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Sランク冒険者の付き人、始めました  作者: むぎひと
第九章【リズペット視点】
139/150

騎士団長アウスバーグ

 ノアと一緒に雑木林を抜け、村長の屋敷前に戻ったところで、人だかりができているのが見えた。全員、中心を取り囲むようにして、一様に視線を送っていた。

 

「あっ、リズさん、ノアさん」


 最後尾にいた一人の女性――カーラがあたしたちに気付き、こちらに振り返った。


「どうしたんだい? 先方と何か揉めてるのかい?」


「それが……」


 ノアが声を掛けると、カーラは困ったように答えた。

 

「だーかーらー! 何度も同じことを言わせるなね!」


 人だかりの奥から、レミリアの叫ぶ声が聞こえる。怒りというよりはどこか呆れたような、そんな声だった。


「……直接、聞いてもらった方が早いと思います」


 カーラもどこか苦笑いを浮かべ、あたしたちを人だかりの奥に促した。

 あたしはノアと顔を見合わせた後、一つ溜め息を()いた。ノアの話だと、レミリアが()()()()と会談中ということだけど、話はあまりうまくいっていない様子だ。


「……仕方ない。行こうか」


 意を決して、あたしたちはノアを先頭に村人たちの間をかき分けて進んだ。二列目、三列目と抜けたところで、人だかりを抜けて、中心に辿り着いた。そこには不機嫌そうに腕を組んで立ちはだかるレミリアと、地面に胡坐をかいて座り込む一人の屈強な男が、両手を後ろ手に縛られた状態で座っていた。その両手は拘束されている一方、背筋は伸びており、その姿は堂々としたものだった。

 

「お、二人とも。良いところに来たね!」


 すぐさまあたしたちに気付いたレミリアが、困り果てたような顔であたしたちを見る。先程まであたしとやり合ってたせいでボディスとスカートは土埃で汚れ、シャツの裾も破れているものの、その目は元の真っ黒な瞳に戻っていた。

 

「こいつ、さっきから同じことしか言わないね! お前らからも言ってやって欲しいね!」

 

「それは当方の台詞である」


 昨日村に訪れた騎士団長のアウスバーグが、泰然とした様子で言った。

 

「貴殿こそ、何を()()()()しているかは知らぬが、本当のことを言って欲しいと何度も申しておる」

 

「お前らの探し求める下手人はあーしだと言ってるね!」

 

「私は村長としての責任論を問うておるのではない。()()下手人は誰かと聞いておるのだ。貴殿のような華奢な婦人に、あのような凄惨なことができるわけがない」

 

「馬鹿にするなねっ! 一発ぶん殴られたいね!?」

 

「私を殴るのは構わぬ。……王国の使者たる私のことを信用できぬのは仕方ない。だが、誓って貴殿らの悪いようにはせん。だから、私には真実を教えて欲しいのだ」

 

「んがー! こいつめんどくさいねっ!」


 レミリアは地団駄を踏んだ後、うなだれながらあたしの元に歩み寄り、肩に手を置いてきた。

 

「……疲れているところ悪いね。こいつに、何とかあーしが下手人だってこと信じさせて欲しいね。……あーしはもう疲れたね」


 そう言い残して、レミリアは屋敷の奥に消えていった。去り際、「終わったら起こすね……」と言いながら。

 

「……やれやれだね。まったく」


 ノアは肩を竦めて言った。これは想像以上に難しい要求なのかもしれない。

 おそらくレミリアは、自身が吸血鬼であることを伝えていない。それを伝えていればここまで話は拗れていないだろう。だけど、レミリアが吸血鬼であることを告げるのは、この村が吸血鬼を匿っているということを王国中に喧伝して回るのと同義である。それは、村にとってあまりにも危険が大き過ぎる。

 

「とりあえず、話を聞いてみて、それから考えよう。キミは先に帰って休んでくれてて良いよ?」

 

「……そうさせてもらうわ。どのみち、あたしが役に立てる話じゃなさそうだし」


 一度顔を見合わせた後、ノアは険しい表情をしながらも、どこか腑に落ちない様子で首を傾げている男に歩み寄った。

 

「あーあー、ご機嫌よう。アウスバーグ殿?」

 

「むっ、また婦人か。この村は女性によって統治されておるのだな」

 

