表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sランク冒険者の付き人、始めました  作者: むぎひと
第八章
119/125

明かされた真相

 私は受け身を取ることもできないまま、うつ伏せで床に倒れ伏した。瞼が重く、意識が飛びそうになるのを奥歯を噛んで何とか耐えていた。

 

「カノンさま!? どうしたの!? 大丈夫!?」


 頭上から、フランの叫び声が聞こえる。応えてあげたかったが、声を出すのも、腕を動かすのも億劫だった。

 

「ちっ、そういうことか。おい! 貴様! そこにいるんだろう? さっさと出て来い!」


 シンシアが声を上げると、ドアがゆっくりと開く音が聞こえた。続けて、こつこつと床を鳴らす靴の音が響いた。

 腹部と肩を触る感覚の後、身体を仰向けにされる。ぼんやりとした視界の先には、心配そうに覗き込むフランの顔、そして、その背後に立つ()()()()の姿。

 

「おい! ()()()()()()()()! 説明しろ!」


 既に状況を察しているシンシアが、目の前に立つ人物――リラに向かって問いただした。リラは落ち着き払った表情で、私を見下ろしていた。

 

「……意外ですね、まだ意識があるとは。一応、トロールも一撃で昏倒させる程の薬なのですが」

 

「……リラ? 何を言っているの?」

 

「どこまでおめでたいんだ、貴様は!」


 シンシアは舌打ちをした後、フランに向かって叱咤の声を飛ばす。

 

「見ればわかるだろう! この女が()を盛ったんだ! そこで寝ているカノンにな!」

 

「……リラ、本当なの?」

 

「シンシア様、人聞きが悪いですよ」


 リラは微笑みを絶やさないまま、諭すような口調で言った。

 

「これは()()です。カノン様はお疲れのようでしたので、ゆっくり()()()になれるように、ね?」


「そんな……」


「本当は、フランにも同じものを飲んでもらう予定だったんですよ? けどヨルったら途中で怖気付いたみたいで、効果の薄いものをお出ししちゃったの。おかげで、フランは途中で意識を回復して、ぎりぎり生き延びてしまった。カノン様の様子だと、今回は()()()()やってくれたみたいね」

 

「嘘……だよね……?」


 フランは声を震わせながら言った。声と共に、私の身体を支える手にも震えが伝播していた。

 

「フラン、あなたが悪いんですよ?」

 

「ぼくが……?」

 

「あなたが、早く諦めてくれていれば。そして、無駄に抵抗せず早く死んでくれていれば、こんな手間をかけずに済んだのに。おかげで――」


 リラは私を見下ろして、口角を上げながら言った。

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そんな……どうして……!」


 フランは目の前で起きていることが信じられないのか、尚も懇願するように言った。

 

()()()()、ですか。ふふっ、これは異なことを言うんですね」

 

 リラは眉を寄せて、吐き捨てるように言った。

 

「フラン、あなたには()()()()があるんじゃないですか?」

 

「……やっぱり、()()は本当だったんだね」


 リラの言葉に、フランは悟ったように答えた。

 

「フレアさまがやっているような()()()はぼくじゃなくても、見る人が見ればすぐにわかることだ。それが見逃されていたということは、それを()()している人間がいるということだ。もしかしたらとは思っていたけど、やっぱり――」

 

「やれやれ。フレア様は詰めがお甘いのですよ。あなたのような存在を野放しになさるのですから。何度もフランを特別扱いするなと申し上げていたのですが……」


 リラは否定しなかった。つまりそれは肯定したということだ。

 要するに、フレアの完全犯罪は、リラという協力者がいて初めて成立していたのだ。


「さあフラン。()()()()()はここまでです」


 そう告げると、リラは修道服のポケットからナイフを取り出し、その刃を抜いた。そして慣れた手つきで持ち帰ると、切っ先をこちらに突き出した。


「カノン様がお待ちです。早く我が父の元に送って差し上げなければ」

 

「――ふん、私を無視するとはいい度胸だな」


 その時、それまで事の経緯を見守っていたシンシアが口を開いた。

 

「貴様らの事情など知らんが、私の前で狼藉は許さんぞ。それとも、この私とやり合うつもりか?」

 

