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Sランク冒険者の付き人、始めました  作者: むぎひと
第九章【リズペット視点】
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対決、レミリア③

 昨夜も聞いた鐘の音が響いていた。その音に、レミリアは明らかに動揺して動きを止めていた。

 あたしはすかさず、目の前で棒立ちになったレミリアに向かって剣を振り下ろす。レミリアは忌々しそうにあたしを見た後、後方に跳んで距離を取った。

 

「誰ね!? 誰が鳴らしてるね!?」


 動揺を露わにしながら、レミリアは叫んだ。当然、その答えを返せる者はここにはいない。レミリアもわかっているはずだけど、それでも口に出さずにはいられなかったのだろう。

 

「……なあ、」

 

「……()()()()()()()?」


 レミリアが話そうとしたのを制して言った。

 

「この戦いはどちらかが死ぬか、降参するまで続ける。そういう話だったはずよ。まだ、戦いは終わっていない」

 

「こんな戦いに何の意味があるね!?」


 レミリアはまるで正気に戻ったかのように言った。先程までの血に飢えた化け物の姿はなく、そこにあるのは責任感に溢れる村の長の姿だった。

 

「井楼の鐘は村の緊急事態ね! あーしにとって村のことは何よりも優先されるね! 鐘が鳴った以上、ここでこれ以上遊んでいるわけにはいかないね!」

 

「それはあなたの事情でしょう? そんなに行きたいのなら、あたしを殺してからにしなさい」

 

「……それなら、あーしが降参するね! お前の勝ちね!」

 

()()()。化け物を殺せるチャンスが目の前にあるのに、みすみす見逃すだなんてあり得ない」

 

「……っ! お前はどこまで死にたがるね!?」


 レミリアは苛立ちを隠さなかった。舌打ちをしながら、あたしをじろりと睨みつけている。

 

「そんなに死にたいのなら望み通りにしてやるね! 死んでから後悔しても知らんね!」

 

「ごちゃごちゃとうるさいわね! さっさと来なさい!」

 

「この強情張りが!」


 レミリアは叫んだ後、あたしに向かって一直線に駆け出した。作戦も何もない、ただ「相手を早く倒す」というだけの行動である。あたしはもう失ってしまった感情だけど、余程この村が大切なのだろう。

 あたしは剣を側頭部に構えた。まともに戦えば勝ち目はないけど、そうやって決着を急いでくれるならまだ勝機はある。


――相打ちは、あたしの勝ちだ。


 意を決して、あたしは一歩を踏み出した。全ての神経を目の前の化け物に向ける。次の一撃で、全てが終わる。

 

――カノン、ごめんなさい。


 心の中で呟いた、ちょうどその時だった。


 

「二人とも、そこまでだ!!」


 

 あたしの横から、パンパンと手を叩く音と共に、叫ぶような声が聞こえた。レミリアも意外だったのか、足を止めて声の先を見ている。その隙を、今度は突くことができなかった。

 視線の先では、ノアが神妙な面持ちで木々の間から姿を現しているところだった。

 

「鐘の音は聞こえただろう! 決着は付いた! この戦い、レミリアの勝ちだ!」

 

「ふざけないで! あたしはまだ!」

 

「ふざけているのはキミの方だ! ……今は、こんなことをしている場合じゃない!」


 あたしを遮って、ノアはレミリアに向き直った。

 

「レミリア! キミはこれ以上、戦いを続ける意思があるか!」

 

「……いや、ないね。あーしは村の方が心配ね。この場から解放してくれるなら、勝ち負けはどっちでもいいね。あーしは、既に降参の意思は示したね」


「わかった! それなら今は()()()()()()()()()()()リズペットに代わって、()()()()()()()()()()ボクが回答する! この決闘の()()()の立場から、その降参を受け入れる!」

 

「ノア! 何を勝手なことを!」

 

「さあ行くんだ! こっちの後始末はボクに任せろ!」

 

「わかったね。……恩に着るね」


 そう言い残して、レミリアは踵を返して走っていった。

 あたしの決着を、着けないまま。

 あたしは思わず両手を強く握り締めた。力を入れ過ぎて、腕がわなわなと震えた。

 

「……ノア! どういうつもりよ!」


 あたしは、行き場のない気持ちをノアにぶつけた。そうするしか、できなかった。

 