「ボクはノアさ。厳密にはよそ者なんだけど、まあややこしいからそういうことで良いよ」


 ノアが話し始めたのを横目に立ち去ろうとノアの後ろを通り過ぎようとした、その時だった。

 

「――待て。そこの貴殿は……()()()()()()

 

「えっ?」


 突然声を掛けられて、思わず声が出た。

 

「えっ、なに? キミら顔見知りなの?」

 

「いや、こんな男知らないわよ」

 

「貴殿は知らなくても私は知っておる。リズペット・ガーランド」


 アウスバーグは眼光鋭く、あたしの顔を見ながら言った。

 

「私は冒険者と名乗る者には疎いが、貴殿のことは音に聞いておるよ。Sランクという最上位でありながらそれに奢ることなく、滅私の気持ちで弱者たる庶民のために魔物共と戦う、まさに()()に相応しい人間であると」

 

「……あたし、そんな風に呼ばれてるの?」

 

「キミは自覚ないだろうけど、リズペットの名前に畏怖を覚える人間もいるのさ。ギルド勢力の弱い王国にまで伝わっているんだから、相当だと思ってもらっていい」

 

 ノアは少々呆れながら説明してくれるけど、あたしとしてはいまいち実感が湧かない。もちろんランクの認定をされているので評価を受けているのはその通りなのだろうけど、なかなか他人の評価というところまでは気が回らない。あたし知らないところで色々と交友関係を持っているカノンならわかるのだろうか。

 

「では、貴殿らの名を一方的に知っているのは不公平であろうから、私も改めて自己紹介させてもらおう」


 そう言って、アウスバーグは一つ咳払いをして、あたしたちに向き直った。


「我が名はオットー・フォン・アウスバーグ。アウスバーグ家の当主にして、グランヴェール王国騎士団長を務めておる。以後、よろしく頼む」


「アウスバーグ家……知ってるかい?」


「あたしも詳しくはないけど、相当な名家ね。以前から優秀な騎士団長を輩出している家系だったはずよ」


「ほほう。まさかリズペット殿にまで名が通っているとは。まさに光栄の極み」


 アウスバーグは感動してみせるかのように、わざとらしく唸った。この男は、いちいち反応が大袈裟だと思った。

 一方のノアは、やや訝しげにあたしの顔を見た後、ふむと唸った。


「ボクはあんまりだな。グランヴェール王国では血統ではなく、決闘で継承順位が決まると聞いたことはあるけど」

 

「むう。ノアといったか。貴殿もよく知っておるのだな」

 

「……それで、リズペットのことを知ってるならボクのことも知ってたりは?」

 

「……すまぬ。私が寡聞故、貴殿のような可憐な少女のことは存じておらぬ」

 

「ボクは成人女性だ!」


 顔を真っ赤にしながら、ノアは抗議した。普段は自身の少女体型をあまり気にしていないはずだけど、真顔で言われたのが相当癪だったのかもしれない。

 

「それで、リズペット殿程の人物が、何故この村に」

 

「あたしは……」


 言いかけたところで、ふと言い淀んだ。今この場において、あたしがここにいる理由はどうでもいいし、詳しく話してあげる義理もない。

 問題は、この男の目的を把握した上で、あたしたちの都合の良いように話を運ぶことだ。

 

「……別に良いでしょ。ちょっと依頼の()()()で立ち寄っただけよ」

 

「ふむ。()()()()()()、とな」


 アウスバーグは目を細くして、睨みつけるようにあたしを見た。その表情は、何かを見定めているようだった。

 

「あたしのことはどうでも良いでしょう? それじゃあノア、ここは任せたわよ」

 

「……はぁ。わかったよ。ここは()()()()()たるボクに任せておくといい」

 

「なに不貞腐れてるのよ。とにかく頼んだわよ?」

 

「むっ。リズペット殿は外されるのか。まあ仕方あるまい。その装備の劣化具合から察するに、今しがたも相当な魔物と対峙しておったのであろう。本来は我ら騎士団が動くべきところを、誠に申し訳ない」

 

「…………」


 あたしは眉を寄せながら、今しがた席を外したレミリアの気持ちを察していた。

 思わず口から出そうになった言葉を飲み込みながら、あたしはノア、そしてアウスバーグに背を向けた。この期に及んであたしにできることは何もない。

 ()()()()()()()退()()()()()()()()()()()

 そうして意識が別の方に向いていたため、次の彼の言葉の意図を図りかねた。

 

「ではリズペット殿。()()()()()

 

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