「……シンシア様、良いのですか? カノン様はあなたのご主人――ヴァネッサ様の宿敵ではないのですか?」

 

「それとこれとは別だ。このような形で決着を付けることを、ヴァネッサ様は望んでおられない」

 

「あなたが見逃せば()()()()()()()()、としてもですか?」

 

「……どういうことだ?」


 シンシアが訝しげな表情を浮かべるのを横目に、リラはフランに向き直った。


「フラン、お伝えして差し上げなさい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを」


「何だと!?」


 リラの言葉を受けて、シンシアは目を見開き、フランの顔を見た。突き刺すような視線で、今にも手が出そうな顔だった。

 二人の視線を受けて、フランはゆっくりと喋り始める。


「……今回、フレアさまがやっていたのは地代収入額の偽造、つまり帳簿の書き換えだ。収入が減るということは、本部に上げる上納額が減るということだ。そんなことをすれば、当然本部には不審に思われるだろう。つまり……」


「つまり、何だ? さっさと言え!」


「つまり、フレアさまの不正を黙認する人間が必要だ。そしてこの場合、それを黙認できる人物と言えば――」


「ふざけるな!」


 そこで、シンシアが声を張り上げた。

 

「ヴァネッサ様がそんな不正を見逃すはずがないだろう! あの高潔なヴァネッサ様が!」

 

「もちろん、証拠はないよ。さすがに本部のことまでは調べられなかったから。証拠はないけど、()()()()()()()()()()()()


()()()()()()()()。シンシア様」


 満足したように笑った後で、リラはシンシアに向き直った。

 

「ここでカノン様とフランの二人を消せば、これ以上証言できる者は残っておりません。ヴァネッサ様が関わっていた可能性も、私たちの中に葬ることができるのです」

 

「……この私に、悪事の片棒を担げと?」

 

「シンシア様は()()()()()()()()()()()()()。これから私がやることも。ここで起こる出来事も。あなたは、()()()()()()()()()

 

「……貴様、ヴァネッサ様そっくりだな。その性格の悪いところが特に、な」

 

「シンシアさま!」


 懇願するようなフランの言葉が部屋に響く。シンシアは目を固く閉じ、両の拳を握りしめてわなわなと震えさせていた。

 やがて一つの結論を導き出したのか、握っていた手を開きながらこちらに背を向けた。

 

「……さっさと済ませろ」

 

「承知致しました」


「そんなっ! リラ、やめてよ! リラっ!」


 リラがゆっくりと歩み寄る。フランは私を抱きかかえながら、必死に叫んでいた。

 昨日までの、友人の名前を。

 

「フラン、恨むなら己の好奇心を恨みなさい」

 

「……フラン……」


 私は痺れが残る口を動かして、何とか言葉にした。

 

「……えっ?」

 

「……離れ……なさい……」

 

「そんな……」

 

「……いいから……早く……」

 

「……カノンさま?」


 私の目を見て、フランは何かを察したように、もしくは諦めたように頷くと、私を抱く腕を緩めた。

 その様子を見て、リラはにっこりと微笑んだ。

 

「大丈夫です。フランもすぐに後を追わせてあげますから」


 私の頭上で、ナイフを逆手に持ち、両手で振りかぶった。

 

「さようなら、カノン様……!」


 そして、リラはその手を勢いよく振り下ろした。


 

「――リラっ!」


 

 私は叫ぶと同時にフランの身体を突き飛ばし、自身も反対方向に転がった。リラの振るった刃は私の頭があった場所を通過し、床板に突き刺さった。

 私は転がった勢いで膝を付き、背中のナイフを抜いた。

 

「――えっ?」


 私の動きに、リラは目を見開きながらも、すぐさま刺さったナイフを抜き、私に向き直ろうとした。

 だが、私の方が一歩早い。

 私はしゃがんだままナイフを振るい、リラの手からナイフを弾き飛ばすと、リラの身体にしがみつくようにして体重をかける。咄嗟のことにリラは反応できず、私ごと床に倒れ込んだ。

 

「――ぐっ!」


 倒れた衝撃でリラが呻き声を上げるのを聞きながら、私はリラの首を左手で押さえる。()()温かい、温もりのある肌だった。

 私はすぐさま右手のナイフを逆手に持ち替え、リラの顔を目がけて振り下ろす――

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