表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

1話 凪

風がやんだ。

 とある空島に、「風猫族」という精霊が住んでいる。皆、猫の獣人のような見た目をしていて、風の魔法を使って生活していた。その空島には風猫族と植物以外の生物がいなかったせいか、彼らにとって「風」というものは必要不可欠となっていた。風は年中やむことなく吹き続け、時には季節をしらせたり、時には人を助けたりした。

 もちろん空島に住むフウタは、風猫族である。風と共に生き続け16年。父に似たたくましい体、今は亡き母に似た美しい顔立ち、次代風猫族族長にふさわしい者に、彼はなっていた。




「フウタお兄ちゃん!風の英雄ごっこしよ!」

「だめ!フウタお兄ちゃんはあたし達とおままごとするの!」

「フウタお兄ちゃん!どっちにするの!?」


 1時になり、巨木で町の子供達がフウタの取り合いを始めた。巨木で昼寝をしようとしていたフウタは邪魔をされたのにイラッとしたものの、優しい笑顔で答えた。


「喧嘩をするならどっちも嫌だなぁ。」

「俺、喧嘩しない!」

「えー!でも風の英雄ごっこやだぁ!」

「じゃあ、森へ採集に行かない?」

「わぁ、行きたい!」


 風猫の町は森に囲まれていて、採集をする時は大体北の森に行く。北の森は一番広くて、木こりもたくさんいるし、風車も建っているので一番安全なのだ。そして北の森は子供達が「掟」を破る確率が一番低い。


 

 北の森に到着した。


「よし、今日は林檎を集めよう。」

「お兄ちゃん、ルールは?」

「はい。ルール1、怪我をしないようにすること。ルール2、僕のもとから離れないこと。ルール3、林檎以外の果実は収穫しないこと。ルール4、お仕事をしてる人の邪魔をしないこと。ルール5、掟を破らないこと。わかった?」

「はーい!!」

「じゃあ、一番安全にたくさん収穫した人の勝ちだ!よーい、どん!」


 いつもどおり、みんなが一斉に走っていく。採集は2週間に1回ほどのペースで行っているが、毎回同じパターンで行動する。例えば、あの子はいつも遠くに行くし、あの子は5分ほどでフウタの元へ帰ってくる。……あれ、あの子は?


「フウタお兄ちゃん。こいつ、俺の弟なんだけど、掟を知らないらしい。」


 話によると、その子は親に「6歳になるまで遊びに行っちゃだめ」と言われていたらしい。そして昨日、6歳の誕生日だったそうだ。6歳まで遊べないのはそう珍しい話ではないが、大体そういう子は掟を知らない。つまり遊ぶなら、フウタが教えてあげないとならないのだ。


「掟、知らなかったら遊べないんでしょ…?」

「わかった。絶対に破らないって約束するなら教えてあげるよ。」

「うん!」




 実はこの場所は「空島」といって、空に浮いている。つまり、この陸には果てがあるのだ。そして、空に浮いているこの島の下には「地上世界」が広がっている。地上世界の陸は無限に続いていて、様々な種族が住んでいるらしい。だが、その地上世界に行って帰ってきた者は一人もいない。地上世界には人喰い悪魔が住んでいるからだ。


「じゃあ、地上世界に行ったら悪魔に食べられちゃうの?」

「そうだよ。だから、絶対にこの島の果てを探してはいけない。バランスを崩して落っこちちゃうかもしれないしね。」




 採集を始めて1時間ほど経った。


「みんなー!!帰ってきてー!」

「はーい!」


 随分と林檎が集まったが、いつもこの時期に採れるはずの金林檎はなかった。


「フウタお兄ちゃん!金林檎とれたよ!」


 遅れてやってきた一人が金林檎を持っていた。一つだけ実がなっていたのを、木こりのおじさんに風魔法で取ってもらったらしいが、今回取れた金林檎はそれ一つだけだった。


「他に金林檎を持ってる子はいないかな?」

「おかしいよ!こんなに金林檎が取れないなんてさ!」

「そういえば最近、風の調子が悪いよね。そのせいじゃない?」


 確かに最近風の調子が悪い。本来もうとっくに来ているはずの季節を知らせる風も、まだ来ていないのだ。しかし、それごときでこんな影響がでるのか?


