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Sランク冒険者の付き人、始めました  作者: むぎひと
第九章【リズペット視点】
132/140

レミリアの嘘

 話をするなら明るい場所が良いだろうということで、レミリアは村の中心で燃えさかる焚き火の前にノアとあたしを案内した。

 正直、聞きたいことは山程ある。何故あたしたちを村に留めようとしたのか。あたしたちを留める理由となった「用事」とは何か。そもそもどうしてこんな夜中に村長が自ら村を徘徊しているのか。そして、何で木の上から現れたのか、などなど。

 

「さて、最初に約束するね」


 焚き火から少し離れた場所――熱気は届かないけど光源は届く程度の距離を空けた場所――で、レミリアはおもむろに口を開いた。

 

「一つ。聞きたいことは交互に教え合うね。あーしが教えたらお前ら、お前らが教えたらあーしね」

 

「いいだろう。約束しよう」

 

「二つ、嘘はなしにするね。あーしも隠し事はしないね。お前らも誓えるね?」

 

「もちろんさ。ボクを信用してくれていいよ」


 ノアは腕を組みながら堂々と言ったけど、彼女の素性を知るあたしに言わせれば「どの口が言うのか」という話だった。いや、意外と約束は守っているのか? いつもふざけたことを言っている印象が強いので、そのあたりはどうしても良からぬ印象を持ってしまう。

 良からぬ印象で言えば、このレミリアも大概だ。色々と知っていそうではあるけど、今まで肝心なことは何も喋っていない。今回も嘘は()かないと言っているけど、それもどこまで信じて良いかは微妙なところだ。

 そんなことを考えながら、あたしはレミリアとノア、両方の顔を交互に見遣っていた。


「じゃあ、お前らからでいいね。何でも聞くね」

 

「そうかい? それじゃあ、キミの言う()()とは何だい?」


 水を向けられたノアは、真っ先に核心となる質問をぶつけた。

 レミリアはすぐに答えなかった。しばらく噛みしめるようにノア、それからあたしを見返した後、静かに口を開いた。


「……わからないね」

 

「おいおい、隠し事はしないんじゃなかったのかい?」

 

 ノアも思わず、といった具合に突っ込みを入れた。

 しかし、レミリアは至って真面目、という表情で答えた。

 

「隠してないね。本当に、何が起こるか予想つかないね」

 

「どういうことだい? 詳しく教えてくれないか?」

 

「質問は一つずつね。次はあーしの番ね」

 

「ちょっと、それはズルくないかしら?」


 今度はあたしが突っ込みを入れる番だった。しかし相変わらず、レミリアは動じない。

 

「順番は守るから心配するなね。それで、リズ。いや、()()()()()

 

「……やっぱり、あなたは……」

 

「他の奴は騙せてもあーしは騙せないね。リズペット。お前は正体を偽って何をしようとしてるね?」

 

「何って、あたしは――」

 

「それはボクから答えよう」


 言い淀んでいたところで、ノアが口を挟んだ。

 

「リズペットの名前を出すと大事になると思ってね。騙すつもりはなかったのさ」

 

「よく言うね。こっそり紛れ込もうとする魂胆が丸見えね」

 

「ははっ、否定はしないよ。でも、キミはともかく他の住民にとってはありがたかったんじゃないのかい?」


「口が減らない女ね。……でもそれはその通りね。うちの男どもはビビりだから、リズペットの名前を聞いたら震え上がっていたね」


 レミリアは肩を竦めながら、少し苦い顔をした。それは自分の村の男たちに対するものだったのか、それとも目の前の生意気な女に向けられたものだったのかは判別が付かなかった。

 

「それで、いつ気付いたの?」


 あたしは口を挟んだ。自分の話になったついでに、気になっていたことの一つを処理しておきたい気持ちになった。

 

「ん、それが次の質問でいいね?」

 

「……まあいいわ。さっさと教えなさい」

 

「最初から、お前はただ者じゃないとは思ってたね。立ち居振る舞いも洗練されてるね。何より、あーしに対して少しも警戒緩めてなかったね。下手を打ったら()()()()と思ったね」

 

 やはり、あの時の発言はただの勘ではなく、根拠があるものだったのか。

 あたしは思わずへぇと唸った。

 

「それがわかるあなたは、一体何者なのかしら?」

 

「おっと、質問は一つずつね。次はあーしの番ね」


 あたしの質問を遮り、レミリアは次の質問を()()()()()()()()ぶつけた。

 

「お前ら、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「そりゃあまず――」

 

「――()()()


 ノアが何か言いかけていたのを遮って、あたしは答えを返した。

 あたしにとって、それは自明の答えだった。

 

「奴らは人間の天敵なのよ。どんな状況でも、見つけたら殺すしかない」

 

「……一人で勝てるつもりね?」

 

「勝てなかったら()()()()()()()()よ」


 あたしは即答した。それもまた、当然の答えだった。

 

()()との戦いは生存競争なのよ。奴らを倒すか、あたしがやられるか。それしかない」

 

 あたしの言葉を、レミリアは黙って受け止めた。ノアもまた何も言わなかった。ノアからすると「いつものこと」であり、「また始まった」ぐらいに思われているかもしれない。遠くでぱちぱちと薪が燃える音が辺りに響いていた。

 やがて、レミリアはふっと笑った。

 

