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Sランク冒険者の付き人、始めました  作者: むぎひと
第八章
117/123

無情な事実

 リラが呼んでくれた医者にあとの処置を任せて、私はフランの部屋を出た。

 部屋の外にはフレアを始め、修道院のメンバーが全員揃っていた。既に状況はリラから聞き及んでいるのだろう、普段は快活なナズナも含めて全員、鎮痛な面持ちだった。特にヨルは顔色が悪く、今にも倒れそうな状態に見えた。

 

「……カノン様、フランはどうなりましたか……?」


 一同を代表して、リラが口を開く。その場の視線が私に集まった。

 

「……ひとまず、一命は取り留めました。まだ混乱しているようですが、まずは安心して良いかと思います」


 私が言うと、その場に安堵の溜め息が聞かれた。

 

「カノン様、皆を代表してお礼を言わせて下さい」


 最初に口を開いたのはフレアだった。

 

「話はリラから聞きました。あなた様の迅速で、且つ勇気のある行動が私たちの大事な人間の命をお救いになったのです。御礼申し上げます」

 

「あ、あたしもあたしも! カノンさまありがとう! な、ヨル?」

 

「え? え、ええ。無事で何よりだわ……」


 明るく言うナズナに対して、ヨルの表情はどこか優れない。どこか体調が悪いのか、それとも。

 

「……ただ、喜んでばかりはいられませんね……」


 それまでとは対照的に、やや曇った表情でフレアが言った。

 

「今回はカノン様のおかげでたまたま助かりましたが、フランがそこまで思い詰めているとは思いもしませんでした。まさか、このような行動に出るとは……」

 

「フレア様、今回の件はあなたの責任ではありません」

 

「カノン様、お気遣いはありがたいのですが、これはやはりわたくしの――」

 

「いえ、そういう話ではございません」

 

「えっ?」


 私の言葉に、フレアは目を丸くする。

 

「……カノン様、やはりこれは……」

 

「ええ、その通りです」


 リラの言葉を受けて、私は改めて全員の顔を見渡した。

 

「ご安心のところ申し訳ありませんが、今回の()()についてお伝えしておかないといけないことがあります」

 

()()、だって?」


 私の言葉に、ナズナが反応した。

 

「その言い方だと、まるでフランを殺そうとした()()がいるみたいだけど、まさか……」

 

「ええ、その()()()ですよ」

 

 私が言うと、その瞬間全員の息を飲む声が聞こえた。

 そんな彼女たちに向かって、決定的な言葉を続けた。

 

 

「フランは自殺を図ったのではありません。()()()()()()()()()()()()()のです」


 

「……根拠を、お聞かせ頂けますか?」


 しんと静まり返った廊下で、フレアが口を開いた。

 

「フランの首にはロープの痕と、爪で引っ掻いたような痕がありました。とても苦しそうに、何とか首の締め付けから逃れようとするように」

 

「で、でも!」


 焦ったように、ナズナが口を挟んだ。

 

「あたしもやったことないけどさ、首を吊ったら思ったより苦しくてもがいた、ってのは考えられるんじゃないのか?」

 

「確かに、途中で生存本能が勝った、という可能性も否定はできないでしょう」

 

「だったら!」

 

「ですが、根拠はもう一つあります」


 ナズナの声を遮って、私は説明を続ける。ナズナの希望を一つずつ打ち砕いているようで、少しだけ心が痛んだ。

 だが、私は事実を告げなければならなかった。

 

「フランの足元には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですよ」


「そ、それは……」

 

「フランは、部屋の中央で足が床に付かない程の高さに釣り上げられていました。ジャンプして、ようやく縄に届くような高さにです。それなのに、近くには椅子も何もありませんでした。もちろん、身体を支えるような手すりなどもありません」


「……私も、フランの運動神経が良いという話は聞いたことがありません」

 

()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 私は敢えて強い口調で言った。事が起きてしまった以上、気休めやきれいごとを言っている場合ではない。ここにいる全員に、今の状況を正しく認識してもらう必要があった。

 たとえ、この中にフランを殺そうとした首謀者がいたとしても。

 

「……やだよ」


 しばらく黙っていたナズナが、絞り出すように言った。

 

「あたし、みんなを疑うのやだよ……」

 

「まだ、この中に犯人がいると決まったわけではありません」

 

「気休めはやめてくれよ!」


 ここに来て耐え切れなくなったのか、ナズナは感情を爆発させた。

 

「フランはただでさえ神出鬼没でどこにいるかわからないんだ! フランがどこにいるか知っているのはこの中のあたしたちだけだ! 他の奴にはそもそも無理なんだよ!」

 

「ナズナ、少し落ち着いて下さい」

 

「確かにあたしはフランのこと良く思ってなかったよ! でも、こんなことは望んじゃいなかった! こんなことは……!」


 そう言って、ナズナはぼろぼろと泣き始めた。溢れる涙を拭うこともなく、雫は頬を伝って流れていった。

 

「あたし、わかんないよ……実はあたしがやっちゃってたのかもしれない。あたしさえも知らないうちに……」

 

「……ヨル」


 それまで黙っていたリラが口を開いた。

 

「ナズナを部屋に連れて行ってあげて。あと、あなたも少し休んだ方がいいわ」

 

「わたしは……いえ、ありがとう。そうさせてもらうわ……」


 ヨルに付き従われて、ナズナは自室の方に歩いて行った。ナズナも心配だが、ヨルもかなり気に病んでいそうなので状態が心配だった。

 

「……それで、カノン様」


 リラが私に向き直った。

 

「単刀直入にお伺いします。私たちの中で、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「リラ!」


 リラの発言に、フレアが甲高い声を上げた。

 

「いけません! 仲間を疑うような真似は……!」

 

「フレア様。残念ですが、もうそういう次元の話ではないのですよ」


 フレアの訴えを、リラは冷静にはねのける。

 

「ナズナも言っていた通り、今回の犯行は私たち内部の人間にしかできません。フランの自殺ではないとすれば、私たちの誰かに犯人がいる。これは自然の摂理です」

 

「しかし……」

 

「さあ、カノン様。遠慮なさらず、はっきりと仰って下さい」

 

 リラのまっすぐな視線が私に向いていた。一方のフレアも、未だ釈然としない表情だったが、リラに合わせて私に目を遣った。

 

「……フランの話を聞かないと何とも言えない部分はありますが」

 

 私は一度目を閉じて一つ息を吐いた後、改めて目を見開いて言った。

 

「客観的に考えて、()()()でしょうね」


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