「風、遅刻してる?」




その時、風がやんだ。





「フウタお兄ちゃん。これって……。」

「大丈夫。きっと遅刻してるだけさ。季節の風も、今日の風も。」

「……怖いよ…お兄ちゃん。」


 始めて風がやんだ感覚を知った。建物の中にいるような気持ちで、草の音もせず、風車も止まり、それは彼らにとって異常だった。


 それから3分ほどで風は戻ってきたのだが、まだ不安定だった。


「みんな、帰ろう。お父さんとお母さんに会いに行きなさい。」

「わかった。」


 子供達が一斉に走っていく中、フウタも自分の家へと戻った。




「父さ……族長!」

「わかっている。異常事態だ。」


 フウタの父は凄腕の風魔法使いであり、風猫族の族長だ。だが、族長でさえも知らない異常事態だった。


「族長、風の声を聞いています。」

「待ちなさい!フウタ!」


 族長の「待て」という言葉も無視して、フウタは外へ駆け出した。外にはもう誰もいない。みんな異常を察して家へ帰ったのだろう。そう思いながらフウタは島の果てへと走ってゆく。


 これは一部の人にしか知らされていない話なのだが、南の果ての方に、大昔の遺跡があるらしい。そして風に異常があった時に遺跡へ行くと、風の声が聞こえるそうだ。


「フウタ!止まれ!果てに行くな!」


 族長は風の魔法を使って、フウタを足止めする。だが、フウタは風の加速魔法を使い、駆け抜けていった。




 やっと南の森に着いたが、もうフウタは息切れていた。


「フウタを捕らえろ!」


 いつのまにか追ってきているのは族長だけではなくなっていた。それはそうだ。掟を破ろうとしている者がいるから。しかし、大人達がフウタを捕まえようとすると、フウタは風の盾を作り、大人達を弾き返した。


「フウタ、なぜ掟を破る。」

「………。」

「我が息子よ!なぜ果てへと向かうのだ。」

「風が助けてって言っている。僕はその声を聞いてあげたいんです。助けたいんです。」


 フウタの目には涙が溜まっていた。


「父さん、聞こえてましたか?数日前から風は助けを求めていたんです。今日風が止まったのも、限界を知らせるためだったのです。僕はこうやって遺跡へ行ける機会を今か今かと待っていました。」

「……そんなはずない。風は道具だ。感情も助けを求める声もあるはずがない。だから、だから戻ってきなさい。」


 風は道具、これは事実ではある。族長もそんな事は言いたくなかった。風と共に生きる種族であるからこそ、そんな事は言いたくなかった。だが、愛する息子を守る為には言わなくてはならなかった。もう、誰も地上世界に行ってほしくない。妻のようになってほしくない……。


「父さん、必ず帰ってきますから。風がまたやむ前に僕は行きます。」

「まて、フウタ。おい、君たち!フウタを捕らえろ!」


 しかし誰一人動かなかった。いや、動けなかったと言うべきか。全員が金縛りにあったような感覚だった。天から誰かが「風の勇者様の邪魔をしちゃいけないよ」と言っていた。




 遺跡には着いた。だが、風の真の声は聞こえなかった。フウタは一生懸命に風の声をを探る。一生懸命ながらも慎重に、風に飛ばされて果ての方へと行かないように。


 風がびゅうびゅうと吹き荒れる。また、不安定になっているのだろうか。風の助けてという声の中には、「いいつけを守らないのが悪いんだよ」という声が混じっていた気がした。


「大丈夫。僕は次代族長だ。こんなところで怯えてどうする。」


 そう独り言を吐いた。





「次代族長が掟を破ってどうする。」

「こんなとこまで来たら、地上世界に落っこちちゃうよ。」

「助けに来て。」

「頑張れ。」

「族長を継ぐのに、死んだらどうするの?」

「フウタ。君の味方だよ。」



「どうせ掟を破るなら……」



 ああ、風の声がうるさい。こんなにはっきり聞こえたのは、はじめてだ。風はいつでも僕の味方だ。いつでも僕の味方らしい言葉を吐く。そうフウタは思った。




びゅうと強風が吹いた。




 この町でいう「強風」というのは、人が飛ばされるほどの風である。なのでフウタは少し飛ばされ、急いで木にしがみついた。


 




 思わず声が出た、と言いたかったが、声すらもでなかった。


 少し向こうに、陸のない場所があったのだ。その下にも陸はなく、奈落の底まで続いているように、下までなにも見えなかった。本当に奈落に続いているのかもしれない。


 ここで落ちたら「風」を助ける事ができない。そう思い、フウタは果てから逃げた。


 怖い。風の声も、地上世界も。フウタは地上世界に行ったものが帰ってこないのを知っている。でも、風の声は地上世界から聞こえてきた。




「母さん。僕はどうするべき……。」





また、強風が吹いた。

キャラ紹介


名前―フウタ

種族―風猫族

出身―風の国の風猫の町

見た目―灰色の毛並みが特徴。風のマントと、何でも入る魔法のかばんと、羽根がついた帽子を身につけている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