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2話 ミナミ風

気づいたら空を飛んでいた。青い景色が流れるように過ぎてゆく。




遠くで「どぉん」という、大きな音が聞こえた気がする。





「やべっ!!」


 地面がすぐそこにせまっていた。頭から落ちて死ぬところだったので、急いで風のクッションを作った。フウタは自分が風の民でよかったと安堵する。


 空を見上げるとフウタの故郷は見えなくなっていた。空に見たことのない白い物体がみえる。その白い物体は綿のようで、触ってみたくなる。たしか、それは故郷の空島より下にあっただろうか。


 フウタが落ちた場所には一面の草原が広がっている。遠くには森があって、もっと遠くには街のようなものも見える。でも、なにより風が気持ちいい。







 地上世界は地獄だという話は嘘のようだ。






 フウタはしばらく青空を見つめていた。暖かい日差し。風が奏でる草のいい音。もう、風の声は聞こえない。ここで寝てしまいたい。まるで地獄ではなく、天国のようだ。




「風…勇者………鳥…」






「……風の声?」


 遠くから歌声が聴こえる。高く美しい声。彼女が風に声をのせていたのだろうか。フウタは声の聴こえる方へと走り出した。


 人影が見えたので、声をかけた。


「おーい!もしかしてそれって、風の声ですか?」


 女性は驚いた顔で振り向いた。それと同時に茶色に少し桃色が混ざったような長い髪が揺れた。彼女は祭事に着るような特殊な服を着ていたが、まだ遠くにいたので、詳しくは見えなかった。


「た、あなたは旅人の方でしょうかー?!」



 彼女の質問に大きな声で答えようと思った時、視界が真っ暗になった。









「……あれ、これって起きた?大丈夫ですかー?」

「ん、ここは……」


 気づくとどこかの部屋の中にいた。風猫の街とは少し違い、花が多く飾ってあったり、豪華だったりした。いつも寝ているベッドよりもふかふかで、もう少し寝たくなった。でも、ここがどこかわからないのが不安だった。


「おはようございます。急にあなたが気絶するから私、びっくりしちゃいました。」


 ベッドの隣に座ってそう言ったのは、さっきの歌っていた女性だった。彼女はフウタと同じ程の年齢だと思う。とても可愛い顔で、スタイルもよくて、声も可愛いし、頭にさしてあるピンクの花もよく似合っていた。


 しかし、フウタにとって彼女は「得体のしれない存在」だった。なぜなら彼女には耳も尾も牙もないのだ。いや、正確には耳らしいものはついている。だがそれは横についていて、とても奇妙だった。もしかしたら悪魔かもしれないと思うと迂闊に喋ることはできなかった。


「旅人様は目覚めたかの?」

「ああ、はい!おばあさま、旅人様は目覚めました!」


 奥にある扉から老人が入ってきた。腰はすっかり曲がっている。


「わかった。ミナミ、時間をみなされ。」

「え、うへぇ?!!もうこんな時間!?謝らなきゃ!!いってきますっ!!」

「いや、わしらもいく。この旅人様も連れてこう。」

「………僕ですか?」

「ほら、おきなされ。」


 老人にいわれてフウタは起き上がった。もう少しふかふかベッドで寝ていたかったが、用事があるようなので我慢した。


「いたっ!!」


 足に激痛が走った。視界が真っ暗になった時、きっと転んだのだろう。痛い、ものすごく痛い。


「ミナミ、治すのじゃ。」

「はい、今日こそやってみます!」


 ミナミはフウタの足に手を当てた。そして、ちょうど一番痛い場所をおさえた。するとフウタの足には花が咲き始めた。


「風花再生……。」


 ミナミがそうつぶやくと、花はみるみる成長してゆき、ついには枯れてしまった。フウタは「おお!」と感嘆の声を漏らしたが、ミナミは悲しい顔をしていた。


「ごめんなさい、おばあさま。私にはできません。まだまだ修行不足です……。」

「ミナミ、一人前の巫女にはなれないぞ。」


 老人もフウタの足に手を当てた。そして老人が「風花再生」とつぶやくと、再び花が生えてきた。


 花は枯れずに緑色の光となって消えてしまった。


「ミナミ、次は頑張るんじゃぞ。旅人様、もう歩けるぞ。」


 フウタはためしに立ち上がってみた。全く足が痛くない。それどころか腕などの怪我も治っていた。





「さてとミナミ、空駆け角虫(そらかけつのむし)をよんでおくれ。」

「えっ!高いですよ!」

「遅刻するんだろう?早くしなされ。」


 老人にそう言われたのでミナミは急いで部屋を出た。ミナミが走るドタドタという大きい足音に老人は溜息をついた。


 



 しばらくしてミナミが帰ってきた。ミナミは息を切らして、焦った表情で何かを言おうとしていた。ミナミは窓の外を指さした。


「はぁ、はぁ、もうすぐそこに来ています……」


 三人が窓の外を見ると、巨大なカブトムシのような生物が空を飛んでいた。カブトムシというのは、空島の北西の森のあたりにたくさんいるのだが、ここまで大きいのは初めてみた。そして、カブトムシの上にはミナミ達のような、耳も牙も尾もない人が乗っていた。ここに住んでいる人達は、牙も尾もなくて、巨大なカブトムシに乗るなんて変わっている。


「ほら!早く乗るのじゃ!」

「えっ!乗るんですか?!カブトムシに?!」

「何言っておる!早く乗れ!」


 フウタは老人に無理やりカブトムシに乗らされた。老人、ミナミもカブトムシに乗り、親切にもフウタの荷物もすべてミナミが乗せてくれた。


 一番先頭に乗っていた男が「出発しまーす」と言うと、カブトムシに屋根がかかって、空は見えなくなった。それからカブトムシは空を飛びを始めたが、どうやら羽は屋根の外にあるらしい。そのカブトムシはまるで、フウタの知っているカブトムシではなかった。




「………カブトムシに乗るなんて変わってますね……。」

「……かぶとむし?」


 彼女らはカブトムシを知らない。


「僕たちが今乗っている生物です。」

「ああそれはね、空駆け角虫っていうの。ソラカケツノムシ。」


 ミナミは「もともと角虫っていう虫がいてね―――」と語り始めた。確かに、カブトムシを角虫と言っているのは納得できる。だが、フウタはそれでも「変わっているな…」と思っていた。

 



「花園へ到着しまーす!お金と身分証をご用意くださーい!」

「旅人様、お金は払います。身分証はありますよね?」

 




「ミブンショウ?」

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