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決戦、ドレイクドラゴン②

 ひとまず第一段階は突破した。

 リズが斬りつけた敵の背中から大量の血が噴き出すのを確認して、私も高台から飛び降りる。

 着地し、槍を構える頃には、リズは既に戦闘態勢に入っていた。敵であるドレイクドラゴンは二体で、最初の一撃で傷を負わせた個体も、動きはやや鈍くなっているように見えるものの、既に血は止まっており未だ健在だった。

「グオオオオオオオオオオオオオ!!」

 地面を揺らすほどの咆哮を上げながら、ドレイクドラゴンは前足のかぎ爪をリズに向かって振り下ろす。リズはそれを寸前でかわすと、返す剣でその腕を斬りつけた。わずかに血がほとばしるが、致命打には程遠い。追撃も可能だったと思うが、リズはすぐさま後ろに飛ぶ。直後、彼女が元いた場所をもう一方の腕が通過した。

 私の役目は後方からの支援だ。戦場を縦横無尽に駆け巡るリズの戦い方において、前線で戦うパートナーの存在はむしろ邪魔になる。正直忸怩たる思いはあるものの、私は引き続きリズに補助スキルを使用しながら戦況を見つめる。一応、相手の行動を阻害するスキルも使用しているが、身体が大きい個体に対しては効き目が薄く、効果は限定的だった。その間もリズは相手の身体に向かって剣を振るい続ける。

 リズの戦略は一撃離脱だ。基本的には相手の攻撃をいなしつつ、カウンターで一撃を入れる。それも当然で、相手は無尽蔵とも思える体力、それも複数体いるのに対し、こちらは一撃でも食らってはならないのだ。大地を砕くほどの腕力をまともに受けてしまったら、ただでは済まないだろう。

 そうなると、必然的に戦いは長期化する。

 ドレイクドラゴンは小さい個体に対する狩りのやり方も心得ているのか、数の有利を生かして的確に連携してくる。一方が攻撃している間は待機し、攻撃が終わったタイミングでまたもう一方が攻撃する。リズはそのいずれも回避し続けているが、その分反撃の機会は減ることになる。


 戦闘が始まってから一時間ほど経過しただろうか。リズは未だに致命の一撃を避け続けているが、次第に肩で息をし始めているのが見えた。これまで何十という剣撃を叩き込んできているものの、最初の一撃以降はあまり目立った成果が確認できない。

 正直、予想外の生命力だった。

 私の補助スキルも無限に使い続けられるわけではない。私かリズ、どちらかの体力が尽きたらこの戦いは終わりだ。その前に何か対策を講じる必要がある。

 せめて、リズが一対一の状況に持ち込めれば勝機はある。

 意を決して、私は駆け出した。

「カノンっ!」

 私の動きに気付いてリズは叫ぶが、構わず走る。

 一方のドレイクドラゴン——最初にリズが一撃を加えた個体の背後に回るようにして走りながら、槍を逆手に持ち替える。そして、無防備な尾に両手で突き刺す。すぐさま槍を引き抜くと、目障りな羽虫を叩き潰そうと鞭のように振るわれた尾を飛んでかわす。

 怒りに任せてこちらを振り返ったのを確認して、私は後ろに走る。これで追いかけっこが始まれば一方をリズから引き離せる。そういう作戦だった。

 作戦はうまく行った——そう思っていた。

 横目で背後を振り返ると、ドレイクドラゴンは突如として走るのをやめ、大きく息を吸い込んでいるのが見えた。

 そして次の瞬間、真っ赤な炎が吐き出された。

「——っ!」

 想定していなかった動作に驚きつつ、私は大きく横に飛んだ。燃え盛る炎は足元を焦がしながら通過したが、咄嗟の動きだったため受け身も取れず地面を転がる。

 急いで身体を起こすと、目の前にドレイクドラゴンの腕があった。

 太い腕の攻撃をまともに受けると、私の身体は宙に浮いた。

——これは、死んだかもしれない。

 そう思ったのもつかの間、背中に叩きつけられるような強い衝撃が走り、そのまま地面に倒れこんだ。

 全身がバラバラになるような痛みを受けて、皮肉にもまだ生きていることを実感した。

 視界の端では、私にとどめを刺そうと走り寄るドレイクドラゴンの姿を捉えていた。遠くでリズが何やら叫んでいるが、あまりよく聞こえない。

 私は奇跡的に持ったままだった槍を支えにして立ち上がると、目の前に迫った爪の一撃を倒れこんで回避する。

 空を切った爪は地面に刺さり、地面の土を大きく抉った。

——そして、大地が音を立てて崩れ始めた。


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