「……どういうつもりも何も」


 ノアは先程までとは一変して、落ち着き払ったように言った。

 

「ボクが止めなきゃ、キミは死んでいた。そのことを、逆に感謝して欲しいくらいさ」

 

「……っ! あたしはそんなこと望んでないっ!」

 

「わがまま言うのも大概にしろよ!」


 豹変したかのように、ノアは叫んだ。怒りに満ちた形相で、あたしを見ていた。

 

「キミはそれで満足なのかもしれないけど、残されたボクらはどうしたら良い!? キミに死んで欲しくないと思うボクらの気持ちはどうなる! そして、何より――」


 ノアは一気にまくし立てる。その目には、薄っすらと涙が光っていた。

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」


「――っ!」


 ノアの口からカノンの名前を聞いた瞬間、あたしは手に力が入らなくなり、持っていた剣を取り落とした。

 そして、目の前がくらくらとして足元が覚束なくなり、思わずその場に座り込んだ。

 あたしは、カノンとの約束を違えようとしていた。

 ずっと傍にいると。カノンが嫌だと言っても手放さないと。

 あたしは、とんだ嘘吐きだった。


「……あたしのこと、馬鹿な女だと思うかしら?」


 うなだれながら、誰に向けてとも言えない言葉を呟いた。目の前には、あたしの前まで歩み寄っていたノアが見下ろすように立っていた。

 

「……どうだかね。ある意味、()()()()()とは思うけどね」


「いつから、そこにいたの?」


「最初から、さ」


 ノアはあたしの質問に淡々と答える。

 

「キミがボクに黙って家を抜け出したところから、ずっとつけさせてもらったよ。井楼の鐘は、アイラに鳴らしてもらった。ボクが言っても、キミたちは戦いをやめないと思ったから」


「そうなると、緊急事態というのは?」


「いや、そっちはそっちで本当なんだけど、今のキミが気にすることじゃない」


 何でもないことのように言うと、ノアは右手を差し出した。


「とにかく、こういう無茶はこれっきりにしてくれ。キミにもしものことがあったら、ボクはカノンに顔向けができない」


 あたしは、目の前に差し出された手と苦笑したノアの顔を見比べた。すると急におかしくなって、ふっと笑いながらその手を取った。そしてノアに引き起こしてもらいながら立ち上がった。


「……あなたって、意外と義理堅いのね?」


「失礼だな。ボクはいつだって義理と人情に溢れているよ?」


「何よ、それ」


 あたしは吹き出しつつ、地面に転がった剣を拾い上げ、鞘に戻した。


「歩けるかい?」


「問題ないわ。……それと、ノア」


「ん、何だい?」


「……ありがとう。一応、お礼は言っておくわ」


 あたしの言葉に、ノアは意外そうに目を丸くした。あたしがそんなことを言うとは思わなかったのだろう。まったく失礼な子だ。


「……どういたしまして。まったく、お姉ちゃんは世話が焼けるんだから」


「いつまで続けるのよ、その設定」


 ノアが笑ったのに釣られて、あたしも笑ってしまった。

 とりあえず、今回の件はノアに貸しができた。


「ところで――」


 あたしは帰路を歩きながら、ノアに声を掛ける。


「さっき、緊急事態の方も本当だって言ってたけど、あっちは何が起きたの?」


「……キミが、この後変に首を突っ込まずに、大人しく休んでくれると信じて話すけど」


 そう前置いて、ノアはその緊急事態について話し始めた。


「昨日、村を訪れた王国の騎士団長、覚えているかい?」


「ええ、何とかバーグって言ったかしら」


「アウスバーグだよ。その彼が、また村に来たんだ」


「……昨日の今日で、随分気が早いのね」


「キミに言われちゃおしまいだが、その通りだ。それで、今頃はレミリアと面会しているんじゃないかな? だけど……」


「気になることでも?」


「まあ気になるというか、ちょっとおかしいというか……」


 そこでノアは少し言葉を濁した。

 そして、意を決したように今起きている事態を述べた。


「そのアウスバーグ氏が、何やら急ぎの用だと言って村への立ち入りを求めてきたんだよ。自分自身の両手を縛った状態でね」

 

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