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Sランク冒険者の付き人、始めました  作者: むぎひと
第九章【リズペット視点】
129/138

レミリアと村長

「あーしはレミリアいうね。うちの男どもが失礼したね」


 先導して案内しながら、その女性――レミリアは明るい口調で名乗った。

 

「いやいや、警戒するのも当然さ。何たってボクらは怪しいからね」


 ノアは相手の調子に合わせるように、へらへらと笑った。こういう時、彼女の社交力というか、図太さみたいなものが多少眩しく映る。


「お前らが怪しいだけ違うね。最近、この村が賊に襲われたから、みんなぴりぴりしてるね」

 

「へぇ、それは災難だったね」


 意外そうに言ったが、ノアにとっては既知の情報である。当然とはいえ、ノアは知っていることを隠匿する方針にしたようだった。

 

「それで、大丈夫だったのかい?」

 

「ああ。みんなで頑張って、()()()退()()()ね。ケガ人は出たけど、犠牲者がでなかったのは救いね」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 ノアは軽い調子で聞き流しながら、レミリアの背中にじっと視線を遣っていた。相手が嘘を言っていないか、少しでも怪しいところがないかを探っているのだろう。この時点でノアが持っている情報――襲撃した山賊は()()()()()()()()()――と矛盾しているのだが、あたしには今のところ、特に嘘を()いているようには見えなかった。

 

「ところで、そっちのお前」

 

「何よ、あたしのこと?」


 急に話を振られて、思わず身構える。

 

「そうね。お前、()()()()()()()ね?」

 

 レミリアの言葉に、思わずはっとなった。

 もしかして、あたしのことを知っているのか?

 いや、それなら婉曲な言い方などせず、素直にあたしの名前を呼ぶはずだ。今のあたしはCランクとして名乗っている。Cランク自体はごくありふれた、平均的な実力でしかない。それをただ者じゃないと見破ったからには、あたしのことは知らないけど、あたしの嘘には気付いたということだ。

 一体、どこでバレたのか。見当も付かなかった。

 

「……何で、そんなことがわかるのよ」


 あたしは平静を装いながら、何でもないことのように聞き返した。


「ただの()、ね」


 レミリアは振り返りながら、頭を指でトントンと叩いた。


「この村に冒険者立ち寄るの少ないね。是非話を聞かせて欲しいね」

 

「まあ、話ぐらいなら……」

 

「いいね。約束するね」


 そう言って、レミリアはにかっと笑った。先程、この村の住人は排他的だと思ったけれど、このレミリアという女は随分馴れ馴れしい。タイプとしてはノアに近いと思った。そのせいか、その後の道中でもこの二人は相性が良さそうにべらべらと喋っていた。

 しばらくして、あたしたちは一件の家の前に到着した。

 

「――着いたね。ここが村長の家ね」


「……おお。こいつは()()()()


 ノアが思わず、といった具合に()()の声を漏らした。表情は少し引きつっており、それが言葉通りのものではないことが容易に伺える。村の住人を前に失礼な発言は控えて欲しいのだけど、今回に関してはあたしも同感だった。

 目の前には、見るからにボロボロな家が建っていた。木の壁は所々で朽ちており、茅葺きの屋根も年月が経ったのかだいぶ傷んでいた。一応、二階建てで建物の大きさはそこそこありそうなので、分類としては「屋敷」に当たるものかもしれない。

 

「こんなところですまないね。多少ボロいのはご愛嬌ね」


 こちらの心を読んだかのように、レミリアは先回りして言った。おかしそうに言うレミリアに釣られて危うく同意しかけたけど、初対面でそれはさすがに失礼過ぎる。さすがのノアも苦笑いするだけで、差し出された危ない橋を渡る度胸はなかったようだった。

 呆気に取られるあたしたちを尻目に、レミリアはおもむろに戸を開けて中に入っていった。地方の村では人の家に入る時に挨拶とかしないのだろうか。多少戸惑いながら後に続いて戸を潜ったけど、レミリアはこちらの心配などお構いなしにずんずんと先に進んでいく。

 

「頼もう!」


 あたしの後ろで入り口を跨いだノアが、何やら意味不明なことを叫んだ。

 

「……何よ、それ」

 

「いや、人の家に上がるんだから、一言断っておかないとかなって」

 

「だったらもう少しお邪魔する態度で臨みなさいよ……」


 会話もそこそこに、玄関から周囲を見渡した。レミリアは既に奥の部屋に行ったのか、その姿は見えない。

 とにかく、家の中は静まり返っていた。人の気配はなく、広い建物なだけに、余計に静けさが際立つようだった。玄関は不自然な程きれいに整頓されていて、あまり人の生活感というものを感じなかった。

