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冒険者とギルド

「カノンは、ギルドマスターに会ったことある?」

 滞在している宿での食事中、リズは手を止めて唐突に口を開いた。

 リズ――本名リズペット・ガーランドは整った目鼻と長い金髪が特徴的な女性だった。外見は名のある令嬢のようにも見えるが、腰から下げた長剣がその印象を否定している。それでも美術品のように美しい姿から、同じく食事を採る周囲の人たちの注目を集めていたが、彼らは遠巻きに彼女の姿を眺めるばかりで、彼女の気を引こうと声をかける者はいなかった。それもそのはずで、この場において彼女の名前を知らぬ者はおらず、また彼女が剣を抜いたらどうなるかわかる者はいないのだ。

 彼女は、冒険者の中でもほんの一握りしか名乗ることを許されないSランクの実力者だった。

 そして、同時に私の主人でもあった。

「残念ですが、」

 私は主人の質問に対して、少し遠慮がちに答えた。

「私は冒険者ではありませんので」

 その回答の意味を理解したリズは「そっか、そうよね」と呟いた後、口元に手を当てて少し考えるような表情になった。

 ギルドは冒険者組合としての意味合いを持つ民間組織であり、主に依頼者と冒険者を仲介する役割を担っている。特定の国家に属していないことから、依頼者は自治体の長や裕福な商人から貴族まで幅広い。ギルドを介さずに個別に依頼を受けるフリーランスも一部存在するが、一般的に冒険者はまずギルドに所属するのが常だった。私とリズが滞在しているここ、城塞都市グレゴールにもギルドの支部が存在する。

 そしてギルドマスターはそうしたギルドの長であり、世界各地の拠点ごとにそれぞれギルドマスターが配置されていた。

「そのギルドマスターがどうかしたんですか?」

 聞くだけ聞いて黙ってしまった主人に向けて、私は質問を投げかける。

 リズは少しためらった後で答えた。

「ギルドマスターから呼び出しがあったのよ。今日の午後、グレゴール支部に来るようにって」

「それは、珍しいことなのですか?」

「あまり頻繁にあることじゃないけれど、だからと言って珍しいというわけじゃないわね」

「確かに、私がリズ様のお供をするようになってからも何度かありましたね」

「そう。そうなんだけど……」

 そう言って、再びリズは考え込む。その表情は悩んでいるというより、未知の事態に戸惑っているようだった。

「リズ様?」

「普段は、私が一人で行っていたのよ。先方は冒険者、つまりあたしに用事があるわけだし、第一カノンはあたしの関係者であってギルドの関係者じゃないもの。だけど、これを見て」

 リズは私に向かって一枚の紙を差し出した。それは、冒険者リズペット・ガーランドに宛てた手紙だった。

 私は手紙の文面に目を落とす。内容はリズが言った通りのもので、特段おかしなことは無かった。――最後の一文を除いては。

「お連れ様もご一緒に、ですか」

 私はその部分を読み上げた。

「今までこんなこと書いてなかったのよ。なのにどうして今回だけ……まるで、」

――カノンも連れて来いと言われてるみたい。

「リズ様、何を恐れているのですか?」

「別に恐れてなんか……いや、確かに恐れてるわね。わざわざカノンまで呼び出して、何かカノンを良くないことに巻き込んでしまうんじゃないかって、そんな気が――」

「私は大丈夫ですよ」

 リズの言葉を遮るように、私は言った。

「リズ様の言うように、私が呼ばれているかはわかりませんが、同行が許可されているのであれば私も参りましょう。ギルドマスターがどのような人物か興味もありますし」

「だけど……」

「別に敵対組織に上がり込むわけではないのです。そんな悪いことにはなりませんよ」

「確かにそう、だけど……」


 その後もリズは若干の抵抗を見せたが、最終的にはギルドへの出頭に私も同行することで落ち着いた。

 私はギルドからの呼び出し内容より、リズの態度の方が気になっていた。

――明らかに、この前の一件が尾を引いている。

 この前の一件とは、先日のドレイクドラゴン討伐のことである。最終的に無事討伐には成功したが、その時に私は重傷を負ってしまった。

 そのことを彼女はだいぶ悔いていたので、その影響で私に対して過保護になっているように見受けられた。

 このままでは、今後の依頼に支障をきたしてしまう。

 過去に犯した自分の失敗に対して内心舌打ちをしつつ、私は今後の対策を練ることにした。

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