴の水滴となり、水面に波を作った。

 胸の気持ちに蓋をしながら、私は立ち上がった。

「――すべては、(オムニア・)我が父のために(プロ・パトレ・メオ)

 私は胸に手を当てて誓いの言葉を述べると、踵を返して広間を後にした。

 一瞬だけ月光に照らされた「シスター」の表情は、やはり伺い知れなかった。

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