「……やっぱりお前、怖いね」

 

 素直な感想だったのだろう。レミリアはどこかおかしそうに、あるいはそういう答えが返ってくるとわかっていたかのように、にやりと笑った。

 

「でも、命粗末にする良くないね。お前を大事に思う人、いるはずね?」


 あたしはとっさに、一人の女性の顔を思い浮かべた。

 いつもあたしに付き従ってくれていた、一人の従者の顔を。

 あたしは思わず、右手を握る手に力を込めた。

 お前なんかに、何がわかるというのか。

 

()()()()()()()()()()()()()?」

 

「お、おいお姉ちゃん……」

 

「良いじゃないの。あたし、まどろっこしい駆け引きって苦手なの」


 何やら焦ったように口を挟むノアを退けて、あたしはレミリアを睨みつける。

 今度は、あたしが問いかける番だ。

 

「さあ、答えなさい。あなたにとって吸血鬼って()なのかしら? ()()? ()()()()()? まさか()()()だなんて言わないわよね?」

 

 あたしが言い放った直後、レミリアは突如表情を固くした。

 

「……ちょっと待つね」

 

「何よ、散々答えさせたんだから次はあたしの番でしょ?」

 

「そうじゃないね。……誰か来てるね」

 

「……何も聞こえないけど?」


 言いながら、念のためノアと顔を見合わせるものの、案の定ノアは首を横に振った。

 

「誤魔化してる……ってわけじゃなさそうだね」

 

「レミリアっ!」


 ノアが呟いたその時、裏返ったような声と共に、遠くから駆け寄ってくるアイラの姿が見えた。途中まで来て、あたしたちを見て驚いたような、どこか怯えたような表情を浮かべた。

 

「アイラ! 鐘楼の鐘を鳴らすね! あーしもすぐ行くね!」

 

「あっ、う、うんっ!」


 レミリアが鋭く指示を飛ばすと、アイラは一瞬戸惑いながらも、頷いて来た道を走って戻っていった。

 

「というわけで、すまないね。話の続きはまた後ね。お前らは家に戻るね」

 

「ちょっと、」

 

「そういうわけにはいかないんだよねぇ」


 あたしが言うより早く、ノアが口を挟んだ。

 

「状況はわからないけど、緊急事態なんだろう? だったら、ボクらも力になれる」

 

「……お前らはよそ者ね」

 

「そんなつれないこと言うなよ。その様子だと、どんな状況かはある程度()()がついているんじゃないのかい?」

 

「…………」

 

「今起きているのが、ボクらを押し留めた()()絡みなんだったら、ボクらにも知る権利はある。こっちもわけもわからずずっと引き留められちゃ困るんでね」


 ノアの挑戦的な物言いに、レミリアは眉を寄せた後、はあと溜め息を()いた。

 

「……お前、察しいいね。人から鬱陶しがられるタイプね」

 

「ありがとう。()()()()()()()

 

 ノアが不敵に笑うと、レミリアも釣られてふっと笑った。

 

「わかったね。あーしに付いてくるね。ただその前に、一つだけ質問に答えておくね」

 

「何よ。急いでいるんでしょう?」

 

「まあ聞くね。あーしの用事、何が起こるか予想つかない、言ったね」

 

「言ったけど、それがどうしたんだい?」

 

「あーしの村は、先日山賊に襲われたね」

 

「ああ、()()辛くも撃退したんだろう?」

 

「お前の言う通りね。()()()()()()()()()()()()


 レミリアは意味ありげに、後半部分を強調した。

 

「あーしは、お前らに嘘吐いたね。一つは、撃退なんかしてないね。()()()()()()()()


 そう言った後で、レミリアはあたしたちの反応を窺うようにあたしとノアを交互に見た。特に大きな反応が無いとわかるや否や、ふんと一つ鼻を鳴らした。

 

「……驚かないね。やっぱり知ってたね?」

 

「ああ、その通りさ。黙ってて悪かったとは思うけど、これも警戒心を煽らないための工夫だと思ってよ」


 ノアは小さく苦笑した後で、レミリアに向き直った。

 

「さて、ボクとしてはどうやって、も気になるところだけどそれは置いとくとして、それより()()、とは?」

 

「言葉通りね。()()があるなら()()があるね。二つは、()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ノア?」


 あたしは咄嗟にノアの顔を見た。するとノアも小さく首を横に振った。どうやらノアも知らなかった情報らしい。


「あいつらは、身なりこそみすぼらしくて、口調も乱暴な、立派な山賊ね。あーしも最初は追い払おうと思ってたね。だけど、倒したボスの身ぐるみを改めたら、とんでもないもの見つかったね」


 そう言うと、レミリアは上着のポケットに手を突っ込み、中の物を取り出して見せた。

 手の中には腕章が握られており、その表面には鷲の顔貌に獅子の身体を持つ神話上の生き物が刺繍されていた。

 それを見て、思わず「あっ」と声が出た。

 

「何だお姉ちゃん。知ってるのかい?」

 

「……あなたはいつまで()()を続ける気よ。……それより、これは……!」

 

「そうね。これはこの周辺を治める国家、グランヴェール王国の紋章ね」

 

「……まさか」


 事情を察したあたしたちに向かって、レミリアはその事実を突き付けた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


――その時、けたたましい程の鐘の音が村中に響き渡った。

 

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