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Sランク冒険者の付き人、始めました  作者: むぎひと
第九章【リズペット視点】
135/144

あたしがやるべきこと

 あの後、ノアの提案通り今後の対策は翌日また話し合うということで解散し、あたしも貸し与えられた家に戻っていた。

 

「意外だったね。まさかレミリアが吸血鬼だったとは」


 道中、ノアは驚き半分、感嘆半分といった声を上げた。


「……そうね」


 それに対し、あたしは短く返すことしかできなかった。

 今日は色々なことが起き過ぎて、今も少し混乱している。

 カノンがいたら、何と言ってくれるだろうか。

 

「なあ。()()()()()()()()()()()()


 あたしの反応を見て、少し訝しげに言った。

 

「ボクらの目的は調()()だ。()()じゃない」

 

「……わかっているわよ」


 あたしは投げやりに答える。ノアは、どこまで行っても合理的だ。こちらも戦う体制が整っていない以上、無闇に敵を作るのは得策じゃない。

 あたしだって、そのぐらいのことはわかっている。

 

「……それにしても、あの騎士団長氏、アウスバーグとか言ったっけ?」


 ノアは話を逸らすように、話題を変えた。

 

「領民の村を襲うような国の人間にしては、かなりまともそうだったじゃないか。ボクはてっきりトロールみたいな蛮族しかいないと思っていたよ」

 

「ええ。あの人は()()まともそうね。ただ――」


 あたしはノアに同意してみせた後で、さらに言葉を続ける。

 

「――国家の中で、一人だけまともでも意味ないのよ。ああいう人間でも、統治者(うえ)からやれと言われたら何でもやる。たとえ、どんな残虐なことでも」

 

「……前々から思ってたけど、キミって随分国家の枠組みとか、()()()()のお作法に詳しいよね。この前も、貴族のマリエルとダンスなんかしてたそうじゃないか。もしかして、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 ノアはふと思い付いたように言った。おそらく当て推量で、他意はないのだろう。

 だから、あたしも()()()()()()()()()()()返答する。

 

「……その騎士様が、何で身分を捨てて下野してまで冒険者なんかやってるのよ」

 

「まあ、それもそうか」


 そう言ったきり、ノアはそれ以上言及することもなく、また別の話題を話し始めた。この辺りの、人の触れられたくないところを嗅ぎ分ける嗅覚は大したものだと思う。

 その後、家に到着したあたしたちは、会話もそこそこにすぐさま床に就いた。特にノアは意外と疲れが溜まっていたらしく、横になってすぐにぐうぐうと寝息を立て始めた。

 その様子を見ながら、あたしも眠りに就いた。

 心の中で、()()()()を固めながら。



     *


 

 翌朝、目を覚ましたあたしは、寝ているノアを起こさないよう静かに家を抜け出すと、村長――レミリアの屋敷を訪れていた。

 屋敷に立ち入ると、奥の部屋――昨日あたしたちと膝を突き合わせた場所――の中央で毛布に包まっているモノがあった。がーがーといびきを鳴らしながら、時折もぞもぞと動いて姿勢を変えていた。

 あたしは寝ている塊に歩み寄ると、足で軽く小突いた。瞬間、いびきが止まり、塊が毛布の中で激しく動き始める。

 やがて、毛布の中からレミリアの顔が飛び出した。ほとんど開いていない目には、黒い瞳が宿っていた。

 

「……リズ、ね?」

 

「ええ。おはよう」


 レミリアはあたしの姿を認めた後、周囲をきょろきょろと見回した。そして窓から差す光に、開いていない目をさらに細くした。

 

「……勘弁するね……あーしはさっき寝たばかりね……」

 

「あら。随分寝ぼすけさんなのね」

 

「……あーしはあの後も見回りしてたね……」

 

「そうよね。()()()()()()()()()()なんだものね」

 

「……それで、何の用ね?」


 レミリアは諦めたように、あたしに向き直った。

 

「昨日の話なら、もう少し遅い時間にするね。見たところノアもいないね。お前、少し気が早過ぎるね」

 

「話をする前に、あたしには()()()()()()があると思ってね」


 言い終えると同時に、あたしは腰の剣を抜き、レミリアの顔に突きつける。レミリアは動じた様子もなく、あたしの顔と剣先を交互に見比べていた。

 

「……化け物殺しは、随分せっかちね」


 レミリアはふっと吹き出すように笑った。

 