 本当にここで合っているのだろうか。

 少し警戒心を強めながら、レミリアが待つ奥の部屋に進んだ。次いで、ノアもあたしの後ろに続く。

 奥の部屋では、レミリアが一人、胡坐をかいて佇んでいた。相変わらず、彼女の周囲に人影は見られない。

 

「まあ座るね。何もなくてすまないね」

 

「ああ、大丈夫さ。急に来たボクらが悪いんだからね」


 レミリアに促されて、ノアは一足先に床に座った。

 

「……ねぇ」


 立った状態のまま、何もない部屋でくつろぎ始めたレミリアを見ながら言った。

 あたしは、ずっと気になっていた質問をぶつけた。

 

「あたしたちは()()に会いに来たのだけれど、その村長はいずこかしら?」


 あたしが言うと、レミリアとノアは意外そうに目を丸くした。レミリアにはともかく、ノアにそういう反応をされるのは心外なのだけれど。

 

「意外だね。ボクはてっきりとっくに気付いていると思っていたけど」

 

「……あなたにまで言われると不愉快ね」

 

「そう怒るなね。ちゃんと説明するから、とりあえず座るね」


 内心嫌な気分になっていたところで、レミリアがふっと笑った。

 

「……仕方ないわね」


 レミリアに言われて、あたしもしぶしぶ床に腰を下ろす。

 この期に及んでは()()()()()()()は付いているのだけど、騙されたという気持ちが先行して、どうしても二人を見る目が鋭くなってしまう。

 

「さて。それじゃあ改めてご挨拶するね」


 レミリアは崩していた脚を正座に組み替えて、あたしたちに向き直った。

 

「あーしはレミリア。ペンネ村の村長をやってるね。客人、歓迎するね」

 

「ボクはノアだよ。そして、こっちがお姉ちゃんの――」

 

「……リズよ」

 

「ノアにリズね。良い名前ね。よろしく頼むね」

 

「よろしくついでに、いいかしら?」


 あたしが言うと、ノアは「やれやれ」と言わんばかりに肩を竦めた。誰のせいだと思っている。

 内心のいら立ちも重なって、どうしても口調が強くなる。

 

「どうして、わざわざ紛らわしい言い方をしたのかしら? あたしみたいな察しの悪い人間を騙して、何か得することでもあったかしら?」


 あたしの言葉を受けて、ノアとレミリアはお互いに顔を見合わせた。

 

「……ノア。お前のお姉ちゃんめちゃくちゃ怒ってるね。怖いね」

 

「ごめんよ。お姉ちゃん、真面目だから……」

 

「殴るわよ。特にノア」

 

「まあ落ち着くね。悪いと思ったけど、少し試させてもらったね」


 レミリアは申し訳なさそうに軽く頭を下げつつ、どこか面白そうに笑った。

 

「お前たちがまだ何者かわかってなかったから、探らせてもらったね。()()相手なら猫も被るけど、あーしみたいな()()相手なら本音が聞けると思ったね」


「……それで、何かわかったかしら?」


「ああ、わかったね。お前たちは()()()()()()()ね」


「だってさ。良かったねお姉ちゃん」


 そう言って、ノアは露骨な程にやついた表情を向けてきた。

 これは、一発殴ってもいいのだろうか。


「ふーん、で、根拠は?」


「勘ね」


「またそれなの……?」


「勘は大事ね。みんな馬鹿にするけど、直感は意外と当たるね」


 あたしの言葉に気を悪くした様子もなく、レミリアは続ける。


「お前らと話すのは楽しかったね。話すの楽しい奴に悪い奴いないね。だから、あーしはお前らを迎え入れるね」


 まっすぐな目でノアとあたしを見渡しながら、真面目な口調で言った。

 信用してくれたのはありがたいのだけど、ノアはともかくあたしは一体どの会話で信用を得られたのだろうか。


「それで、一晩泊まりたい、だったね」


「ああ、そうなんだ。もちろん対価は払うよ」


 そう言って、ノアは身を乗り出した。


「一泊で銀貨十枚、二人で二十枚でどうだろう?」


「むぅ……」

 

 ノアの言葉に、今日初めてレミリアの表情が曇った。


「……不満かい? 一応、都会ならこれで二、三日は過ごせる額なんだけど」


「おっと、すまんね。金額に文句があるわけじゃないね。ただ……ふーん、そうね……」

 

 レミリアは顎に手を当てて考え込んだ後、しばらくして顔を上げた。


「とりあえず、お前らの滞在は認めるね。ただし、条件は少し見直して欲しいね」


「へぇ。それは良いけど、どんな条件だい?」


 聞き返したノアに対して、レミリアはその()()を口にした。

 

「あーしからの要求は二つね。一つは、金はいらないから、お前らの()()を貸して欲しいね。そして、あーしたちの()()が終わるまで、この村にいて欲しいね」


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