「どうせ、あと数日もしたらあーしの首は飛ぶね。その僅かな猶予すらも、お前は待てないね?」

 

「ええ、そうよ。どうせ同じなら、早い方がいい」

 

 あたしは剣先をレミリアに向けたまま続ける。

 

「それに、あなたは()()()()()死ぬつもりなのかしら? 吸血鬼は首を落とされたぐらいじゃ死なない。そもそも、()()()()()()()()()()()()のかしら?」

 

「……何が言いたいね?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 言い終わるや否や、あたしはレミリアの首を目がけて剣を振るった。手加減などない、全力の剣戟。だがレミリアは毛布を払いのけながら後ろに跳びすさり、宙がえりして着地した。

 レミリアは真剣な顔になってあたしを見ていた。既に、目は開いていた。

 

「……あーしに、お前と戦う理由はないね」

 

「あなたにはなくても、あたしにはあるのよ。この()()()

 

「化け物というだけで殺すね?」

 

「そうよ。あなたが人間を喰らう吸血鬼である限り」

 

「勘違いするなね。あーしは人間なんて食べないね。血だって、少なくともここ百年は一滴たりとも飲んだことないね」

 

「それは一旦信じるとして、これからもずっとそうだと保証できるかしら?」


 あたしは剣を両手で持ち、側頭部に構えながら言った。

 

「自衛のためとはいえ、あなたは人間を殺した。そのこと自体はあたしにはどうでもいい。だけど、その時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 化け物は、()()()()()人間の敵であるべきだ。

 人間にはなまじ思考する能力があるので色々なことを考えてしまいがちだけど、生存競争を戦う種族には自身を危険に晒す可能性のある生物に対し、畏怖や憐憫を感じている隙間は存在しない。まして、人間の血肉を喰らう吸血鬼であれば尚更だ。

 今は食べなくても、この先ずっとそうとは限らない。

 今は人間と共存している吸血鬼が、これからもそうだとは言えない。

 その可能性が少しでも残っている以上、あたしには目の前の吸血鬼を見逃す選択肢なんて取れないのだ。

 

「……仕方ないね。お前がそこまで言うなら、()()()()相手をしてやるね」


 覚悟を決めたように、レミリアは言った。その表情には、()()余裕が見られた。

 以前戦った吸血鬼もそうだった。奴らは、あたしたち人間をただの食糧か、少なくとも取るに足らないものだと思っている。

 その余裕ぶっこいた姿勢が、何よりも腹立たしい。


「ただし、条件が三つあるね」

 

「化け物の言い分なんて聞いてあげる道理はないけれど、言ってみなさい?」

 

「まず一つ、あーしを殺したら、その首は確実に連中に引き渡すね」

 

「それは約束するわ。だってそのためにやるんだもの」


「……それを聞いて安心したね」


 そう言って、レミリアはふっと口角を上げた。

 

「そして二つ、ここは狭いね。それに次の村長のためにもあんまり壊したくないね。戦いは外でやるね」

 

「構わないけれど、良いのかしら? 吸血鬼は、日の光に弱いと思ったのだけれど?」

 

「程度の問題ね。お前らも水は飲むけど、水の中に沈めたら溺れ死ぬね。それと同じことね。少しひりひりするけど、死ぬ程じゃないね」

 

 あたしは思わず眉を寄せる。以前戦った小さな吸血鬼は弱点を多く抱えていた。日の光を避け、炎を忌避していた。しかし、目の前の吸血鬼は行動に何ら制約を抱えていない。昨日も焚き火の前で話をしていたけど、特段火を恐れるような反応は見せなかった。

 吸血鬼のことはまだわかっていないことも多い。

 ただ一つ言えるのは、レミリアは少なくとも百年以上生きているだろう、言わば()()の吸血鬼だ。

 よって、その実力は前回の比ではないだろうということだ。

 

「それで、どうするね?」


 少し考えこんでいたあたしに、レミリアが声を掛ける。

 

「あーしはお前とは戦いたくないね。今なら、寝ぼけたあーしの夢だったということで収めてもいいね」


「……馬鹿言ってないで、三つ目の条件を言いなさい」


「……やれやれ。人間は頑固ね」


 わざとらしく肩を竦めてみせると、レミリアは三つ目の条件を口にした。


「三つ、この戦いは()()()()()にすることね。一方が降参の意思を示して、それを相手が了承したら、戦いは終わりにするね。その条件なら、あーしはお前と戦ってやるね」

 

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